有価証券の売買


株券や不動産信託受益権など有価証券を売買することは、金融商品取引業ですので、金融商品取引業者として登録を受けなければ行うことができません。もっとも、「業」として行わない限り、金融商品取引業にはなりません。では、「業」とは何でしょうか。

<金融商品取引法の「業」の意味>
金融商品取引法施行前の証券取引法では、有価証券の売買を「営業」として行うことは証券業、金融商品取引法でいう金融商品取引業であると定義されていました。営業とは、営利を目的として行う業のことです。他人から手数料をもらって儲けよう、利益を上げようとして行う場合のみを「証券業」としていました。

ところが、金融商品取引法では、有価証券の売買を営業としてではなく、単なる業として行う場合も金融商品取引業であると修正されています。他人から手数料をもらって儲けようとする意思がなくても、有価証券の売買をすることは金融商品取引業になるので、内閣総理大臣の登録を受けなければならない、もし登録を受けないで行った場合には3年以下の懲役としました。

ここで「業」とは、反復継続して行うことを意味します。要するに、有価証券の売買を繰り返し行うと、営利を目的にしなくても業になります。

個人投資家の売買
「個人投資家が株券の売買を繰り返し行うと金融商品取引業になるの?」

金融商品取引法では、個人投資家が株券の売買を繰り返し行うことも金融商品取引業になってしまいます。でも、それでは誰一人、自由な株券の売買ができなくなって、株式市場が成り立たなくなってしまいますよね。そこで、業を解釈する必要が出てきました。

結論からいってしまうと、個人投資家が証券会社に株券の売買の注文を出している限り、業にはなりません。金融庁はこのことを「対公衆性」という言葉を使って、対公衆性が認められると業、対公衆性が認められないと業ではないといっています。対公衆性という言葉はわかりにくい、というかわかりませんが、少なくても、証券会社に注文を出している限りは、対公衆性は認められないと考えられます。

逆にいうと、証券会社に注文を出さないで、自分の持っている株券を他人に繰り返し売ったり、他人の持っている株券を繰り返し他人から買ったりすることを繰り返していたら、明らかに業になり、金融商品取引業者としての登録が必要になります。

金融機関の売買
「銀行が株券を繰り返し行うことは?」

金融機関の売買も個人投資家の売買と同じです。証券会社に株券の売買の注文を出していれば業になりませんが、証券会社を通さずに、他人から株券を買ったり、他人に株券を売ったりすることを繰り返せば業になりますので、金融商品取引業者として登録が必要です。もっとも、この登録は政策的な意図で、法律で禁止されています。

<宅建業者の不動産信託受益権の取引>
「宅建業者が不動産信託受益権を売買することは?」

宅建業者が不動産信託受益権を売買する場合も同様です。第二種金融商品取引業の登録を行っている会社に売買の注文を出していれば業にはなりませんが、それ以外の場合は業になり、第二種金融商品取引業の登録が必要です。

不動産信託受益権を金融商品取引業者から譲り受けて、他人に譲渡するときには金融商品取引業者を通さないで譲渡したり、逆に、金融商品取引業者に譲渡する不動産信託受益権を直接他人から譲り受けたり、あるいは、譲渡も譲受けも金融商品取引業者を通さないで繰り返し行ったりすると、金融商品取引業になりますので、第二種金融商品取引業の登録がないと3年以下の懲役です。

自己のポートフォリオの改善
「自己のポートフォリオの改善のために行うことは?」

金融庁の考え方(いわゆるパブリックコメント)に「自己のポートフォリオの改善のために行う取引は業に該当しない」と誤解を与える金融庁の回答があるため、この質問を受けることが多いですが、「自己のポートフォリオの改善のために繰り返し売買を行う」とは、金融商品取引業者を通して売買を行うことが前提です。宅建業者が、不動産を仕入れて他人に売却することを繰り返し行えば、宅建業であることを疑う宅建業者の方はいないですよね。金融商品取引業も同じ。自己のポートフォリオの改善のためであっても、不動産信託受益権の売買を繰り返し行えば、金融商品取引業です。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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JSL行政書士事務所代表
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