公正な価格形成が重要な理由


8月9日のメールマガジンからの抜粋です。


証券取引等監視委員会は、ヤマゲン証券が金商法違反行為を行ったとして、金融庁に行政処分勧告を行いました。

認定された法令違反は、作為的相場形成です。作為的相場形成とは、主に、上場株券が取引される株式市場において、実勢を反映しない作為的な相場形成になると知りながら、自己売買又は委託売買を行う行為です。

作為的相場形成のうち、最も多い事例と考えられるのは、終値形成(終値関与)と呼ばれる、引け値を作為的に上げる又は下げる注文を発注する行為です。今回の指摘も、終値形成であるようです。

なぜ、作為的相場形成は禁止されるのでしょうか。

理由は、金商法の目的規定から考えるべきです。

金商法は、有価証券の公正な価格形成を図ることをもって、投資者の保護と国民経済の健全な発展に資することを目的とする法律です。

公正な価格形成とは、すべての取引参加者が市場に存在するすべての正しい情報を共有している中で、需要と供給が交わる一点で決まった有価証券の価格のことです。

この場合の有価証券は、(表示されるべき権利を含む)株券に限らず、社債や投資信託などの第一項有価証券も、信託受益権や組合等出資持分などの第二項有価証券も含みます。

第二項有価証券に関しては、「価格は当事者間の交渉で決まるので、取引ごとに異なる」と堂々という人がいますが、金商法は、一点に決まると考えています。証券取引等監視委員会の検査官の言う「一物一価」です。ですから、第二項有価証券であっても、複数の価格が存在することは、本来、認められず、したがって、複数の価格が存在した場合、いずれかの価格が「不公正な価格」であると認定されも文句が言えません。

実務と金商法の考え方にずれがあるかもしれませんが、有価証券の取引においては、実務より、金商法が優先されます。なぜなら、不公正な価格は、投資者の保護と国民経済の健全な発展を阻害し、日本経済の崩壊につながりかねないからです。

有価証券の価格が公正でなかった場合、有価証券の価格を公正であると信じて売買を行った投資者は、売買を行った時点で、既に負けているおそれがあり、したがって、不測の損害を被る可能性が極めて高いことになります。投資者は、このような投資者保護が図られない市場を信用しないため、このような市場に参加しません。

投資者が市場に参加しないと国民経済の健全な発展が阻害され、日本経済は崩壊します。なぜなら、企業は資金調達手段を失うからです。単純な例をあげれば、誰一人株式市場に参加しなければ、株式会社は成り立たず、株式会社が経済の主な担い手である日本経済は崩壊します。

また、国民の財産は有限であることから、適正に配分される必要があります。具体的にいうと、例えば、株式市場においては、成長産業の株券が買われ、衰退産業の株券は敬遠されることによって、限りある国民財産が成長産業に投資される必要があるということです。

限りある国民財産は適正に配分されることによって、国民経済の健全な発展が実現するという考え方です。

もし、衰退企業が、虚偽の有価証券届出書なり、有価証券報告書なりを作成し、投資者から資金を調達すると、成長産業に向かう国民財産は減ることになり、ひいては、国民経済の健全な発展を阻害し、日本経済が崩壊します。

このことから、有価証券報告書などの虚偽記載は、最も重い刑事罰を科されるわけです。

わかりやすく、株券を例にとってお話ししましたが、すべての有価証券の発行は、資金調達手段であることから、この考え方は、社債や投資信託、信託受益権や組合等出資持分に関しても同じであることは、既述の通りです。

検査事例に話しを戻すと、作為的相場形成は、公正な価格形成を阻害し、ひいては、日本経済の崩壊を招くことから、金商法で禁止されているわけです。


基本的に、現在、ブログの更新は行っていません。代わりに、約300社の金商業者や行政当局等に配信している無料のメールマガジンを配信しています。

メールマガジンの配信を希望される方は、以下のフォームからお申込みください。

<メールマガジンのお申込み>


なお、読者数があまりに多く管理が大変であることから、金商業者と金融行政当局以外の方からのお申込みはお断りしています。

お申込みフォームに記入するメールアドレスは、必ず、所属する金商業者・行政当局の公式のメールアドレスを入力してください。他のメールアドレスを入力されても、メールマガジンは配信いたしません。

メールマガジンの配信の前に、簡単な審査を行います。審査の結果、メールマガジンを配信しない場合があります。審査の結果や配信しない理由に関してましては、一切お答えいたしません。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

