法廷帳簿の作成部門


法定帳簿について質問を受けたので、ご紹介します。

質問は「法定帳簿は誰が作るのか」です。この意味は、フロント(営業部門)が作成するのか、バックオフィス(管理部門)が作成するのかという質問です。

回答は簡単で「法令(条文)通りに作成するのであれば、誰が作っても構わない」ですが、この「法令(条文)通りに作成する」ためには、必然的に、一定の制約が生じます。

<注文伝票>
注文伝票は、必ず、フロントが作成する必要があります。

なぜか。

金商業等府令第158条第2項で、注文伝票は顧客から注文を受けたときに、すみやかに作成することが義務付けられているからです。注文伝票は、何日の何時何分に注文を受けたと、顧客に対して証明するための「証拠」という側面があるため、すみやかに作成することが求められています。

顧客から注文を受けたときにすみやかに作成することができるのは、顧客に直面しているフロント(営業部門)だけです。バックオフィスは、顧客と接していないので、注文を受けたときに作成することができません。

なお、条文では「速やかに作成する」とありますが、実務的には、「速やかに作成を始める」です。

<取引日記帳>
取引日記帳は、フロントが作ってもバックオフィスが作っても構いません。実務的には、バックオフィスでしょう。バックオフィスが事後の記録のために、作成します。この「事後の記録のため」は、次の「媒介に係る取引記録」と「私募の取扱いに係る取引記録」において、重要な意味を持ってきます。

<媒介に係る取引記録>
媒介に係る取引記録は、フロントが作ってもバックオフィスが作っても構いませんが、これも、「事後の記録のため」に作成することから、バックオフィスが適当です。

なお、「取引日記帳」は媒介行為については作成する義務がありません。(金商業等府令159条)なぜなら、取引日記帳は事後の記録のために作成するものですが、媒介に係る取引記録も事後の記録のために作成するものであるため、ダブるからです。

<私募の取扱いに係る取引記録>
私募の取扱いに係る取引記録を作成する部門は、フロントです。私募の取扱いに係る取引記録は、注文伝票同様、申込みを受けたときに、すみやかに作成しなければならないからです。(金商業等府令第163条第2項)

私募の取扱いに係る取引記録は、これも注文伝票同様、何日の何時何分に申込みを受けたと、顧客に対して証明するための「証拠」という側面があるため、すみやかに作成することが求められています。

でも、見た目は似ています。見た目は似ていますが、私募の取扱いに係る取引記録は、取引日記帳と違って、事後の記録のために作成しているわけではないため、バックオフィスが作成することは事実上不可能です。また、取引日記帳と作成する目的が違うため、媒介行為の場合と異なり、私募の取扱いについて、取引日記帳を作成しなければなりません。

一読しただけでは、なんだか面倒くさそうですが、理にかなっているので、もう一度読むと、すっきりするはずです。

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法定帳簿と定義4


前回までは、既に発行された有価証券の売買にかかわる法定帳簿について説明しました。

では、新たに発行される有価証券の取引にかかわる法定帳簿は何か?

新たに発行される有価証券の取引は、自己募集若しくは自己私募又は募集の取扱い又は私募の取扱いです。

<自己募集>
自己募集(自己私募)とは、自ら発行する有価証券の取得勧誘であって、実務的には、投資信託の取得勧誘と組合出資持分の取得勧誘のことです。

いずれも、第二種金融商品取引業です。

<募集又は私募に係る取引記録>
自己募集は、既発に関する自己売買の新発版であるため(少なくても金商法をそう考えた)、自己募集を行うときには募集又は私募に係る取引記録を残すのですが、受注日時と約定日時を記載することが義務付けられています。

募集又は私募に係る取引記録の記載項目や記載方法は、注文伝票に合わせています。繰り返しになりますが、募集又は私募に係る取引記録は、既発有価証券の売買と同じと、金商法は考えたからです。

