有価証券の私募(2)


<特定投資家向け取得勧誘>
特定投資家のみを対象として行う取得の申込みの勧誘が特定投資家向け取得勧誘です。特定投資家については、別の機会に詳しく説明しますが、特定投資家は、適格機関投資家、国(日本政府)、日本銀行と上場会社や金融商品取引業者など、投資知識が豊富であるとして法令で定められている投資家をいいます。

このうち、国、日本銀行、適格機関投資家以外の特定投資家が取得する場合には発行者から直接取得しないで金融商品取引業者等を通じて取得すること、また、有価証券の取得者から特定投資家か非居住者以外の者に譲渡されないことが条件になっています。

前者の条件は、特定投資家のうち、適格機関投資家、国、日本銀行以外の者は、特定投資家制度の特徴から、「取得します!」と手を上げている者が特定投資家であるかどうかは、発行者からは判断不可能で、金融商品取引業者等しかわからないからです。後者の条件は、特定投資家が取得した有価証券が特定投資家以外の者に譲渡されてしまうと、特定投資家向け取得勧誘の意味がなくなってしまうからですね。

<開示免除と情報提供>
適格機関投資家向け勧誘と少人数向け勧誘は、開示が免除になっていて、開示規制がまったく適用されません。一方、特定投資家向け取得勧誘も、有価証券届出書の提供などを提出しなくても良いという点では、開示免除なのですが、特定投資家向け取得勧誘の対象となる有価証券の発行者は「特定証券情報」をインターネットなどで公表する義務があります。

特定証券情報とは、発行者の情報と特定投資家向けに発行される有価証券に関する情報の2つの情報をあわせた情報のことをいいます。要するに、「発行者の業績は良いの?」「発行する有価証券の条件はどうなの?」という情報が投資家にわかるように公表しなければならないという意味です。また、発行者の財政状況は時々刻々と変化しますので、1年に一回以上、発行者の情報である発行者情報は更新しなければ成りません。

まとめると、募集の場合は、有価証券届出書の提出や有価証券報告書の提出など、コストがかかる公式な情報開示を発行者に求め、私募のうち、適格機関投資家向け勧誘と少人数向け勧誘は、公式な情報開示はもちろん、コストのかからない簡易な情報提供も発行者に求めないで、中間的な存在として、特定投資家向け取得勧誘の場合は、簡易な情報提供を発行者に求めているというわけです。

<適格機関投資家向け勧誘と特定投資家向け勧誘の違い>
株式会社がある有価証券を発行する場合、一部については適格機関投資家を対象に取得の申込みの勧誘を行い、残りについては個人を含む一般投資家に取得の申込みの勧誘をすることができます。一回で発行する有価証券を、100名の適格機関投資家に取得させて、49名の一般投資家に取得させても募集にならないわけです。

一方の特定投資家向け勧誘の場合は違います。特定投資家向け勧誘となるためには、一回で発行する有価証券のすべてを特定投資家のみに取得させなければなりません。100名の特定投資家のみに取得させる場合には募集にはなりませんが、100名のうちに1名でも一般投資家が混じっていると、50名以上に取得勧誘したことになり、募集になってしまうことに注意が必要です。

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有価証券の私募(1)


新たに発行する有価証券の取得の申し込みの勧誘、つまり、株式会社が新たに発行する株券を「取得しませんか?」と声をかける行為には、有価証券の募集と有価証券の私募の2つの種類があります。それ以外はありません。前回は、有価証券の募集を確認しましたよね。今回は、有価証券の私募について解説します。

<募集と私募を区別する意味>
募集と私募を区別する意味は、有価証券の募集は「開示規制」の対象になり、私募は開示規制の対象にならないという点です。開示規制については、別の機会に詳しく説明しますが、開示規制の対象になると株券を発行する株式会社などは、有価証券届出書を内閣総理大臣に提出したり、毎年、有価証券報告書を提出したりする必要があります。一方、私募の場合は、開示規制の対象にはなりませんので、有価証券を発行する発行者にとっては、資金調達の機動性とコストがまったく違ってきます。

<有価証券の私募の種類>
有価証券の私募には3つの種類があります。「適格機関投資家向け勧誘」「少人数向け勧誘」「特定投資家向け取得勧誘」の3つです。一つ一つみて行きましょう。

<適格機関投資家向け勧誘>
文字通り、適格機関投資家を対象として行う取得の申込みの勧誘です。通常、プロ私募と呼ばれます。証券会社、銀行、保険会社などの適格機関投資家を対象として行う取得の申込みの勧誘は、すべて「私募」となります。ですから、100社の適格機関投資家に対して勧誘を行っても、募集となって開示規制が適用されることはありません。

<少人数向け勧誘>
少人数向け勧誘とは、新たに発行する有価証券を50名未満、つまり、49名以下に取得の申込みの勧誘をすることです。通常、少人数私募と呼ばれます。2010年4月に改正されますが、現時点では、勧誘ができる数は49名までです。

