定義8


<引受け>
引受けは売出しについで悩ましい行為です。

引受けは、募集や私募や売出しに際し、行われる一定の行為を指します。これは実務上、大変なことです。

「一定の行為」は、条文をご覧頂いた方が良いでしょう。一定の行為は次の2種類があります。

1. 当該有価証券を取得させることを目的として有価証券の全部又は一部を取得すること

2. 当該有価証券の全部又は一部につき他にこれを取得する者がない場合にその残部を取得することを内容とする契約をすること

<買取り引受け>
前者は、「買取り引受け」と呼ばれます。買取引受けは、例えば、募集に関して言えば、10億円の社債が発行される際、証券会社が発行者から全額の10億円あるいは一部の5億円を取得して、投資者に販売する場合の取得行為を指します。要するに、販売するために、いったん引き受ける(取得する)行為です。

<残額引受け>
後者は、「残額引受け」と呼ばれます。残額引受けは、例えば、売出しに関して言えば、10億円の社債の売出しが行われる際、証券会社が所有者(売出人、通常証券会社)から、売残りが生じた際には、売残りを買取る約束をする行為を指します。

<資本金規制>
募集や売出しに際し、発行者または所有者と発行条件などの協議を行い、発行者または所有者から100億円超の有価証券を引き受ける行為は、損失の危険の管理を伴う元引受けです。資本金は30億円以上必要です。

ただし、売出人が証券会社である場合の引受けは元引受けの定義から除外されていますので、要求される資本金は5千万円以上です。

また、損失の危険の管理を伴わない元引受けに要求される資本金は5億円、元引受け以外の引受けに要求される資本金は5千万円以上です。

<市場から買い付けた有価証券の買付け>
では、例えば、証券会社が作成・配布している有価証券の在庫一覧表をみて、別の証券会社が、証券会社から有価証券を買い付け、自社の投資者に販売した場合、証券会社から買い付けた別の証券会社に要求される資本金の額はいくらでしょうか。

まず、取得させるために取得しているのですから、別の証券会社の行為は引受けであると考えられます。次に、証券会社が有価証券の在庫一覧表を配布する行為は、前述したとおり売出しですので、在庫一覧表の有価証券を買い付けた別の証券会社の行為は、売出しに際し行われた引受けです。

ただし、別の証券会社は証券会社から有価証券を取得していますので、要求される資本金の額は5千万円以上です。

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定義7


<1億円未満の社債の募集・売出し>

有価証券の売出しのうち、発行総額または売出し総額が1億円未満のものは特別の取扱いを受けていますので、取り上げておきます。

社債を5千万円発行または売出した例を考えてみます。

金商法4条1項5号、5条本文から、発行価額または売出し価額の総額が1億円未満の有価証券の募集または売出しで一定の条件を満たすものは、有価証券届出書の提出が不要です。

一定の要件には次のようなものがあります。

1. 募集や売出しの対象となる有価証券と同一種類の有価証券について、過去1年間に行われた募集や売出しの総額の合計が1億円未満であること

2. 募集の相手方の数が6か月通算で50名以上となった募集の場合は6か月通算で1億円未満であること

3. 売出しの相手方の数が1か月通算で50名以上となった売出しの場合は1か月通算で1億円未満であること、

4. 同時に行われた1億円未満の募集と売出しの総額が1億円未満であること

他にもありますが、要するに、発行総額や売出し総額が実質的にも1億円であることが要求されています。

以上の一定の要件を満たした募集や売出しを「特定募集」と呼びます。特定募集を利用するのは、中小企業が多いと思います。

私は、いつも、「金融商品取引法は、大企業や上場企業ばかりでなく、すべての企業に適用される」と言っていますが、特定募集もすべての企業に適用される金融商品取引法に規定される行為です。

特定募集をする企業は、使用する資料に金融商品取引法4条1項本文、2項本文、又は3項本文の規定の適用を受けないものである旨の表示をしなければなりません。法定開示が行われていないことを投資者に知らせるためです。

