目論見書の交付時期


目論見書の交付義務違反で証券会社が営業停止処分を受けた事件が、私が記憶している限りでは、過去に一度だけあります。

ある証券会社が、決済後に目論見書を交付することを認める社内通達を出していたため、多数の目論見書が決済後に交付されていたことが当局の調査でわかり、同社は改善したと当局に報告しにもかかわらず、以後も決済後に目論見書を交付していた事例が発見され、営業停止に至った事案です。

<目論見書の交付時期>
目論見書は、投資家に有価証券を、取得させ又は売付けるまでに、つまり、決済(通常は前金)するまでに交付しなければなりません。

目論見書は、募集又は売出しに際し、発行者が作成し、投資家に直接交付される開示書類です。

発行者は、一方で、EDINETを通じて、財務局に有価証券届出書を提出しています。

投資家は、インターネット接続環境があれば、いつでも、有価証券届出書を見ることができます。が、必ずしも、すべての投資家がインターネット接続環境にあるとは限りませんし、接続できたとしてもEDINETにたどり着けるとも限りません。

そこで、直接的な開示資料として、有価証券届出書と基本的に同じ内容を記載した目論見書が投資家に交付される制度になっているわけです。

別の機会に何度か話していますが、有価証券は品質保証がされていない数少ない商品です。食品でも自動車でも、商品は多かれ少なかれ品質が保証されています。自動車ならブレーキがきかない自動車は販売されていないわけです。

もし、ブレーキのきかない自動車が販売されていて、事故が起きたら、購入した人は、販売会社に損害賠償を請求できます。なぜ損害賠償を請求できるかと言うと、それは、自動車はブレーキがきくものと品質保証されているからです。

有価証券、つまり、株券や社債や信託受益権は違います。例えば、発行者が倒産して有価証券の価値がなくなることもあるわけです。有価証券を買った人が損したとしても、販売会社にも発行者にも、例外を除き、損害賠償を請求できません。有価証券は品質保証されていないからです。

だから、有価証券を取得しようとする投資家には、事前に、有価証券の内容を記載した書面が交付されるのです。そして、投資家は、書面に記載された会社の財務状態や経営成績から判断して、投資する価値があると判断した有価証券にのみ投資をするというのが、有価証券取引の鉄則になっています。

<公正な価格形成>
なお、有価証券取引について情報公開制度が充実している根本的な理由は、投資家に不測の損害が生じることがないようにするというより、有価証券の公正な価格形成に必要だからです。有価証券の価格にはすべての情報が反映されていることが理想です。そうでないと、限りある国民財産の効率的な配分ができないからです。この意味から、一項有価証券に投資しない二項有価証券に開示規制が適用されない金融商品取引法は問題があり、即刻改正されるべきです。

<投資判断資料としての目論見書の性格>
目論見書は、投資家の投資判断資料です。ですから、当然のことながら、決済の前に、投資家に交付されなければ意味がありません。

金融商品取引業者の社員の中には「目論見書なんて小さな字でこまごま書かれた書類を投資家が読むわけないから、いつ交付しても一緒だよ」と思われる方もいるかもしれません。実際、複雑な記載の目論見書は、常に、金融商品取引法の問題の一つとなっています。でも、それは、決して、投資をする前に、目論見書を読む機会を投資家に与えないでもいいことを意味しません。問題を抱える目論見書ではありますが、投資家には、必ず事前に交付されるべきです。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

目論見書(2)


前回の続きです。

目論見書の交付義務の例外規定は、募集や売出しが行われ、既に開示が行われている社債の売出しを行おうとする証券会社の実務に影響しています。

<買戻玉の再販売>
売出しを行った有価証券を買い戻した証券会社が、買戻玉を不特定多数(50人)の投資家に再販売する場合、原則として、発行者に目論見書の作成義務が発生し、一般的に、証券会社には目論見書の交付義務が生じることは、既にお話した通りです。

例外として、既に開示が行われた社債の再販売は、目論見書の作成が必要ありません。目論見書の作成義務が発生する「既に開示された有価証券」に該当しないからです。また、作成されないので当然ですが、目論見書の交付義務も生じません。