「勧誘」であって、取得した者の数ではないことに注意してください。取得した者の数が最終的に1名であったとしても、50名以上に「勧誘」していれば、それは少人数向け勧誘ではなく「募集」になってしまい、開示規制が適用されます。なお、金融庁の検査において、「勧誘とは顧客と口をきくこと、電話でひとことでも話したら勧誘」と指摘された経験があります。

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有価証券の募集


今回から、有価証券の取り扱いの方法を一つ一つ見ていくことにしましょう。最初は「有価証券の募集」です。ところで、このブログをご覧になっている方の中に、会社法の条文に通じている方はいらっしゃいますか。どうしてこんなことをお尋ねするかというと、金融商品取引法の「募集」は、会社法の「募集」とまったく意味が違うからです。金融商品取引法で「有価証券の募集」といった場合には、金融商品取引法にのみ通用する意味の募集だということに注意してください。

<適格機関投資家>
金融商品取引法の「募集」の意味を知るためには、「適格機関投資家」という言葉を知らなければわかりません。そこで、適格機関投資家について解説します。適格機関投資家とは、呼んで字のごとく、「適格」な「機関」「投資家」です。投資家は株券や社債に投資する者のことですので、特に説明はいりませんね。

機関投資家とは、「組織的な投資家」というような意味です。典型例は、投資信託の受託者である信託銀行です。多くの投資家のお金を集めて、アセットマネジメント会社の指図に従って、受託者である信託銀行が運用する仕組みが投資信託であるという説明をしたことがありますが、このときの信託銀行は、多くの投資家のお金をまとめて(組織的に)運用している投資家です。生命保険会社も同様です。保険で集めたお金を組織的に運用している投資家ですから機関投資家です。

適格機関投資家とは、機関投資家のうち、法令で適格者であると認められた機関投資家という意味です。適格機関投資家としては、証券会社、銀行、保険会社などが法令に列挙されています。

<特定投資家>
募集の説明の前に、もう一つ知っておかなければならない言葉に「特定投資家」があります。特定投資家の詳細は別の機会にあらためてすることになりますが、ここでは、法令で、複雑な取引でも理解できる知識の豊富な投資家という意味でとらえることにします。

<金融商品取引法の募集の意味>
金融商品取引法で有価証券の募集とは、新たに発行する有価証券を50名以上の適格機関投資家以外の者に取得の申込みの勧誘をする行為のうち、特定投資家のみに勧誘すること以外の行為をいいます。

とてもわかりにくい表現ですよね。一つ一つひも解いていきましょう。

まず、「新たに発行する有価証券」のみが対象です。この定義は2010年4月に改正されますが、今日現在、新たに発行する有価証券のみが対象です。会社法では自己株式の引き受けの申し込みをする者を募集する行為も募集ですが、自己株式は当然既に発行された株券ですので、金融商品取引法の募集の対象にはなり得ません。株式会社が、これから発行する予定である有価証券のみが、募集の対象です。

次に、「50名以上の適格機関投資家以外の者」に割り当てる行為のみが対象です。別の言い方をすると、適格機関投資家の数は50名の計算から外すということです。「50名」という点がポイントです。会社法では総数引受け契約を行う者1名に発行する株式も募集株式と「募集」という言葉を使用しますが、金融商品取引法では50名以上を対象にしない限り、募集とはいいません。

また、特定投資家のみを対象にした場合も募集ではありません。100名の投資家を対象にしても、100名すべてが特定投資家であれば、募集ではありません。適格機関投資家と違うところは、適格機関投資家の数は50名の計算から外しますが、特定投資家の数は50名の計算から外すことができないという点です。対象となる投資家のうちに特定投資家以外の投資家が混じっていたら、特定投資家の数も含めて、50名を計算するということです。

最後に募集とは、「取得の申込みの勧誘」をする行為を指します。ここで「取得」の意味は、会社法の「取得」とは少し違います。会社法は、新たに発行する株式でも既に発行されている株式でも、共通して「取得」といいますが、金融商品取引法は、多くの場合、新たに発行する有価証券の取得のみを「取得」と呼び、既に発行されている有価証券の取得を「買付け」と呼んで区別しています。

取得の申込みの勧誘とは、取得の申込みをする気にさせる行為を指します。要するに、「取得しませんか?」と声をかけるという意味です。

以上をまとめると、金融商品取引法の有価証券の募集とは、新たに発行する有価証券の取得の申し込みの勧誘のうち、適格機関投資家を計算から除いて50名以上の者に行う行為であるが、ただし、50名以上がすべて特定投資家の場合を除く行為であるということになります。

<第二項有価証券>
以上は、第一項有価証券の募集の場合です。第二項有価証券は500名以上が所有することになる場合とカンタンです。

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プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
電話:03-5533-8785
http://office-jsl.com/

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お問い合わせは、お問い合わせフォームで受け付けます。

<主な業務>
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