不動産信託受益権の売買の媒介と告知・交付のタイミング


金商業者は、不動産信託受益権の売買の媒介を行う際、顧客が特定投資家の場合には、一般投資家に移行できる旨の告知をする必要があります。これは誰でも知っていること。

また、金商業者は、顧客が一般投資家であって特定投資家に移行していない場合には、契約締結前交付書面を交付し、説明する義務があります。これも誰でも知っていること。

ただ、いざ取引となると、「顧客とは誰か」とか「いつまでに告知・交付する必要があるのか」とかが問題になることがあるようです。

<顧客>
顧客とは、不動産信託受益権の売買の媒介契約を締結する相手方です。売主と媒介契約を締結するのであれば売主、買主と媒介契約を締結するのであれば買主、売主・買主いずれとも媒介契約を締結するのであれば双方です。

したがって、例えば、売主と媒介契約を締結する場合、売主が特定投資家ならば、金商業者は売主に対して告知義務を負い、売主が一般投資家ならば、金商業者は売主に対して契約締結前交付書面の交付義務を負います。

これは何も、買主に対して契約締結前交付書面を交付してはならないことを意味しませんが、買主に交付した場合であっても、当然のことながら売主に対する交付義務はなくならないので、売主にも交付しなければなりません。

<タイミング>
特定投資家に対する告知は「金融商品取引契約を締結するまでに」行われなければなりません。また、一般投資家に対する契約締結前交付書面は「あらかじめ」交付されなければなりません。

読んで字のごとくなので、難しいことはないですが、売買のタイミングと媒介契約のタイミングがずれている場合には、注意が必要で、不動産信託受益権の売買の媒介においては、金融商品取引契約は媒介契約であって、売買ではないため、媒介契約を締結するまでに、特定投資家には告知が行われなければならないし、一般投資家には契約締結前交付書面が交付されなければなりません。

<まとめ>
まとめとして、不動産信託受益権の売買の媒介を売主のために行った場合を例にとると、金商業者は、売主が特定投資家である場合には、媒介契約を締結する日までに売主に対して告知しなければならず、売主が一般投資家である場合には、媒介契約を締結する日までに売主に対して契約締結前交付書面を交付しなければなりません。

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表記すべき手数料


有価証券の募集(私募)の取扱いであっても、有価証券の売出しの取扱いであっても、手数料とは、「顧客支払うべき対価から有価証券の価格等を除いたもの」(平成19年7月31日パブリックコメント回答246頁)です。

<第一項有価証券の取引に係る手数料>
第一項有価証券を取り扱う会社は、基本的に証券会社ですが、証券会社の契約締結前交付書面を見ると、手数料として「お客様には対価のみをお支払頂きます」とのみあります。

「対価のみ」という表現のもとになっているのは、前述したパブリックコメント回答です。

私は、契約締結前交付書面のひな型の作成に参加しましたが、この手数料表記の方法には反対でしたし、今でも反対です。

でも、実務では例えば、発行者が社債を100円で発行し、投資家が代金として100円を支払えば、「顧客が支払うべき対価から有価証券の価格等を除いたもの」は「ゼロ」ですから、手数料はゼロということになります。

じゃあ、証券会社はどこから報酬を得ているかというと、発行者からです。募集(私募)の取扱い契約は、発行者と証券会社の間の契約(投資家は無関係)なので、これは、当然です。

でも、発行者は、当然、社債を発行した代り金から証券会社に報酬を払っているので、間接的に投資家が支払っているわけであり、このような報酬は投資家に表記されるべきです。

では、社債の発行に際して、証券会社が投資家から100円を預り、5円を手元に残して、95円を発行者に支払った場合、証券会社は手数料として5円収受したことを表記すべきでしょうか。

回答は、やはり、表記すべきだけれども、パブリックコメント回答によると、表記する必要はありません。

一見すると、発行者は95円しか手にしていないので、発行した社債の価格は95円で、投資家が支払った対価は100円なのだから、5円は手数料として表記されるべきように見えそうですが、発行者は社債を100円で発行しているのだから(95円は払込み金額であって、社債の価格とは無関係)、顧客が支払うべき対価から有価証券の価格を除いたものは「ゼロ」であり、したがって、証券会社は手数料を表記する義務がないことになります。

もっとも、投資家は社債を取得した瞬間に5円損しています。

<ファンドの取引に係る手数料>
「じゃあ、ファンドの募集(私募)の取扱いで、ファンドを1口100円で販売し、投資家が100円を投資する場合、二種業者が、仮に、5円を報酬として受領しても手数料の表記義務はないのか?」というと、パブリックコメント回答から表記義務がありません。

二種業者の作成する契約締結前交付書面を見ると、以上の例では、手数料を5円と表記している例が多いですが、パブリックコメント回答に従うと、二種業者は、必ずしも、5円の報酬を受領していることを表記する必要はないことになります。

繰り返しますが、私は、投資家が有価証券を取得する際に実質的に負担する金銭があれば、直接・間接を問わず、内包・外付けを問わず、すべて手数料等として契約締結前交付書面に記載すべきであると考えています。

<売出の取扱い手数料>
以下の質問を受けたので、回答します。

「外国社債の売出しにあたり、証券会社が、海外の発行体から90円で売出債を仕入れ、国内の投資家に100円では販売した場合、この10円は、売買益か、売出しの取扱い手数料か?」

正解は、「売買益」です。

売出しの取扱い契約は、売出人と証券会社の間の契約(投資家は無関係)です。証券会社は90円で仕入れて100円で販売していて、差額の10円は誰から支払われているかというと、間違いなく、投資家です。売出人ではありません。だから、売出しの取扱い手数料にはなり得ないのです。

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プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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