ですから、売出しを行った社債の買戻玉を再販売するときには、50人以上に販売しても、売出しではありますが、目論見書の交付は不要です。

実務的にいえば、平成21年の改正までは、売出しを行った社債の買戻しを受けた証券会社は、発行者に買入消却してもらうか、勧誘の相手方の数(49人)を管理して再販売するか、自己で保有するしかありませんでしたが、不特定多数の投資家に再販売することが可能になりました。

<オファーシート>
前日終値や気配値を記載した社債の在庫一覧表、あるいは、在庫のある・なしにかかわらず、取扱い可能な社債の一覧表を、50人以上に配布する行為は、売出しです。金融庁の言葉を借りると「有価証券の売付け勧誘等に該当することがあります」。

ただし、一覧表に記載された社債について、既に、募集や売出しが行われている場合には、開示が行われているはずですから、発行者は有価証券届出書を提出する義務がありませんし、目論見書を作成する必要もありません。

ですから、既に開示が行われている社債のみを記載した一覧表であれば、不特定多数に配布しても、売出しですが、目論見書の交付は不要です。

<注意>
念のためですが、目論見書の作成が不要な場合は、既に開示が行われている有価証券についてです。開示が行われていていない有価証券の売出しは、当然、目論見書の作成が要求されます。

また、有価証券届出書の効力発生日から3ヶ月間の売付け(売出しに限りません)には目論見書の交付義務が要求されるのも、従来通りです。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

目論見書(1)


目論見書についても触れておきます。

目論見書の内容は、インターネットや証券会社の窓口で確認することができます。ここで取り上げたいのは、目論見書の交付が「不要」な場合です。

<既に開示された有価証券>
既に開示された有価証券、例えば、過去に有価証券届出書が提出されて売出しが行われた有価証券の売出しが行われた場合、発行者は、再度、有価証券届出書を提出する必要はありませんが(金商法4条1項3号)、原則として、目論見書は作成しなければなりません(金商法13条1項後段)。

ただし、この原則が適用される売出しは、開示が行われている場合における有価証券の売出しのうち、「売出し価額の総額が1億円未満であるものその他内閣府令で定めるものを除く」売出しです。

平成21年の金融商品取引法の改正で、例外である内閣府令で定める売出しが広がりました。実務的にいうと、原則と例外が逆転しています。

内閣府令に追加された売出しは、有価証券の発行者、発行者の関係者、残額引受けをした証券会社が行う当該有価証券の売出しに該当しないものです。ただし、ここで「有価証券」とは、株券等に限られます。

既に開示が行われた株券等の再販売(再売出し)は、発行者、発行者の関係者、残額引受けをした証券会社が行った場合、有価証券届出書の提出は不要ですが、目論見書の作成・交付が必要です(企業開示府令11条の2)。発行者等と投資家の間には、圧倒的な情報格差があるからです。

ただし、再販売の対象となる有価証券が特定有価証券の場合は、発行者、再販売を目的として発行者から取得した証券会社、残額引受けをした証券会社が行うと、目論見書の交付が必要です(特定証券開示府令14条)。特定有価証券とは、投信やSPCが発行する有価証券などを指します。

したがって、逆に言うと、社債の再販売(再売出し)は、発行者、発行者の関係者、残額引受けをした証券会社が行った場合であっても、有価証券届出書の提出が不要であることはもちろん、有価証券通知書の提出も目論見書の作成・交付も不要です。(平成21年12月22日金融庁パブリックコメント回答27頁92参照)

以上の改正が、証券会社の実務に、どのような影響があるかを見てみましょう。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
電話:03-5533-8785
http://office-jsl.com/

<お問い合わせ>
お問い合わせは、お問い合わせフォームで受け付けます。

<主な業務>
主な業務は、主な業務をご覧ください。

ブログの内容は個人的見解ですので、正確性は保証いたしません。また、ブログの内容に関する質問を含め、質問には一切回答いたしかねますので、ご了承ください。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
Translation
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード