インサイダー取引(5)


改正インサイダー取引規制の「上場会社等」の意味で混乱されている方を見かけます。確かに、一見わかりにくいですので、「上場会社等」の意味を整理しておきます。

<役員の売買等と情報伝達等の禁止>
金商法163条1項より、役員による売買報告規定、役員の短期売買規定、役員の空売り制限規定及び会社関係者による情報伝達等の禁止規定(後述)における上場会社等は、上場株券や上場投資証券の発行者、つまり、上場会社や上場投資法人を指します。

<インサイダー取引規制>
同項は、「以下この条から第166条まで及び第167条の2第1項において「上場会社等」という」と規定しています。

だから、金商法166条(インサイダー取引の禁止規定)においても、上場会社等の意味は、変わらないような気がします。

ところが、同条1項1号より、売買をするとインサイダー取引になってしまう者を定義するための会社関係者の規定から、同条1項においては、上場会社等に、上場投資法人等の資産運用会社と資産運用会社の特定関係法人を含むことになります。

「わざと混乱させているのか!」と思うくらい意地の悪い規定に見えますが、結局、インサイダー取引となる者の範囲を広げているだけということです。ですから、決して、わかりにくい規定ぶりではありません。

<インサイダー情報の伝達等の禁止>
従来、インサイダー取引規制は、インサイダー情報を知っている者のインサイダー取引自体を禁止するのみで、インサイダー情報を漏えいした者を規制する規定はありませんでした。

今回追加された規定により、未公表の重要事実、いわゆるインサイダー情報を知っている会社関係者が、他人の損得のために、他人にインサイダー情報を伝達したり、売買を勧めたりすることが禁止されました。

注意しなければならないのは、禁止されている行為は2つであって、一つはインサイダー情報の漏えいですが、もう一つは、インサイダー情報を伝達したかどうかにかかわらず、売買を推奨する行為も禁止されているという点です。

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インサイダー取引(4)


インサイダー取引の基礎となるインサイダー情報とは「未公表」の情報に限ります。ですから、誰によって、どのように公表されれば、いつから金商法上公表されたと認定されるかが重要になってきます。

公表に関する規定の内容は、平成25年改正法においても、従来とほとんどまったく変わりません。

<公表者(法人)>
上場企業に関する重要事実については上場企業が、上場投資法人に関する重要事実については上場投資法人が公表した場合に、公表されたと認定されるのが合理的ですし、金商法もそう規定しています。

さらに、上場投資法人に関する重要事実については、上場投資法人ではなく、資産運用会社が決定した事実も含まれますので、この場合は、資産運用会社が公表した場合に、公表されたと認定されます。

<公表者(自然人)>
つまり、公表者は、場合に応じて、上場企業、上場投資法人、資産運用会社になるのですが、これらは法人ですから、実際には、自然人(人)が公表することになります。

法人の役職員なら誰が公表しても金商法上公表されたと認定されるわけではありません。権限のない人が公表しても公表されたことにならないということです。

基本的に、金商法上公表されたと認定されるためには、上場企業、上場投資法人、資産運用会社の代表取締役か、代表取締役から公表することを委任された者が公表しない限りは、金商法上公表されたと認定されません。

<方法と時期>
公表の方法と時期については、まず、公表者(自然人)が、2以上の報道機関に対して公開し、かつ、公開された重要事実の周知期間が経過したときに金商法上公表されたと認定されます。

また、公表者(法人)が、重要事実を金融商品取引所に通知し、通知された重要事実が公衆の縦覧に供されたときも、金商法上公表されたと認定されます。

さらに、重要事実が記載された有価証券報告書などが公衆の縦覧に供されたときも、金商法上公表されたと認定されます。

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インサイダー取引(3)


従来の会社関係者は、ざっくりまとめると以下の通りです。

<会社関係者>
1. 上場会社の役員や使用人など
2. 上場会社の会計帳簿閲覧権をもつ株主など
3. 上場会社に法令上の権限をもつ公務員など
4. 上場会社と契約を締結している者など

事例をみてみましょう。

事例
Eは、X社の経営企画室参事として企業買収の業務に就いていた際、Y社がX社と業務提携を行うことやX社を引受先とする第三者割当増資を行うと決定したことを知り、情報が公表される前にY者の株式を買い付けた。

Eは、X社の社員でしたが、X社の株式ではなく、別会社のY社の株式を売買してインサイダー取引の罪に問われました。

なぜでしょうか。

X社は企業買収の業務についてY社と契約関係にあり、前述の4.に該当するからです。

<改正法>
平成25年改正金融商品取引法は、これらの会社関係者に少し工夫を凝らしただけの規制です。

つまり、1.については、上場会社に、上場投資法人の資産運用会社と資産運用会社の特定関係法人を追加し、2.については、上場会社の会計帳簿閲覧権をもつ株主と同様の位置づけである上場投資法人の会計帳簿閲覧権をもつ投資主を追加したのが、今回の改正にすぎません。

<留意点>
上場投資法人の場合、上場会社には、上場投資法人の他、資産運用会社と資産運用会社の特定関係法人が含まれる点に留意する必要があります。

特定関係法人とは、いわゆるスポンサー、親法人や子法人のうち上場投資法人との間で不動産や不動産信託受益権の取引であって特定資産の価値に及ぼす影響が重大な取引を行う者を指します。