だから、いわゆるファンドの自己募集を行ったときは、金商業者は、受注したとき、つまり、投資家から注文があったときから速やかに取引記録を作成し始めなければなりません。

例えば、不動産ファンドの自己募集をする場合、自己募集を行う金商業者は、受注したとき、速やかに取引記録の作成を開始するということです。

「実務的にどうなの?」という疑問は残るものの、金商法(金商業等府令)に規定されている通りです。

なお、募集又は私募に係る取引記録には、受注日時と約定日時を記載しなければなりません。日時とは、秒まで含めるということは既にお話しした通りです。

また、自己募集の場合のみならず、買取り、解約、払戻しがあった際にも、募集又は私募に係る取引記録を作成しなければなりません。

買取りとは、販売した有価証券を買い取る行為です。投資信託やファンドの自己募集を行った金商業者が、投資家の買取請求に応じて買い取ることを想定しています。

解約とは投資信託の解約を、払戻しとは投資証券(投資口)の払戻しを想定していますが、ファンドの場合も同様です。ファンドの場合、買取りということは考えにくいので、解約か払戻しになるわけですが、契約書上は「解約」となっていても、エクイティの現金化(流出)であるという点で投資口の払戻しと同じですから、金商法上は払戻しと考えるべきでしょう。

<募集の取扱いに係る取引記録>
問題は、募集(又は私募)の取扱いに係る取引記録です。

募集の取扱いとは、発行者が有価証券の募集を行う際、発行者に代わって、投資家を探してくる行為(取得勧誘をする行為)のことですが、このとき、「取引」(契約)が発生するのは、発行者と金商業者の間です。

発行者と金商業者が「募集の取扱いに係る契約」を締結する行為が、契約として発生するだけで、投資家と金商業者の間には何の取引も発生しません。取引の当事者は、発行者と投資家であって、金商業者は単に発行者のために投資家を探してきただけですので、当然のことです。

にもかかわらず、募集の取扱いに係る取引記録には、受注日時と約定日時を記載することが義務付けられています。この受注日時と約定日時は、募集の取扱い契約の成立の日時を言っているのではなく、金商業者が投資家から、有価証券の取得の申込みを受けた日時と投資家が金銭を払い込んだ日時を指しています。

募集の取扱い(私募の取扱いも当然同じです)は、金商業者が発行者と締結した契約に基づいて、発行者のために、発行者に代わって行う行為に過ぎないのに、なぜか、募集の取扱いに係る取引記録は、投資家からの注文に関する事項を記録することになっています。

余談ですが、パブリックコメントでも指摘されている通り、募集の取扱いの際に、投資家に契約締結前交付書面を交付するのも、募集の取扱いの定義からおかしな話です。募集の取扱いの顧客は発行者でしかあり得ないのに投資家も金商業者の顧客と想定ている金商法は、明らかに、募集の取扱いの意味を誤解しています。