また、有価証券の発行者は、特定募集が開始される日の前日までに、有価証券通知書を財務局に提出しなければなりません。有価証券通知書は、法定開示の意味合いはなく、財務局の管理監督のために提出されるものです。

<在庫一覧表>
自社が持っている有価証券の一覧表を50名以上の適格機関投資家以外の投資家に配布する行為は売出しでしょうか。

在庫一覧表を配布する行為が売出しに該当するかどうかは、意見が分かれています。金融庁は、個別具体的な状況によっては売出しに該当するとしています。

在庫一覧表を配布する行為は、売出しと考えます。ただし、前述したように、社債の場合、売出しであっても、有価証券届出書の提出も目論見書の交付も不要ですので、平成21年改正以降、在庫一覧表の配布が売出しであるかどうかの議論をすることは、実務的には意味がなくなりました。

問題は、証券会社が作成・配布した在庫一覧表の有価証券を買い付けた証券会社の買付け行為が「元引受け」に該当するかどうかです。この点については、後述します。

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定義6


<買戻し玉の売出し>
売出しで販売した普通社債の買戻し玉の再販をする証券会社の方の中には、「50名未満までの勧誘であれば売出しに該当しないから、勧誘の相手方の数が50名未満であることを管理しながら再販しています」とおっしゃる方がいらっしゃいます。が、50名未満の管理は必要ありません。平成21年改正金商法で、開示規制が大幅に緩和されているからです。

有価証券の販売が売出しに該当すると、発行者が有価証券届出書を提出し、目論見書を作成しなければならないところに、発行者や売出しを行う証券会社の負担があるわけです。ですから、有価証券届出書の提出も目論見書の作成も必要なければ、売出しに該当しても負担はないわけです。

金商法4条1項3号で、開示が行われている場合の有価証券の売出しに際しては、届出不要と規定されています。この規定は、平成21年改正金商法前からありました。

平成21年改正金商法で追加された規定は、目論見書の作成に関するものです。

金商法13条は、発行者の目論見書作成義務定めています。既に開示された有価証券の売出しについても同様だと規定しています。

ただし、既に開示が行われている場合における有価証券の売出しのうち、内閣府令で定めるものは除くとあります。この規定も、平成21年改正金商法前からありました。ということは、改正(緩和)されたのは、内閣府令(企業開示府令11条の4、特定有価証券開示府令14条)の内容だということです。

<企業開示府令11条の4>
企業開示府令11条の4は、目論見書の作成不要の売出しを規定しています。

同条2号イのカッコ書きから、株券、新株予約権証券、新株予約権付社債、転換社債等(以下「株券等」)以外の有価証券については、目論見書の作成が不要であることがわかります。

したがって、既に開示された普通社債の売出しに際して、発行者は目論見書を作成する必要がありません。

株券等については、発行者が所有者である株券等の売出し、転売目的で発行者から株券等を取得した証券会社が行う株券等の売出し、残額引受けをした証券会社が行う株券等の売出しなどに該当しなければ、既に開示された株券等の売出しであっても、目論見書の作成が不要です。

<特定有価証券開示府令14条>
特定有価証券、つまり、投資信託や信託受益権など、器の中身の情報が重要な有価証券の売出しに関しても、特定有価証券開示府令14条に同様の規定があります。ほとんど同じ規定ですので説明は省略します。

既に開示された有価証券の売出しに際し、目論見書の作成が要求される場合は、結局、株券等の所有者と投資者との間に、情報の非対称性(情報の偏り)が認められる場合等に限定されたということです。

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定義5


<売出しに該当しない取引>
売出しの定義をすべての販売行為に当てはめると不都合が生じます。

例えば、上場株券の売買です。株式の売買を楽しみにしている普通の投資者が株券を売却すると、取引所を通じて多数(50人以上)の者に売付け勧誘等が行われますから、売出しに該当しかねません。

売出しに該当すると、原則として、株券の発行者は有価証券届出書(後述)を提出しなければなりませんし、目論見書(後述)を作成しなければなりません。つまり、上場会社は自社発行の株券の所有者が株券を売却するたび毎に、有価証券届出書を提出し、目論見書を作成しなければならなくなる可能性があるということです。これは不都合(不可能)です。

