号外:投資目的の共有


2月15日、金融庁の監督指針が改正され、金融商品取引業者等は、顧客と投資目的等を共有することになりました。適用は当日からです。

<適合性の原則>
すべての金融商品取引業者等は、一般投資家である顧客と取引をする際、顧客の知識、経験、財産、投資目的を確認しなければなりません。金融商品取引法の義務です。

そして、金融商品取引業者等は、知識、経験、財産、投資目的に適合した商品を顧客に提供しなければなりません。これを「適合性の原則」といいます。特に、投資目的は重要です。

よく例に挙げられるのは、老後の資金として退職金を安定運用したいという投資目的をもった顧客に、投機的なデリバティブ取引をさせることです。これは、適合性の原則違反です。

また、最近ニュースになったところでは、円高は利益を押し上げるはずの輸入業者が、デリバティブ取引をしていた結果、円高で大損したという事例が報道されていますが、これも適合性の原則違反の可能性があります。

改正監督指針では、昨今、ハイリスクの投資信託を「安全」であると誤解して、顧客が購入し、損失を出して問題となるケースが散見されたため、「金融商品取引業者等は、顧客が考えている投資目的を顧客ときちんとすり合わせよ」ということが、あらためて義務付けられました。

<対象商品>
どの商品を投資する顧客について、投資目的の共有が義務付けられたのか。金融庁は、パブリックコメントの回答の中で、投資信託に限らず、すべての商品が対象であると回答しています。

株式、債券などの一項有価証券に限らず、信託受益権といった二項有価証券も対象です。

<対象顧客>
投資目的の共有が義務付けられた顧客は、一般投資家です。投資目的の共有は、適合性の原則の延長、というかそのものですが、金融商品取引法の適合性の原則規定が適用される顧客は、一般投資家に限るからです。

「2月15日から適用されるルールだから、2月15日以降に取引を行った顧客にだけ適用すればいいのか」という内容のコメントに、金融庁は、既存顧客も含むと回答しています。

また、個人顧客のみならず、法人顧客にも適用されます。

<共有の方法>
投資目的の共有というときの「共有」とはどういう意味か。金融庁はパブリックコメントの回答の中で、単に顧客と投資目的を確認しただけでは足りず、顧客カードを顧客に手渡ししたり、郵送したり、メールで送ったりと、顧客に書面を送らなければダメだと回答しています。

<投資家の啓蒙>
今回の監督指針の改正で投資目的等が業者と顧客との間で共有されることになりましたが、当然のことながら、義務を負っているのは業者です。私は、これでは、投資者保護の目的は達成できないと考えています。

投資目的を意識し、商品を吟味して決めるべきなのは投資家の方です。国は、投資家を啓蒙しないとダメです。小学校の授業で投資の勉強を取り入れたり、社会人に無料で投資を学ぶ機会を提供したり、行政が積極的に(将来の)投資家の啓蒙を図るべきです。

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平成22年改正-デリバティブ取引(2)


店頭デリバティブ取引と仕組債の販売の際に顧客から受け取る確認書のひな形が全銀協と日証協から発出されました。もともと、金融庁監督局長が全銀協や日証協に、改正された監督指針を銀行や証券会社に徹底させるために、自主規制団体としてひな形を作るようにと命じたところからスタートしていますが、はっきり言って、迷惑な話です。

<ひな形の危険性>
店頭デリバティブ取引にせよ、仕組債の販売にせよ、銀行や証券会社に説明義務があるのは当然にして当然の話です。また、将来の市場環境の変化に対応した説明を取引が継続している間(仕組債の場合は償還までの間)行うことも常識にして常識です。さらに、説明した内容を顧客が完全に理解しているかどうかを確認することも当たり前にして当たり前の話です。

ただ、説明や確認の方法論は各社各様であるべきです。なぜなら、ひな形を作って一律にしてしまうと、説明力がない銀行や証券会社まで「当局のお墨付きの付いたひな形を使っているんだから問題なし」と判断し、市場に参加することになるために、結局、顧客の保護に欠ける状況になるからです。

私のところに「銀行に騙された!」と駆け込んでくる事業会社が複数あります。大手銀行であっても、デリバティブ取引の説明はずさん極まりない現状であることを私は中小企業の社長方々かじかに聞いて、また、交付された資料を直接見て知っています。この実態を知っていれば、「当局のお墨付きの付いたひな形」を配ることがいかに危険であるかが当局もわかるはずなのですが、時既に遅しです。

<当局と銀行の認識のギャップ>
「お墨付きを与えたものではない!」と当局は当然言うでしょうし、現にそう思っているはずです。でも、残念ながらそうは行きません。期待とは裏腹の結果となることが容易に想像できます。

具体的にずさんな説明しかしない、できない、能力がない銀行名を挙げたいところですが、やめておかざるを得ません。とにかく、銀行のずさんな説明に対する私の憤りは半端ではありません。現実に、銀行の説明不足でデリバティブ取引を始めた結果、倒産してしまった会社の社長にも会っています。

証券会社は、証券取引等監視委員会の厳しい検査を経験していますので、説明は懇切丁寧です。銀行でも、外資系銀行は、同様の検査を受けていますので、一部を除き、説明は適切です。それに比べて、日本の銀行の説明はずさん際まわりないです。私が社長方から「騙された」と相談を受けるとき、取引相手は、100%例外なく日本の銀行です。私は想像で言っているのではありません。実際に、20社以上の日本の銀行の資料をこの目で見ています。中小企業の社長方が日本の銀行から受けた説明をこの耳で聞いています。