この金商法(金商業等府令)の混乱は、「取引日記帳」の作成にも影響を及ぼしてきます。

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法定帳簿と定義3


証券取引法時代、注文伝票で大きな問題になったのは、金商業者(当時は証券会社)が、売買の「媒介」をしたときに、注文伝票を作成する義務があるかどうかという点でした。

<売買の媒介、取次ぎ又は代理>
有価証券の売買の媒介、取次ぎ又は代理の意味を復習してから、この問題の解決と現代的意味を考えてみましょう。

有価証券の売買とは、自己売買(金商業者自身による売買)のことです。このときは、注文伝票を作成するということは既にお話しした通りです。

「おかしいじゃないか。注文伝票には、受注日時を書くと言っておきながら、自己売買には受注なんかないじゃないか」

このご指摘は鋭いです。そうです。だから、自己売買のときは、「受注日時」を「発注日時」と読み替えることは、金商法その他で規定している通りです。

受注があるのは、他人(金商業者から見ると顧客)の売買に金商業者がかかわったときに限ります。

他人の売買の関わり方には、3つの関わり方があります。媒介、取次ぎ又は代理です。

<取次ぎ>
便宜上、取次ぎから説明すると、取次ぎとは、「自己の名義」で、「他人の計算」で取引を成立させる行為です。

自己の名義とは、既にお話しした通り、金商業者の名前でという意味です。

他人の計算とは、顧客の財布(お金)でという意味です。

他人(顧客)のお金で、自己(金商業者)の名前で取引を成立させる場面とはどういう場面か?というと、証券会社が顧客から上場株式の売買の注文を受けて、金融商品取引所に注文を流す場面です。

つまり、金商業者が「問屋」として機能するときです。問屋は、大勢の顧客の注文を束ねて、問屋の名義で売買を行います。問屋は商法に規定されていますが、問屋の典型例は、証券会社であると商法でも説明されます。

実は、注文伝票が想定している金商業者の行為(金商業)は、「取次ぎ」です。

まとめると、注文伝票を作成しなければならない場面は、自己売買と委託売買(顧客の売買で自己売買の対義語)のうち、取次ぎに係る売買に限ります。

証取法時代問題になったのは、「じゃあ、金商業者が有価証券の売買の媒介をしたときには、注文伝票を作成しなくてもいいんだね?」という点でした。

当時、といっても、もう昭和の時代ですが、大蔵省もこの問題に決着をつけることができませんでした。問題が難しすぎたのです。

「伊藤メモ」という有名なメモによると、金商業者が有価証券の売買の媒介をしたときには、注文伝票を作成する必要がないということでしたが、大蔵省からの公式見解は出ていませんでした。

仕方なく、証券会社は慣習として、売買の媒介の場合も注文伝票を作成していました。

この証取法時代の大問題に決着をつけたのが金商法です。

<媒介>
有価証券の売買の媒介とは、「他人の名義」で「他人の計算」で取引を成立させる行為です。正確には、取引の成立に尽力する行為ですが、多くの場合、尽力するにとどまらず、取引を成立させてしまいますから、実務的には、取引を成立させる行為です。

金商法は、金商業者が有価証券の売買の媒介を行ったときには、「有価証券の売買の媒介にかかる取引記録」を作成することを金商業者に要請しています。

媒介の取引記録に、受注日時や約定日時の記載は不要です。受注はあるかもしれない(実際はある)、約定もあるかもしれないが(実際はある)、媒介とは、取引の成立に「尽力」するだけの行為であって、取引を成立させる当事者は、顧客(他人)であるから、金商業者には正確な受注日時や約定日時を把握することが不可能と理論的に考えられたからです。

したがって、有価証券の売買の媒介を行った金商業者は、わかる範囲で売買の媒介の記録を残しておけばよいという決着を金商法はつけたことになります。

<代理>
証取法が金商法に改正された際、有価証券の売買の代理は、金商業から削除すべきでした。

代理とは、「取引一任勘定取引」のことです。

「他人の名義」で「他人の計算」で取引を成立させる点は、代理も媒介と同じですが、代理というくらいですから、他人は自己(金商業者)に、取引成立の代理権を与えた場合が有価証券の売買の代理であって、媒介と異なります。

取引一任勘定取引とは、金商業者が、顧客のために、顧客に代わって取引条件を決定してしまい取引を成立させる取引であって、証取法時代を引継ぎ、金商法でも原則として禁止されています。トラブルのもとになるからです。

例外は、「特定同意」(説明は省きます)がある場合の取引などに限定されます。

金商業者が顧客をフルに代理してしまうと、それは、「投資運用業」です。この整理が証取法時代はなかったので、有価証券の売買の代理を金商業とする意味はありましたが、金商法に投資運用業が定義されたのだから、有価証券の売買の代理は金商業から削除し(絶対禁止とし)、有価証券の代理をやりたかったら投資運用業の登録を受けなさいとすれば良かったのです。