なお、特定関係法人は、重要事実の認定において大切な役割を果たします。

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インサイダー取引規制(2)


インサイダー取引とは、基本的に、次の4つのポイントにヒットする取引のことです。

<ポイント>
1. 「会社関係者」が
2. 「未公表」の
3. 「重要事実」を職務等に関し知りながら
4. 「株式等の売買」をする

事例をみてみましょう。事例は実際にあった事件です。

事例
X社の従業員であったDは、X社が自己の株式を取得することを決定した事実を知り、情報が公表される前に、利益を得ようとして、X社の株式を買った。

<あてはめ>
これを先ほどの4つのポイントにあてはめると、X社の従業員であったD(会社関係者)が、情報が公表される前に(未公表)、自己の株式を取得することを決定した事実(重要事実)を知りながら、X社の株式を買った(株式等の売買)ということになります。

従って、Dの行為はインサイダー取引に該当します。

<利益を得る目的>
事例では、Dは利益を得る目的で株式等を買い付けています。しかし、この説明はおまけです。

インサイダー取引に該当するかどうかは、インサイダー取引を行った者の内心の意志は関係ありません。ポイントの1から4に、「利益を得る目的」は入っていませんよね。

<財産の没収>
インサイダー取引で得た財産は没収されます。「得た財産」とは利益でありません。例えば、株式を100万円で買い付け、200万円で売り抜けたインサイダー取引の場合、没収されるのは利益の100万円ではなく、売却で得た財産200万円です。没収できない場合には、追徴されます。

<平成25年改正>
平成25年改正においても、この枠組みは変わっていません。変わったのは、会社関係者の範囲、未公表、重要事実、株式等の売買の範囲だけです。

だから、次回以降は、会社関係者、未公表、重要事実、株式等の売買について、従来はどうで、平成25年改正でどう変わったのか、一つ一つ確認しましょう。

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インサイダー取引規制(1)


久しぶりに、インサイダー取引に関する特集をお送りします。平成25年金融商品取引法の改正を受けた改正インサイダー取引規制の施行日が4月1日と迫っていることが原因です。

改正インサイダー取引規制を理解するためには、証券取引法時代からのインサイダー取引の考え方をしっかり、理解していなければ、正しい理解はできません。

今日からシリーズでお届けする、「インサイダー取引」のシリーズでは、できるだけ従来のインサイダー取引規制を理解することを出発点として、改正点を解説していきたいと考えます。

インサイダー取引規制には、文字通りインサイダー取引を規制する条文と、インサイダー取引を未然に防止するための条文とに分かれます。ものの本では、この二つの規制(条文)を同列に語るので、読者はインサイダー取引規制とは混乱させる複雑極まりない規制であると勘違いしてしまうのです。

この意味で、多くの学者や弁護士が出版している本を参考にしてインサイダー取引規制を理解することは、非常に危険です。むしろ、学者や弁護士が書いているほとんどのインサイダー取引規制に係る章は、百害あって一利なし、という場合があることを理解したうえで、読み進めることをお勧めします。

条文の順番から言って、まずは、インサイダー取引未然防止規制から解説します。

<短期売買利益の返還請求>
従来から、上場会社等の役員が自己の名義で(自分の財布で)、上場会社等が発行する上場株券等の売買をしてから6か月以内に反対売買をしたときには、上場会社等は役員に利益を会社に返還せよ!と請求することができます。インサイダー取引の未然防止などが目的です。

<売買報告書の提出>
従来から、上場会社等の役員が自己の名義で、上場会社等が発行する上場株券等の売買をしたときには、売買をした日の属する月の翌月15日までに、売買報告書を財務局に提出する義務があります。前述の規定に基づく、上場会社等が「利益を返還せよ!」と要求することを容易にすることが目的です。

<売買禁止規定>
従来から、上場会社等の役員が、自己のポジションをヘッジするために上場株券等を空売りする際、空売りの量がオーバーヘッジになるような空売りをすることが禁止されています。

<改正法>
平成25年改正金融商品取引法「は、これらの規定に少し工夫を凝らしただけの規制です。

つまり、上場会社に上場投資法人を、役員に資産運用会社の役員を、上場株券等に上場投資証券を追加したのが、今回のインサイダー取引未然防止規制の改正の一部の要点です。

従って、売買報告書の提出の例で言えば、改正法施行前から上場されている投資証券であっても、自社がAMを務める上場投資証券を取得した役員は、財務局に売買報告書を提出しなければならないということです。

<注意点>
以上の規制は、上場会社等あるいはAM等の役員のインサイダー取引の未然防止のために設けられた規制であって、インサイダー取引規制ではありません。学者や弁護士が書いているものの本には、未然防止規定とインサイダー取引禁止規定とを同列に説明するものがありますが、これは大きな間違いです。

事実、以上のインサイダー取引の未然防止規制とインサイダー取引規制の対象者の範囲は、全く異なることに注意が必要です。

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プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
電話:03-5533-8785
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