<日本の銀行の問題点>
どうして日本の銀行は説明できないのでしょうか。

すべての銀行がそうだとは言いませんが、一般に、本部にもノウハウがないにもかかわらず、取引を強行するからです。日本の銀行は、表の顧客とデリバティブ取引を行う際、裏で外資系銀行や証券とヘッジ取引をしています。わかりやすく言うと、日本の銀行は、外資系銀行や証券からデリバティブという商品を安く仕入れて、顧客に高く売って利ざやを稼いでいます。その利ざやたるや半端ではないので、ノウハウもないのに日本の銀行は、積極的に販売するわけです。

次に、支店の問題があります。日本の銀行の支店長は、成績が悪いと肩たたきにあいます。子会社や関係会社、取引会社に出向になり、異常に高額な給料を受け取れなくなるという仕組みになっています。その結果、何が何でも銀行に残るためには、多少のムリは平気でやる体質です。

一方、金融庁の検査は本部を中心に見るため、日本の銀行のこの支店の実態を調べません。「調べられないなら安心」というわけで、支店は積極的に利ざやの厚いデリバティブ取引を生半可な知識で中小企業と行うわけです。

日本の銀行がデリバティブ取引の特徴を知らないということは簡単に証明できます。一つには支店の営業員に聞いてみてください。まず、説明できる者はいません。「顧客説明の際には、本部から人を呼んでいるから大丈夫」というのが彼らの良い訳です。では、本部。証券会社や外資系の銀行や証券では、本部の説明資料であっても、コンプライアンス担当部門がすべてチェックしています。言い換えると、コンプライアンス担当部門がデリバティブ取引を説明できるだけの知識があるということです(そうでないとチェックできない)。日本の銀行のコンプライアンス担当者の中でデリバティブ取引を説明できる人はどれくらいいるでしょうか。これは想像ですが、おそらく皆無です。

話がそれてきましてが、当局がお墨付きを与えたひな形を交付したことは、顧客保護の観点から、大変なマイナスになることだけは間違いありません。

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平成22年改正-デリバティブ取引(1)


金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針の改正についてです。4月16日から、一般投資家と店頭デリバティブ取引をしたり、一般投資家に仕組債を販売したりする証券会社に対する監督の検証項目・着眼点が改正されました。関係者の方々のご参考具体的に何をすれば良いか、パブリックコメントに対する金融庁の回答と私見に基づきまとめておきましょう。

<改正の要点>
追加された点は、既に証券会社に課されている説明義務に関するものです。説明すべき事項や説明義務は法令に規定されていますが、特に店頭デリバティブ取引や仕組債の販売に関する説明義務について、監督にあたっての具体的な基準を明確にしたものです。

言い換えると、何も新しいことが追加されていないことに注意してください。ここを勘違いされている方が大勢いらっしゃいます。証券会社は既に行っていただろうけれども、あらためて明確化したに過ぎません。説明義務の基準の明確化ではなく、説明義務の内容の「追加」であれば、金商業用府令で行われるべきで、監督指針に説明義務の内容の追加を行う権限はないからです。

<仕組債>
仕組債とは何を指すのか、具体的な記述はなく、デリバティブが組み込まれた社債は一律に仕組債と規定されているように見えます。ですから外国企業が発行するユーロ円建て普通社債であっても、裏で通貨スワップが組まれている場合であっても、仕組債に該当すると考えるべきだと考えます。こう考えても、今回、仕組債の説明について明確化された点は、仕組債が参照している金融指標に限ったものと把握されることから(こう把握しないと店頭デリバティブ取引に関する着眼点と異なってしまう)、通貨スワップが組み込まれたユーロ円建て普通社債については、今回の改正の影響を受けませんので、問題がありません。

<想定最大損失額>
証券会社は、合理的に計算された最悪シナリオを想定した最大損失を顧客に説明する義務があります。「合理的」な範囲で計算された最悪シナリオである必要がありますから、「オプションの売りの損失は無限大です」とか「仕組債の償還金額はゼロに可能性があります」という説明は、通用しません。オプションであれば期間に応じて合理的な範囲の損失額には限界がありますし、仕組債についても同様に期間に応じた合理的に想定される最大損失額に限度があるからです。

もっとも、「想定」を超えた損失額が発生する可能性は当然にあるわけですから、顧客に想定外の損失が発生する可能性があることを理解していただけなければ、今回の改正を反映した説明とは認められません。

「想定最大損失額」は、商品に応じて決まるもので、顧客の属性とは無関係ですから、すべての顧客に対して同一の説明がなされなければならない点に注意が必要です。

<許容可能損失額>
証券会社は、顧客の財務状況から許容できる損失額を顧客に認識されるとともに、いかなる場合に、許容範囲を超えた損失が発生するかについても説明しなければなりません。このことは、適合性の原則から、当然に導き出される説明義務ですので、今回の改正では、あらためて明示されたに過ぎません。許容可能損失額は、顧客によって異なる点で、想定最大損失額とまったく異なるものであることに注意が必要です。

<解約損・売却損>
証券会社は、デリバティブ取引の期限前解約や仕組債の償還前売却に伴い顧客に生じえる最悪シナリオの損失試算額も顧客に説明しなければなりません。また、損失試算額を超える損失が顧客に生じる可能性があることも顧客に理解させなければなりません。

<ヘッジ取引の限界>
ヘッジ取引については、監督上の特別な検証項目が監督指針に記載されました。ヘッジ取引をしたことによって、むしろ経営的にはマイナスになる可能性があることを顧客に認識させる義務が証券会社にあることが明確化されました。

証券会社は、以上のことを顧客が理解・認識・把握したことを確認書等で確認しなければなりません。なお、確認書は、顧客が取引参加に慎重になるように作成されるものです。証券会社の説明義務が完全であったことを証明するためのものではないことにも注意が必要です。

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プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
電話:03-5533-8785
http://office-jsl.com/

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<主な業務>
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