いずれにしても、有価証券の売買の代理が金商業として残ってしまったので、代理と媒介には大きな差はないことから、有価証券の売買の代理を行った金商業者は、有価証券の売買の代理にかかる取引記録を残すように規定されています。

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法定帳簿と定義2


正しく法定帳簿を作成するためには、金商法の定義規定の理解が欠かせません。

<有価証券の売買と注文伝票>
金商法で金融商品取引業として規定されている行為の最初に出てくるのは、「有価証券の売買」です。

有価証券の売買とは、有価証券を「自己の名義」で「自己の計算」で取引する行為のことです。

「自己の名義」とは、「金商業者の名前」という意味です。「自己の計算」とは、「金商業者のお金」という意味です。ですから、自己の名義で自己の計算でとは、金商業者の名前で金商業者のお金でという意味です。つまり、金商業者が自ら有価証券を買い付け、又は、金商業者が自ら有価証券を売り付ける行為が有価証券の売買です。

金商業者が有価証券を自ら買い付け又は売り付けると、取引の相手方との間で、「決済」が必要になります。決済部門は、営業部門から独立した業務部門でなければならないことは、前回お話しした通りです。ですから、有価証券の売買を営業部門が行った際には、営業部門は取引の内容を業務部門に伝達しなければなりません。

このとき必要な伝票が注文伝票です。

したがって、注文伝票は、金商業者が有価証券の売買を行ったときに、作成しなければならない法定帳簿だということになります。

<売買の対象となる有価証券>
「売買」「買付け」「売付け」という用語は、「既に発行された有価証券の取引」にしか使用できない用語です。

有価証券は、有価証券の発行者が有価証券を新たに発行するところから生じます。ですから、金商業者が有価証券の発行者から有価証券を取得する行為は、有価証券の買付けではありません。なぜなら、繰り返しになりますが、有価証券の買付けとは、「既に発行された」有価証券の取引だからです。発行者により「新たに発行される」有価証券を金商業者が取得する行為は、有価証券の「取得」であって、有価証券の「買付け」ではありません。

買付けとは、発行者以外の者から有価証券を買い付ける行為です。発行者から有価証券を取得する行為は「取得」といい、金商法は「買付け」と「取得」の意味を分けて使用しています。

発行者の方もしかりです。発行者が新たに有価証券を発行する行為は、「発行」であって「売付け」ではありません。

有価証券の売買(売付けと買付け)は、発行者が有価証券を発行した後に、既に発行された有価証券が取引されるときに行われる行為なのです。

だから、有価証券の売買が発生する場面は、発行者から有価証券を取得した者が、有価証券を転売するときか、転売された有価証券を買い付けた者がさらに有価証券を転売するときに限ります。

ここまで大丈夫でしょうか。

金商業者が、発行者から取得された有価証券が転売されるときに有価証券を買い付ける行為が、金商業者による有価証券の買付けであり、金商業者がさらに買い付けた有価証券を転売する行為が、金商業者による有価証券の売付けです。

金商業者に有価証券の「買付け」又は「売付け」が生じたときを「有価証券の売買」といい、既にお話ししている通り、金商業者がこのとき作成しなければならない法定帳簿が「注文伝票」です。

<受注日時と約定日時>
注文伝票には受注日時と約定日時を記載する必要があります。受注日時とは、顧客(投資家)から、有価証券を買いたい、あるいは、売りたいという注文を受けた日時のことです。注文を受け付けることを「受注」といいます。

約定日時とは、受注した取引が成立した日時のことです。

なぜ、注文伝票には受注日時と約定日時を記載しなければならないのか。また、なぜ時間まで記載しなければならないのか。

実務的な意味は2つあり、後日の顧客とのトラブルを避けるためと、フロントランニングを未然に防止するためです。

上場株式の売買に典型的にこの意味が現れます。

上場株式は刻一刻株価が変動します。顧客としては安く買いたい、高く売りたいという希望があります。顧客が上場株式を買い付けるとき、思っていた株価よりも高い株価で取引が成立すると、「なんでもっと早く買い付けてくれなかったんだ!」と金商業者に一言でも文句を言いたくなります。このとき、注文伝票に受注日時が記載されていれば、「いや、受注した時間が何時何分何秒なので、もっと早く買うことはできなかった!」と、金商業者は反論できます。

フロントランニングの未然防止とは、フロントランニングとは顧客の注文を利用して、先回りして金商業者が顧客のために成立した取引よりも有利な条件で自己(金商業者)の取引を成立させてしまうことですが、これでは顧客に忠実とは言えず、当然、条文をもって禁止されている違法行為ですが、注文伝票に受注日時が記載されていれば、フロントランニングをすると、違法行為が簡単にばれてしまうため、金商業者によるフロントランニングを抑制する効果があるわけです。

<信託受益権の受注日時と約定日時>
「信託受益権の売買では考えられないことだが」と考える人もいるかもしれませんが、それは、不動産信託受益権を想定しているからそう思うだけであって、注文が殺到するような超大型の金銭債権の流動化においては、上場株式と同じことが起こる可能性が否定できません。

だから、金商法は、有価証券の属性に関係なく、一律に、注文伝票には受注日時と約定日時を記載することを求めています。なお、ここで日時とは、「秒」まで含めた日時です。

実際、私のクライアントに聞くと「顧客から不動産信託受益権の買付注文があると、先回りして自己の計算で不動産信託受益権を買う時があるよ」と言っていますので(違法です)、不動産信託受益権においても、注文伝票に受注日時と約定日時を記載する意味があるようです。

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法定帳簿と定義1


2015年、あけましておめでとうございます。

年が変わっても、「これでわかった!証券取引法」から10年以上続いている「これでわかった!金融商品取引法」は、これまでどおり、金融商品取引業者の「現場の疑問や悩みの解決」を提供し続けます。

<法定帳簿の書き方>
「法定帳簿の書き方がわからない」というご質問は毎年減ることがありません。

法定帳簿は、金商業等府令に「記載項目」が書いてありますが、いつ、どんな場面で作成すれば良いのかは書いてありません。いつ、どんな場面で作成する必要があるかという知識は、持っていることが当然という前提で金商法が作られているからです。

なんでこんな前提があるかというと、実は、証券取引法時代、それも昭和の時代に、大蔵省証券局から、法定帳簿の書き方の手引きが、証券会社各社に送られているからです。このことを知っている人は、もう、私のように昭和の時代から証券取引法にかかわっている実務家でないと、おそらく、金融庁の誰一人とっても、知らないでしょう。

知っているか知らないかはともかく、30年前に大蔵省から法定帳簿作成の手引きが出ているからといって、金商法が、いつ、どんな場面で法定帳簿を作成しなければならないかを明らかにしないで良い理由にはなりません。が、現実として、金商法は、法定帳簿の作成については、極めて不親切です。

<法定書面>
法定帳簿は、証券取引法から金商法に変わったときに、大幅に数が増えました。契約締結前交付書面など、「法定書面」といわれるもの(又は写し)が、法定帳簿に加わったからです。

ただ、現実問題として、法定帳簿といえば、金商業等府令の順番に従うと、「注文伝票」以下の帳票類を指します。

<注文伝票の作成部署と保管部署>
現在の実務として、金商業者になろうとする登録を受ける際、申請者(金商業者となる者)は、法定帳簿の作成部署や管理(保管)部署を紙に書いて財務局に提出することになっています。

ここで、多く見られる「間違い」は、「注文伝票の作成部署と保管部署は営業部門とする」というものです。

行政書士の中で金商法を本当にわかっている人は皆無に近いですので、登録申請書の作成・提出代行を行政書士に任せても、この間違いをすることが多い、というか必ずします。

注文伝票の作成部署と管理部署が同じということは、理論的にあり得ません。

注文伝票は、金商業者の中における「伝票」です。誰かが誰かに伝えるための帳票だということです。だから、注文伝票が作成され、内容が誰にも伝えられずに、作成部署が保管するということは、あり得ないのです。