平成21年改正金商法以前、売出しは、既に発行された有価証券を不特定多数の者に「均一の条件で」売却することと定義されていました。もともと、「均一の条件」という要件がついていた理由は、均一の条件という要件がないと、取引所における株券の売却が売出しになってしまいかねなかったからです。

平成21年改正金商法で、均一の条件が売出しの要件から外れました。一方、金融商品取引法は、このような不都合を回避するために、有価証券の売出しに該当しない取引として、今日現在、11の取引を規定しています。(金商法施行令1条の7の3)例えば、取引所における有価証券の売買は、売出しから除かれています。

<買戻し玉の売出し>
既に発行された有価証券を不特定多数に販売する行為が売出しです。販売行為が売出しに該当すると、有価証券の発行者は、原則として、有価証券届出書を提出し、目論見書を作成しなければなりません。

有価証券届出書の提出や目論見書の作成・交付は、「法定開示」と呼ばれます。売出しの際、発行者は、法定開示を要求されているということです。

法定開示なしに、不特定多数の者を相手方として既に発行された有価証券の売付け勧誘等を行うと、5年以下の懲役刑です。

この知識を前提に、買戻し玉の売出しを考えてみましょう。

買戻し玉とは、例えば、証券会社が社債の売出しを行い、投資者が社債を購入した場合において、投資者が何らかの事情で証券会社に社債を売却してきた際に証券会社が買い戻した社債を指します。

さて、証券会社が買戻し玉を再度投資者に販売する行為は売出しでしょうか。

売出しに該当しない取引に、買戻し玉の再販は含まれていません。したがって、買戻し玉の再販は、売出しです。

では、買戻し玉の再販をする証券会社は、どのように対応すべきでしょうか。

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定義4


<売出し>
売出しは、金融商品取引法の中で、最も金融商品取引業者を悩ませる用語の一つです。

矛盾するようですが、売出し自身の定義は簡単です。売出しとは、既に発行された有価証券の売付け勧誘等のうち、不特定多数の者を相手方として行う行為をいいます。

売付け勧誘等とは、「有価証券の売付けの申込みまたはその買付けの申込みの勧誘」とありますので(金商法2条4項本文)、要するに、顧客に「有価証券を売っていますよ」とか「買いたいと申し込んでくださいね」と声をかける行為のことです。

不特定多数とは、適格機関投資家のみとか特定投資家のみとか特定していないこと、または、50名未満と少数でないことです。

なお、金融商品取引法に「不特定多数」とは書いてありません。が、私は、条文の意味を理解してもらうために、普段から「不特定多数」あるいは「不特定かつ多数」という言葉を使用して説明しています。

<主語>
売出しの定義には、主語がありません。誰の行為が売出しになり得るのでしょうか。

募集と私募の主語は覚えていますか。そうです。発行者です。では、売出しの主語は?

正解は、有価証券の所有者です。売出しができるのは、当然と言えば当然ですが、有価証券を売却(販売)できる所有者です。

では、有価証券の所有者であれば誰でも売出しができるのかというと、違います。

募集は、限定された有価証券を除き、誰でもできます。社債の募集は誰でもできると説明しました。が、売出しは違います。

売出しは、金融商品取引業です。ですから、金融商品取引業者でないと、業としては行えません。売出しは、要するに、物(有価証券)の販売行為ですから、金融商品取引法は、金融商品取引業と定義したのです。

<もっと知りたい方へ>
業でない場合はどういう場合でしょうか。金融庁によれば、業とは、反復継続性と対公衆性が認められる行為だということです。私には理解できませんが、金融庁はそういっています。

閑話休題

業でない場合、例えば、株式を上場する創業者が株式を売却する行為は売出しですが、反復継続性がないので、業ではありませんが、このように業ではない場合には、金融商品取引業者以外の者が行うことが可能です。 

<不都合>
売出しの定義をすべての販売行為に当てはめると不都合が生じます。

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プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
電話:03-5533-8785
http://office-jsl.com/

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