一から金商法


4月3日のメールマガジンからの抜粋です。



4月は新入社員の季節なので、金商法を1から、やさしく、実務的かつ実践的に解説するシリーズをお送りすることにします。新入社員の方にとってはもちろん、既に金商法を学んでいる方にとっても、実務ですぐに役立つ内容にしていきます。

初回は「目的」です。

金商法の目的は、金商法全体の鳥瞰図のようになっています。

目的規定は、一つの文で句点がないため、読点で区切って読むことにします。

「この法律は、企業内容等の開示の制度を整備するとともに」

金商法は、開示規制、行為規制(業者規制)、不公正取引規制の3つの規制から成り立つ法律です。金商法のどこを探しても、この3つの規制に係る規定以外の規定はありません。

目的規定の最初は、金商法が、開示規制について規定していることを示しています。

「金融商品取引業を行う者に関し必要な事項を定め、金融商品取引所の適切な運営を確保すること等により」

次に、金商法は、金商業者と取引所など、「市場」参加者の行為を規制する行為規制について規定していることを示しています。

「有価証券の発行及び金融商品等の取引等を公正にし」

最後に、金商法は、不公正取引規制について規定していることを示しています。

「有価証券の流通を円滑にするほか、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り」

目的規定には複数の説がありますが、説を紹介することは文献に譲るとして、金商法は、「公正な価格形成」を図るために存在する法律であることが示されています。

金商法の目的規定の中で、最も重要なキーワードは「公正な価格形成」です。金商法のすべての条文は、公正な価格形成のためにあります。

例えば、金商法第4条に基づく有価証券の募集に関する発行者による有価証券届出書の提出義務は、発行者に大きな負担を負わせますが、なぜ、このような義務が金商法に規定されているかというと、発行者が有する情報を投資者と共有させることを通じて、発行価格の公正性を担保するためです。

金商法第4条は、発行者が示す発行価格を投資者が受け入れるか拒否するかを判断する材料(有価証券届出書)を発行者に提出させることにより、発行価格を、有価証券の供給者である発行者と有価証券の需要者である投資者が同じ情報を持ったときに需給の一致する点に落ち着かせようとする規定です。

「もって国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とする」

金商法が目的と定めているものは、「国民経済の健全な発展」と「投資者の保護」に資することです。

「国民経済の健全な発展」とは、限りある国民資産が効率的に配分されることで求められる国民経済の発展のことを指します。成長企業に、より多くの国民資産が配分されれば、国民経済の発展が期待できるということです。

金商法第166条で、インサイダー取引がなぜ禁止されているのかというと、インサイダー取引が行われると、市場が信頼を失い、本来市場に参加する予定だった投資者が市場に参加しなくなってしまうことで、限りある国民資産が効率的に配分されなくなるおそれがあるからです。

金商法第197条で、有価証券報告書の虚偽記載が、厳罰をもって禁止されている理由は、投資者の保護もさることながら、本来、資金を調達できなかったはずの会社が資金を調達することにより、限りある国民資産が効率的に配分されなくなる結果、国民経済の発展が損なわれるからです。

各条文を読むときには、目的規定に照らして意味を理解する必要があります。

繰り返しになりますが、目的規定の最も重要なキーワードは「公正な価格形成」です。なお、公正な価格形成を実現するための市場とは、正しい情報がすべて価格に反映されている市場です。

金商法第38条で、特別の利益の提供が禁止されている理由の一つは、特別な利益が提供されると、正しい情報を持たず、本来市場に参加する予定のなかった投資者が市場に参加することにより、公正な価格形成が歪められる結果、国民経済の健全な発展や投資者の保護を損ねることになるからです。


ブログの更新は基本的に停止しています。代わりに、金商業者の実務に役立つ情報を、無料のメールマガジンで送信しています。

メールマガジンのお申し込みはこちらから

お申込みの際のメールアドレスは、必ず、所属する金商業者等のメールアドレスを使用してください。それ以外のメールアドレスでの申込みは一切受け付けません。

また、読者の数があまりにも多くなってしまい、配信が困難になっていますので、お申込みは、金商業者の方、金融庁・証券取引等監視委員会・金融商品取引業協会などの方に限らせていただきます。他の方は有料でも配信いたしません。

申し込まれても、実際に配信するかどうかは、私が判断しますので、配信されない場合があることをあらかじめご了承ください。なお、配信されない理由を聞かれても、回答いたしません。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

