複雑な仕組債と複雑な投資信託


4月1日に施行された日本証券業協会の規則で一部混乱が見られるようです。改正点は、「店頭デリバティブ取引に類する複雑な仕組債」や「店頭デリバティブ取引に類する複雑な投資信託」や「レバレッジ投資信託」を販売しようとする販売会社に、一定の販売制限を設けたことですが、問題は、「何が複雑な仕組債や投資信託なのかわからない」という販売会社が出てきていることです。

なお、今回は販売会社の方に向けて書きました。そのため、専門用語を説明なしで使っていますことをご了承ください。

複雑な投資信託
複雑な投資信託は比較的簡単です。要するに、複雑な仕組債で運用する投資信託のことです。若干複雑なのは、元本保証のない複雑な仕組債で運用するのだけれども、投資信託は元本保証だった場合です。

日本証券業協会は、そのような場合であっても、運用対象となる仕組債が複雑な仕組債である投資信託は複雑な投資信託であるという趣旨の回答をしています。販売会社としては「投資元本が確保されているのだから複雑ではない」といいたいところでしょうけれども、この点は、日本証券業協会の回答が正しいでしょう。複雑な投資信託であるかどうかの判断基準は、元本確保であるかどうかは関係なく、複雑な仕組債で運用するものは、一律、複雑な投資信託であるという定義してしまっている以上、元本確保の議論は意味をなさないからです。

ただし、「定義がおかしい」という運用会社や販売会社の不満は理解できます。一時、ある新聞が騒ぎ立てのが原因で、「ノックインタイプの投資信託は危険」という前提が世論としてあり、日本証券業協会は、この前提が正しいという前提で、ノックインタイプの投資信託を想定して、複雑な投資信託を定義したという経緯があるため、複雑な仕組債で運用する投資信託は複雑として、幅広く規制の網がかかってしまっています。

本来、複雑な投資信託というのは、投資信託自体の設計が複雑であるかどうかで判断されるべきであって、運用対象商品で複雑かどうかを判断するのは筋違いです。

複雑な仕組債
理解が分かれるとしたら、この複雑な仕組債です。どこからが複雑かという議論です。特に、「条件により利金が0 又は極めてそれに近い水準になるもの」の基準をめぐる議論です。

「0.5以上は、四捨五入すれば1なので、当たらない」など、聞いているだけだと笑ってしまいたくなるような話も耳にします。ただ、販売会社からすると笑いごとではありません。

先に本来的な議論をして、では具体的にはどうするかについて話をします。

本来、条件により利金が0又は極めてそれに近い水準になったら「複雑」であるという議論をするなら、金融情勢により、0又は極めてそれに近い水準になる普通預金は完全に複雑な商品です。

複雑かどうかを金利の絶対水準で判断することが間違っているのです。金利で判断するのであれば、デジタルクーポンの上下の差に着目すべきです。その差が大きいから、債券価格が大幅にぶれて、一見すると複雑に見えるのです。クーポンの絶対レベルが問題ではないのです。

しかし、定義がそうなってしまっている以上、販売会社は基準を設けなければなりません。日本証券業協会も市場実勢に応じて基準は変化するという趣旨の回答をしていますが、市場実勢を測る目安の例として国債を出しているのはいただけません。日本国債の金利は発行総額に大きな影響を受けるため、参考にならないからです。具体的な基準を設けるのであれば、たとえば、3大メガバンクの預金金利を基準とするのが妥当です。個人投資家にとっても、比較し易いので、もっとも無難な指標になります。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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