アセット・ファイナンス22


金融商品取引法とは直接の関係はありませんが、将来債権の譲渡について、もう少し詳しく見ておきましょう。

<将来債権の現金化ニーズ>
将来債権をなぜ今現金化しなければならないのか。どこにそんなニーズがあるのか。

典型は、開業しようとする医師です。医師ですから、通常、開業すれば安定した収入が望めそうです。ところが、開業資金がない。そこに、将来受け取るであろう「診療報酬債権」を譲渡(売却)して現金化したいというニーズが生まれるわけです。

診療報酬債権は、支払基金に対して有する売掛債権です。詳しくは、こちらをご覧ください。

これから開業しようとする医療機関に限らず、例えば、高額の医療器具を購入しようとする医療機関にも、医療器具を購入できれば得ることができるであろう分の診療報酬債権を今現金化したいというニーズがあります。

<将来債権譲渡の性質>
ここで診療報酬債権とは、1件1件の診療報酬債権を指すのではなく、何年何月何日から何年何月何日までの売掛債権の集合を指します。診療報酬債権の譲渡は、集合債権譲渡だということです。

<将来債権譲渡の対抗要件>
1件の売掛債権譲渡の(第三者)対抗要件は、確定日付ある証書で債務者への通知又は債務者の承諾が行われることです。将来債権の場合はどうなるのか。将来、具体的に債権が発生したときに通知又は承諾が必要になるのか。

判例は、将来の診療報酬債権の譲渡について、始期と終期の明確化その他の方法で債権を特定すれば、集合債権を1回の通知で譲渡することを認めています。

<将来債権が発生しなかった場合>
問題となるのは、予定していた通りの将来債権が発生しなかった場合です。1年後に発生するであろう診療報酬債権は見通しがたっても、例えば、8年以上先の将来債権が発生するかどうかということになると、不確実といわざるを得ません。

しかし、判例は、将来債権の発生の可能性は譲渡できるかどうかの要件ではなく、始期と終期を明確にするなどして債権が特定されている限り、有効に譲渡できると判じました。

では、発生しなかった場合にはどうなるのか。

これは、将来債権の譲渡人が負担するのか、譲受人があきらめるのかという選択です。判例は前者であることを前提とするから、将来債権の発生の可能性は譲渡の有効性に影響しないとしています。

<譲渡担保>
将来債権が発生しなかった場合には譲渡人が負担するとなると、結局、譲渡人は譲受人から金銭を借りて、その担保として将来債権を譲渡人が譲受人に譲渡しているんだ、という法律構成をとることも可能です。将来債権の譲渡担保が可能だということです。

譲渡担保の法律構成をとると、譲渡人が譲受人から金銭を借り、万一支払えなかったときの担保として将来債権を譲渡しておくが、支払いが続いている限り、譲渡人は将来債権の期限に取り立てた金銭を譲受人に引き渡す必要がないという契約を譲渡人と譲受人は締結したんだと考えます。

そして判例は、集合債権を対象とした譲渡担保契約において、債券の譲渡を第三者に対抗するには、指名債権譲渡の対抗要件の方法によることができるとしました。

<売掛債権の種類>
集合債権の譲渡担保と対抗要件を認めた裁判の対象になった債権は、株式会社に対する将来発生する商品売掛代金です。診療報酬債権に限らず、およそ将来発生する売掛債権であれば、今、現金化できるということです。

<有利な資金調達>
例えば、下請け企業がメーカーに対して将来発生するであろう売掛債権を、今、現金化することも可能です。

下請け企業は、この方法により、通常、有利な条件で(低い金利で)資金調達ができます。通常、譲渡する将来の売掛債権の相手方の信用力の方が、下請け企業の信用力よりも高いからです。

アセット・ファイナンスは、通常よりも有利な条件でお金を集めることが可能な手段であるという性格を有している、という点を指摘し、アセット・ファイナンスの特集を締めくくることにします。

テーマ : 金融商品取引法
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アセット・ファイナンス21


二項有価証券である組合出資持分を取扱っている金融商品取引業者の方が注意すべき規定に「分別管理」があります。

<分別管理規制の主語>
条文は、金融商品取引業者は、組合契約の営業者等が、投資家の出資金を金商業等府令125条に規定さている通りに分別管理している場合でなければ、当該組合契約の出資持分を販売してはならないと規定しています(法40条の3)。