不動産信託受益権はなぜ有価証券なのか


「不動産信託受益権が、有価証券なんておかしい!」という宅建業者の声を聞くことがあります。ここでは、宅建業者の声の誤解を解くとともに、不動産信託受益権の価格の問題について考察します。

金商業者が行う取引において、何をおいても重要なものは、金商法の目的が「公正な価格形成」である以上、「価格」ですから、価格の問題を考察することは、大変大きな意味があることです。

私の記憶が正しければ、もともと、信託受益権が金商法(旧証取法)で、有価証券に指定されたのは、平成4年施行の、金融システム改革法です。

現在では、すべて信託受益権が有価証券に指定されていますが、当初、有価証券に指定された信託受益権は、銀行の貸付債権信託のみでした。不良債権処理のために、貸付債権の貸主を信託銀行に固定し、経済的利益を貸付債権(信託財産)から切り離し、貸付債権から生ずる配当金と分配金の請求権を移転させる市場の整備をするために、有価証券に指定されたのが始まりです。

この「信託財産から切り離して権利だけを移転させる」こと、別の言い方をすれば、流動性の乏しい信託財産に流動性を持たせるために、市場を整備することが、信託受益権の有価証券指定の背景にあります。

だから、金商法はこう考えます。

「もし、不動産信託受益権が、金商法で有価証券指定されていなければ、不動産信託受益権の流通を規制する法律がないため、投資家が安心して取得できない、その結果、流通しないから、不動産信託受益権に流動性を持たせ、不動産信託受益権市場を活性化させるために、不動産信託受益権を有価証券に指定した意味がある」

だから、不動産信託受益権を取り扱う不動産関連業者(二種業者・運用業者)は、理屈の上では、不動産信託受益権の有価証券指定を歓迎するのが本来の姿ということになります。

さて、不動産信託受益権が金融商品取引法で有価証券に指定されたために、宅建業者(二種業者)や不動産ファンド運用業者が、考慮しなければならなくなったのは、不動産信託受益権の「価格の公正性」です。金商法の直接的な目的は、「公正な価格形成」にあるからです。

不動産関連業者の中には、不動産信託受益権と現物不動産との価格を同一視する者がいますが、これは違います。

不動産信託受益権は、現物不動産(信託財産)から、完全に切り離された「有価証券」です。現物不動産の所有者は信託銀行であり、移転しているのは現物不動産から生ずる配当金と分配金を収受できる権利のみです。この点の理解が欠けていると、現物不動産の価格と信託受益権の価格は違うという点が理解できません。

仮に、現物不動産の価格が、売主と買主の合意によって決まるとしても、つまり、売主又は買主が変われば、違う価格で決定する可能性があるとしても、不動産信託受益権の価格は、配当金と分配金という一定値で決定するため、売主と買主が変わっても、取引価格は一定でなければなりません。不動産信託受益権の価格は、取引当事者に依存しないということです。

だから、こういう検査指摘事項があるわけです。

「運用業者が、SPCに不動産信託受益権を取得させる際、現物不動産にフリーレントが付いていたにもかかわらず、フリーレントを考慮しない鑑定評価を使って、当該不動産信託受益権をSPCに取得させた」

鑑定評価にフリーレントが考慮されていないことを、売主、買主、投資家が、仮に、知っていて、納得していたとしても、フリーレントが考慮されていない鑑定評価を利用することはできません。なぜなら、不動産信託受益権の価格は、配当金(テナント料相当)と分配金(売却金額相当)から、一定金額に決まるものであって、取引当事者に依存しないからです。

実際には、投資家は知らなかったという事例で行政処分になるのでしょうが(本件の行政処分は他の違反と合わせて3か月の業務停止)、不動産信託受益権は、現物不動産から経済的利益を切り離して流通させる仕組みだから、価格は、不動産信託受益権から生ずる配当金と分配金から、一定金額に決まるという原則が揺らぐことはありません。

なお、鑑定業者が異なれば、不動産信託受益権の価格が変わるというのは別の話です。一定金額に決まると言っているのでは、一定のモデルを使っていれば、一定金額に決まるということで、モデルが異なれば、異なる結果が出ても、まったくおかしくないからです。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

木を見て森を見ず


4月21日発行のメールマガジンの抜粋です。



AUによる携帯料金と保険のセット販売が、保険業法で禁止する「特別利益の提供」に該当するかどうかが問題になっているようです。新聞解説によると、保険業法で「特別利益の提供」が禁止されている理由の一つは、「保険加入者間の公平」を損なうからだということです。