注文伝票の作成部署と保管部署を考えるときには、金商業者の組織を考えなければなりません。

注文伝票は、注文を受けたときに(受注したときに)、速やかに作成を始める義務があります。これは、条文どおりです。注文を受けるのは営業部門(又は売買部門)ですから、注文伝票の作成部署は、営業部門になります。

営業部門は、何のために、注文伝票を書くのか?もちろん、誰かに内容を伝達するためです。では、誰に伝達したい、伝達しなければならないのか。答えは、業務部門(決済部門)です。

取引を成立させるのは営業部門ですが、営業部門が行った取引の決済を行うのは業務部門です。だから、営業部門は、注文伝票という「伝票」を作成して、管理部門の業務部門に取引の内容を伝達しなければならないのです。

余談ですが、財務局の担当者の中に「取引が法令上問題ないかをチェックするために、取引を成立させるときには、コンプライアンス部門が関与しなければならない」と考えている人がいますが、大きな誤解です。

取引は営業部門が誰からの干渉も受けずに成立させることができるものです。営業部門は、会社(代表者取締役)から、取引を成立させるための全権限を委任されているからです。そうでなければ、取引相手(投資家)は、安心して金商業者の営業部門と取引ができません。したがって、取引の成立にコンプライアンス部門が関与せよ、という考えは投資家保護に反するのです。

この議論は、金融庁も交えて、既に2003年当時に決着がついています。もう、誰も知らないでしょうが、注文伝票に関するこの議論(営業部門に取引成立の全権限が委任されることの是非に関する議論)は、金融庁の中で決着がついているのです。

なお、コンプライアンス部門が登場するのは、研修(事前教育)や取引のモニタリング(事後チェック)のときです。

閑話休題。

<業務部門>
取引が成立すると、当然、売買の決済が行われます。この決済部門のことを業務部門といいます。

業務部門は、当然のことですが、営業部門でどのような取引が行われたかわかりません。だから、「注文伝票」が必要になります

これも当然のことですが、営業部門が決済部門を兼任することはできません。それどころか、日銀によると、営業部門は決済部門のオフィスに入る権限を持ってはならないというということです。不正の温床になるからですね。不正の温床の意味は、ベアリング事件(ニック・リーソン事件)で、有名です。

業務部門は営業部門から受け取った注文伝票に沿って、売買の決済を行います。

<注文伝票と金商業者の組織>
以上のことから、金商業者(一種業者と二種業者)には、営業部門と業務部門の設置が必須です。現実を見ると、業務部門を設置していない二種業者が多数見られますので、財務局には、ベアリング事件を踏まえ、業務部門の設置と独立性に関する慎重な登録審査をすることを強く望みます。

金商業者には、営業部門(売買部門)と業務部門があって、営業部門と業務部門の周りに、コンプライアンス部門、内部監査部門、経理部門が配置されなければなりません。総務部門や人事部門は、また、別の組織であることが必要ですから、金商業者には、最低でも、6部門は必要です。

これは、私の考えではありません。2000年当時に、金融庁も交えた話し合いで決まった決定事項です。営業部門と業務部門を「必須部門」、コンプライアンス部門、内部監査部門、経理部門は「コア部門(内部管理部門)」、総務部門や人事部門は「ノンコア部門」と当時名づけられました。

金商法になってこの考え方は変わったか?

いいえ、金商業等府令を見ればわかるように、「内部管理部門」は依然として定義されています。また、ノンコア部門は、親子法人の定義規定に今でも規定されています。

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プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
電話:03-5533-8785
http://office-jsl.com/

<お問い合わせ>
お問い合わせは、お問い合わせフォームで受け付けます。

<主な業務>
主な業務は、主な業務をご覧ください。

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