3月25日のメルマガの抜粋です。
先日、運用業務の登録申請をしようとしている会社から、「常務に従事するとはどういう意味でしょうか」という質問を受けました。
質問は、「常務に従事する」という要件を満たすためには、週3日の出勤でも良いのか、時間は1日3時間でも可能かという内容でした。
運用業務登録申請者は、監督指針に基づき、「常務に従事する役員が・・・コンプライアンス及びリスク管理に関する十分な知識・経験を有すること」が求められています。
登録申請者は、これに該当する者を確保していない場合には、登録拒否要件に該当し、登録を受けることができません。また、既に登録を受けている運用業者が、これに該当する者を設置していない場合には、登録取消し要件に該当し、登録を取り消されても文句が言えません。
ここで問題となるのは、「常務に従事する」の意味です。「常務」ですから、本来、会社のビジネスを推進するために日「常」的に必要となる業「務」に従事する役員のことを指しているはずですが、実務的には、「常勤」と同じ意味と理解される場合があります。
いずれにせよ、必ずしも、会社の役職員が、毎日通勤することが常態とは言えなくなった今日、「常務に従事する」の意味を考えることは、登録申請者にとっても、既存の金商業者にとっても、重要な問題であると考えます。
まず、「常務に従事する」と同じ意味にとらえられることのある「常勤」とはどういう意味かということについては、会社法の常勤監査役の意味が参考になります。
会社法は、監査役会設置会社に対し、3名以上の監査役を設置し、このうち過半数は社外監査役を設置することを求めていますが、同時に、監査役会は、常勤監査役を選定することが求められています。
常勤監査役を設ける趣旨は、常勤監査役に、非常勤監査役に対して、会社の業務等に関する情報を伝達させることにあります。
法的安定性の確保の観点から、金商法も監督指針も、会社法と同じ用語を使用した場合、会社法の用語の意味から離れて、それらの用語に別の意味をもたせることは考えにくいため、「常務に従事する」を、「常勤」と同じ意味であると考えると、金商業者で常務に従事する役員も、非常勤役員に対し、何らかの情報伝達機能を有することになりそうですが、既述の通り、「常務に従事する」とは、会社のビジネスを推進するために日常的に必要となる業務に従事することを指しますから、「常務に従事する」の意味は、やはり、「常勤」とは異なる意味であると考えるのが自然であると思います。
監督指針がここでいう、「日常的に必要となる業務」、すなわち「常務」とは、コンプライアンスとリスク管理業務であることは言うまでもありません。
すると、一項証券運用業者のように、毎日、取引が頻繁に行われる運用業者の場合、「日常的に必要となる業務」は、日々のコンプライアンス、リスク管理上の質問に回答することや指示を出すことに加え、監督機能として、毎日の取引記録を確認できることなりますが、これらの業務は、出社しなくても遂行可能です。
また、二項証券運用業者のように、取引が頻繁に行われるわけではない運用業者の場合、「日常的に必要となる業務」は、日々のコンプライアンス、リスク管理上の質問に回答することや指示を出すことに加え、監督機能として、投資委員会やリスク管理委員会などに必ず出席し意見陳述をすることになりますが、委員会の開催日など、特定の日にのみ出社すれば職務を遂行することが可能です。
こう見てくると、「常務に従事する」の意味を、出勤や出社の頻度や会社への滞在時間の長さを尺度して判断する必要はないことになりますし、働き方が多様化している中、このような尺度を判断基準とすることは無理であると考えます。
最終的には、「常務に従事する」の要件を満たしているかどうかを判断するのは、登録審査権限を有する財務局等になりますが、金商法施行当時であればともかく、現在における考え方としては、出勤の頻度や会社滞在時間の長さなどによらず、常務に従事する役員は、「常務に従事する」状態、すなわち、運用業者のコンプライアンス、リスク管理担当役員として、「日常的に必要となる業務」を遂行することが可能である状態にあれば、良いように考えます。
ただ、ある金商業者の常務に従事する役員が、別の金商業者の役員や使用人を兼任できるかという話は別の話で、金商業者のコンプライアンス、リスク管理担当役員である以上、特定の金商業者における職務に専念すべきであると考えます。
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