金商法も、金商業者による「特別の利益の提供」を禁止しています。ただ、保険業法と違い、金商法には、「市場参加者間の公平」という考えはなく、「特別の利益の提供」が禁止されている理由は、特別の利益の提供がなければ市場に参加しなかった投資者が市場に参加することで、①公正な価格形成が歪められる、②当該投資者が不測の損害を被る、③当該投資者と金商業者の間のトラブルの原因になることなどにあります。

金商法を読むときの注意点として、公開買付け制度を除き、金商法に「市場参加者間の公平」という概念はないということを忘れないで読む必要があります。市場参加者間に存在するのは健全な(法律に則った)競争であり、お互いの利益に干渉しない自己責任の原則であり、情報の非対称性です。

例えば、金商法は、開示規制、行為規制(業者規制)、不公正取引規制のわずか3つの規制から成り立つ法律ですが(この3つ以外の規制は金商法に存在しない)、いずれも、市場参加者間の公平は考えていません。

開示規制において、有価証券の発行者に情報開示を義務付ける開示規制は、発行者という市場参加者と、投資者という市場参加者の間の情報の非対称性を是正することにより、新たに発行される有価証券(募集の場合)、あるいは、既に発行された有価証券(売出しの場合)の「価格」の公正性を担保するための制度です。

既に発行された有価証券で、市場で取引されている有価証券の場合、有価証券の「価格」は、存在するすべての情報を反映しているため公正であるけれども(invisible hand)、募集や売出しの場合には、発行者が有する情報と、投資者が有する情報の間に、情報の非対称性が存在し、公正な価格形成が期待できないため、発行者に情報を開示させます。売出しの場合にも、つまり、資金調達者である売出人が発行者でない場合であっても、開示義務が発行者に課されるのは、このためです。

行為規制において、金商業者による「損失補てん」が刑事罰をもって禁止されていますが、この禁止規定が存在する理由は、「損失補てんは投資者間の不公平感を生むから是正する」ことではありません。損失補てんを許してしまうと、本来、市場に参加すべきでない者が市場に参加するため、公正な価格形成が歪められるからであり、金商業者の財務の健全性が損なわれ、ひいては、金商法の目的規定にある「投資者の保護」に支障が生じることになるからです。

不公正取引規制において、「インサイダー取引」が刑事罰をもって禁止されている理由は、インサイダー取引が、「インサイダー情報を持っている人が有利で不公平だから」ではなく、インサイダー情報を知っている投資者が、インサイダー情報を知らない投資者との間で株券等の売買等をする行為は、詐欺的行為であって、インサイダー取引が横行すると、市場は信頼を失い、投資者が市場に参加しなくなる結果、金商法の目的規定にある「国民経済の健全な発展」を阻害するからです。

なお、勘の良い方は、「インサイダー情報が市場に反映されなければ、存在するすべての情報が市場に集まっていることにならないのではないか」という疑問を持つと思います。この考えは正しく、だから、インサイダー取引を規制するかどうかは、何を優先させるかの問題であって、インサイダー取引を規制することが必ずしも正義であるわけではありません。

以上のことは、20年以上前、私が、コンプライアンス担当者に任命されたばかりの頃に読んだ「証券取引法入門」(商事法務研究会)にとても詳しです。このような良書による勉強は、決して、勉強のための勉強、興味本位の勉強ではなく、規定が細かいために、「木を見て森を見ず」になりがちな、金商法の条文の一つ一つの読み込みの際の一本の柱・指針を持つために重要です。柱・指針がないと、例えば、禁止規定一つとっても、「金商法で禁止されているから禁止」と、金商法を暗記科目のように考えがちであり、金商法の条文がいつまでたっても自分のものにならないと思います。

買った当時、あまりにも面白くて、夜を徹して、何度も何度も繰り返し読んだ「証券取引法入門」は既に絶版ですが、図書館にあるか、あるいは、「新訂第二版」であれば、アマゾンで中古が販売されています。金商業者のコンプライアンス担当者の方にお勧めです。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

金融商品取引法16


有価証券届出書の提出義務者、つまり、募集や売出しの対象となる有価証券の発行者には、「目論見書」を作成する義務が漏れなくついてきます。

逆にいえば、募集や売出しの対象となる有価証券の発行者なんだけれども、有価証券届出書の提出義務がない発行者は、「原則として」、目論見書を作成する必要はないということになります。

<有価証券届出書の提出義務のない発行者>
募集や売出しの対象となる有価証券の発行者なんだけれども、有価証券届出書の提出義務がない発行者とはどのような発行者か?