主語が「金融商品取引業者」ですから、金融商品取引業者に向けられた規制であるため、金融商品取引業者が、営業者等の分別管理状況を確認する必要があります。

分別管理がされているというためには、営業者等の定款等で次の基準が満たされている結果、投資家の出資金と営業者等の固有財産その他当該営業者等の行う他の事業に関連する財産とが分別して管理されていなければならないとあり、基準とは

1.出資対象事業の業務の方法、及び投資家の出資金が帳簿上ファンド毎に管理されていること

2.投資家の出資金が投資家の出資金の管理口座であることがわかる口座名義で銀行預金されていること

の2つだと規定しています(金商業等府令125条)。

営業者等の定款等に2つの点が規定されていれば、定款で規制したことは営業者の義務になりますから、定款等に書いてあること、と規定しているわけです。

<分別管理の方法>
分別管理の方法としては、投資家の出資金はファンド毎に区分管理されていなければなりません。ただし、帳簿上の管理で十分。ファンド毎に通帳を分けることまでは要求されていません。

一方、通帳は、営業者等の固有財産その他の当該営業者等の行う他の事業に関連する財産とは違う口座で管理されていなければなりません。その他の方法もありますが、銀行預金通帳を分ける方法が、一番現実的でしょう。

なお、ここでいう「他の事業」とは、営業者が行うファンド運営以外の営業固有の事業を指します。「他のファンド」の意味ではありません。

<注意!>
忘れてはいけないのは、この規定は、出資持分を販売する金融商品取引業者に向けた規制だということです。営業者等に向けられたものではありません。

仮に営業者等が、定款等に2つのことを書いてなかったとしても、営業者等は責めを負いません。行政処分という形で責めを負うのは販売した金融商品取引業者の方です。ですから、実務としては、出資持分を販売する金融商品取引業者は、営業者等から定款の写しをもらっておくのが良いでしょう。

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ジャンル : ファイナンス

アセット・ファイナンス20


信託受益権の「発行」は、1.委託者兼当初受益者であり、2.運用指図権が委託者にある場合には、委託者が信託受益権を売却したときです。

<発行>
「発行」の定義は金融商品取引法のどこを探してもありませんが、発行者に対して、投資家が発行代り金を支払ったとき、要するに、資金を提供したときが発行のときです。

もっとも、欧州の実務では、代り金の支払いは要件ではなく、単に、発行者が「発行した」と宣言すると発行になると聞いたことがありますが、真偽のほどは知りません。

<信託受益権の発行>
信託受益権は、金銭信託の場合、委託者が受託者に金銭を信託したときに発行されます。受託者を基点にして考えてみると、委託者は受託者に信託受益権の発行代り金を支払っているからです。

「受託者が発行しているのなら、受託者が発行者で、受託者の行為は私募(自己募集)になるんじゃない?」

と鋭い読者の皆様は考えるかもしれません。政策的には、そうすることもできたはずです。でも、金融商品取引法は、そうしませんでした。

金融商品取引法は、委託者兼当初受益者が信託財産の運用権限(指図権)をもっているときは、委託者が、受託者が発行した信託受益権を譲渡したときが「発行」だとしました。

なぜでしょうか。

<金融商品取引法の基本ルール>
金融商品取引法は、もともと、投資サービス法として誕生するはずでした。投資商品すべてに網をかける法律を前提にしたわけです。

結局、この壮大な目論見は実現しなかったため、有価証券とデリバティブ取引だけが対象になりました。そして、有価証券の定義を広げることによって、信託受益権や組合契約出資持分に対しても、金融商品取引法が適用されるように工夫しました。

ただ、投資サービス法の精神は、金融商品取引法の基本ルールの中で生かされています。具体的には、二項有価証券の定義に現れています。

二項有価証券は、信託受益権や組合出資持分のことですが、いずれも、運用権限がある者を発行者とみなしています。これが、金融商品取引法の基本ルールの一つです。

この基本ルールがあるから、「委託者が信託財産の運用指図権があるとき」には、委託者を発行者としたわけです。

<受託者が発行者になることはないのか>
すると、鋭い読者の皆様は、「受託者が運用権限を持っているときは受託者が発行者か」とご質問されるでしょう。

その通りです。金銭信託の場合、委託者兼当初受益者であっても、運用権限が受託者にある場合には、発行者は受託者です。そして、当然の帰結ですが、発行は、信託の効力が生じるとき、実務的には、通常、委託者が受託者に金銭を信託したときです。受託者が信託受益権を発行したときと言い換えても構いません。委託者兼当初受益者の金銭信託のうち、受託者に運用権限があるときには、信託受益権の発行が、金融商品取引法の発行に一致するわけです。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

アセット・ファイナンス19


<金融商品取引法の適用>
将来債権の証券化に対する金融商品取引法の適用を見てみましょう。

匿名組合契約の出資持分は、金融商品取引法の二項有価証券です。ですから、金融商品取引法の適用を受けます。

営業者が出資持分の取得の勧誘をする行為は、自己募集です。匿名組合契約の出資持分の自己募集は、第二種金融商品取引業です。ですから、営業者は、原則として、第二種金融商品取引業の登録をしなければなりません。

金融商品取引法が施行された当時のパブリックコメントの金融庁の回答によると、例外として、営業者が、まったく取得の勧誘、つまり、投資家集めに関わらず、他の第二種金融商品取引業者に投資家集めを全部委託した場合、営業者は登録不要です。

このとき、委託を受けた金融商品取引業者が、いったん、自己資金で出資持分を取得してから、投資家に出資持分を取得させると、「取得させることを目的として取得すること」ですから、「引受け」になってしまいます。

レバレッジド・ファイナンスのところで「記憶しておいてください」とお話したところですが、大丈夫でしょうか。

引受けは第一種金融商品取引業です。ですから、金融商品取引業者が、第二種金融商品取引業の登録しか受けていない場合には、いったん自己資金で出資持分を取得してから、さらに投資家に取得させることはできません。

<投資家からみたアセット・ファイナンス>
これまで、金銭債権、そのうちの特にリース債権、売掛債権、将来債権を活用したお金の集め方、アセット・ファイナンスを概観してきました。

信託を利用したり、匿名組合契約を利用したりして、資産(アセット)を現金化する方法を見てきました。

なぜ、今、アセット・ファイナンスなのか。

それは、アセットを裏付とした信託受益権や匿名組合出資持分は、投資家にとって、オルタナティブ投資になるからです。

Alternativeとは「代替」という意味ですが、コーポレート・ファイナンス、つまり、社債や株式を発行して企業の信用力でお金を集める従来からのやり方は、投資家にとって魅力がありません。

投資家の中には、株式や社債は既に十分に抱えている投資家がいます。あるいは、株式や社債のように、発行企業一社の信用リスクを抱えることを嫌う投資家もいます。

このような投資家にとって、アセット・ファイナンスで発行される信託受益権や匿名組合出資持分は、代替投資商品として、あらためて注目される商品です。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

アセット・ファイナンス18


<将来債権の譲渡>
法律問題を別にすると、匿名組合契約を利用して、将来債権を、今、現金化する仕組みは、いたって簡単です。

将来、売掛債権が発生する見込みのある企業(個人の場合も)が、将来の売掛債権、将来債権を匿名組合契約の営業者に譲渡して現金化する、それだけです。

ここからは法律問題ですが、将来債権を特定しないで漠然と譲渡することはできません。将来債権を特定するとは、譲渡の目的とされる将来債権の発生原因、金額、期間(始期と終期)を明確にするなど、「これ!」ということがわかるようにすることです。そして譲渡します。

営業者は、匿名組合契約を投資家と結び、投資家から出資持分に応じた金銭を受領し、将来債権を所有していた企業に現金を支払います。

これで、売掛債権が恒常的に発生する企業は、将来債権を現金化できたことになります。

将来債権は営業者に譲渡されますので、当然、債権者は営業者になります。営業者は、債権者として将来債権の支払い期限に債務者から金銭を回収して、投資家に配当し、投資家は満足を得る、というのが全体像です。

<将来とはいつまでを指すか>
法律問題として、いつまでの将来債権が譲渡できるのかという問題があります。1年後に発生する債権までか、3年後に発生する債権でもいいのか。

将来債権の譲渡に関する有名な判例があるので、紹介します。

事例は、診療所が、昭和57年12月から平成3年2月までの8年3か月の診療報酬債権を譲渡したものです。仙台高裁は、譲渡契約日の昭和57年11月24日において、将来債権が安定して発生することが確実に期待されないとして、一部の譲渡の効力を否定したのですが(つまり、譲渡できないとした)、最高裁は、将来債権の発生の可能性が低かったことは、譲渡契約の効力を当然には左右しないと判断しました(最判平成11年1月29日民集53巻1号151頁)。

諸般の事情を考慮しなければなりませんが、判例によると、期日の自由度は高そうです。

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プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
電話:03-5533-8785
http://office-jsl.com/

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お問い合わせは、お問い合わせフォームで受け付けます。

<主な業務>
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