これは既にお話した通り、次のような発行者です。

1 ストックオプションの発行者

2 既に開示された有価証券の売出しの対象となる有価証券の発行者

3 国内で募集が行われなかった外国有価証券の発行者

4 発行価額・売出価額の総額が1億円未満の有価証券の募集又は売出しの対象となる有価証券の発行者

1は、ストックオプションの取得者は、既に発行者の情報を良く知っているからです。3は、取引価格に発行者の情報が反映されていると期待されているからです。4は、発行者の負担を軽減する趣旨です。

<目論見書の作成が義務付けられる場合>
では、2はどうか?

2について、有価証券届出書の提出義務がない理由は、既に企業情報と証券情報が開示されているから、2度も有価証券届出書の提出義務を課すのは、過剰規制だろうという判断からです。

でも、2の場合、もし、売出人がもっている企業情報と投資家がもっている企業情報の間に、格段の格差があった場合は、様子が違います。

ちょっと難しく聞こえるかもしれませんが、「売出人が企業情報を持っている」という状態は、特殊な状態であることはわかりますか?

売出人は、通常、有価証券の発行者ではありません。初めのうちは、ここを混乱しがちなので、少し、解説を加えます。

発行者が有価証券を販売する行為は、募集です。募集の場合、資金調達をする者と発行者は一致します。だから、当然、かどうかはわかりませんが、発行者は自分に有利な価格(高値)で有価証券を発行しようとします。

このままでは情報量において発行者に劣る投資家に不測の損害が生じる可能性がある。だから、発行者に企業情報を開示させる、つまり、有価証券届出書の提出義務を課す必要があるわけです。

一方、売出人は、通常、発行者ではなく、発行者とは他人で、(たまたま)ある発行者が発行した有価証券を大量に所有していた者です。

いいですか?

ということは、既に開示が行われている有価証券の売出人がもっている企業情報と、投資家がもっている企業情報に格差はないはずです。だから、既に開示された有価証券の売出しには、発行者による有価証券届出書の提出義務がないのです。

でも、例外もあります。どんな場合でしょう?

それは、売出人が発行者や発行者と密接な関係のある者だった場合です。このときは、売出人イコール発行者の方が、情報量において投資家に優っています。

そこで、金商法は、売出人が発行者や発行者と密接な関係にある者、例えば、有価証券の残額引受けをした者であった場合には、直接開示、つまり、発行者による目論見書の作成義務を課しています。

ここまで、大丈夫でしょうか?

既に開示が行われた有価証券の売出しが行われる際には、発行者に有価証券届出書の提出義務はありませんが、売出人が発行者や関係者だった場合には、発行者に目論見書の作成義務は課したということです。

<売出有価要件の再販>
有価証券取引の実務では、こういう問題(本当は問題ではない)が起きています。

発行者が有価証券届出書を提出した有価証券の売出しを行った証券会社が、投資家から買い戻した有価証券を再び販売する(売出しする)ことができるかということが、証券会社で真剣に議論されることがあります。

既に開示が行われた有価証券を買い戻した証券会社は、買い戻した有価証券を、目論見書を交付することなく、再び50名以上の投資家に売付け勧誘等をすることができるか(売出しによる再販は可能か?)という議論です。

できるでしょうか?

正解は、原則として、できるです。

既に開示が行われた有価証券の売出人となる証券会社が、発行者や発行者の関係者であれば別ですが、そうでなければ、既に開示が行われた有価証券の発行者には、目論見書の作成義務がないのですから、当然のことながら、目論見書を交付することなく、売出しによる再販が可能です

実務では、なぜか、再販しようとする証券会社の中に、勧誘の相手方の数を49名以下にしている証券会社がいますが、何の法的根拠もない無駄な行為です。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
電話:03-5533-8785
http://office-jsl.com/

<お問い合わせ>
お問い合わせは、お問い合わせフォームで受け付けます。

<主な業務>
主な業務は、主な業務をご覧ください。

ブログの内容は個人的見解ですので、正確性は保証いたしません。また、ブログの内容に関する質問を含め、質問には一切回答いたしかねますので、ご了承ください。

プライバシーポリシー

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
Translation
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード