金商業者による取引時確認


1月6日のメールマガジンからの抜粋です。



私が顧問をしている金商業者の中には、助言業者の方も多くいます。一口に助言業者といっても、個人を相手に助言を行う株式助言業者、特定投資家のみを相手に助言を行う株式助言業者、不動産ファンド助言業者、事業型ファンド助言業者など、多彩です。

助言業務に関する金商法の規定は、旧投資顧問業法が引き継がれていることから、個人を相手に助言を行う株式助言業務が前提になっている節がありますが、すべての助言業者に共通のルールですから、助言業者のコンプライアンス担当者は、自社が行う助言業務の特徴に応じて、規定を適用していくという、実務的観点が重要になります。

個人を相手とする株式助言業者の場合、特に重要な規定は、広告規制、虚偽告知の禁止、虚偽表示の禁止であり、他の助言業者の場合、特に重要な規定は、忠実義務(利益相反)、金銭の貸付け・媒介の禁止、金銭の預託の受入れの禁止でしょう。

もっとも、金銭の貸付け・媒介の禁止と金銭の預託の受入れの禁止に関する規定は、相手が、特定投資家の場合は、適用されません。(なお、この問題と、金銭の貸付け・媒介には貸金業の登録が必要かという問題は別の問題)

顧客(特定投資家に限る)の金銭の預託の受入れを行っている助言業にとって、注意すべきは、運用業務との関係と、犯収法との関係です。

今日の本題は犯収法の方ですが、まず、簡単に、運用業務との関係について。

助言業者は、金銭の預託の受入れをするだけなら良いですが、金銭の出納にまで関与してしまうと、運用業務を行っているものと認定されるおそれがあります。

助言業務と運用業務の境界線を考えることは、非常に重要なプラクティスですが、話し出すと長くなるので別の機会に譲ることにして、取引の執行は、間違いなく、運用業務であり、取引の執行とは、取引の発注(有価証券の動き)と決済(金銭の動き)の組み合わせですから、決済(出納)に関与する行為が、運用業務と認定されても反論できません。

例えば、顧客の預金通帳を預かる行為は、金銭の預託の受入れですが(平成19年7月31日パブリックコメント回答441頁1)、通帳のみならず印鑑も預かり、助言業者が事務受託と称し、顧客のために決済業務まで行ってしまうことは、運用業務ではないかという問題です。

次に、犯収法との関係について。

金商業者は、犯収法に基づき、顧客等との間で「特定取引」を行う際、取引時確認を行う義務があります。

特定取引とは、「特定業務」のうち、取引時確認等を行うことが求められる取引のことです。

金商業者の特定業務は、「金融に関する業務その他の政令で定める業務」のうち「その他の政令で定める業務」です。

その他の政令で定める業務は、具体的には、一種業者及び運用業者の場合は、金商業者が行うすべての業務、二種業者の場合は二種業務、助言業者の場合は助言業務です。

金商業者の特定取引は、「預貯金契約(預金又は貯金の受入れを内容とする契約をいう。)の締結、為替取引その他の政令で定める取引」のうち「その他の政令で定める取引」です。

その他の政令で定める取引は、具体的には、一種業者及び二種業者の場合は、有価証券の売買、有価証券の売買の媒介、有価証券の私募の取扱いなどです。

なお、有価証券の売買や売買の媒介の場合、取引時確認を行うべき取引は、有価証券の売付者と締結する契約及び買付者と締結する契約ですが、有価証券の私募の取扱いの場合、取引時確認を行うべき取引は、有価証券を取得させる行為を行うことを内容とする契約の締結に限るため(犯収法施行令第7条第1項第1号リ)、発行者と締結する契約は含まず、取得者と締結する契約に限ります。

余談ですが、以上の結果、「理論的には」二種業者が私募の取扱いを行う際には、取引時確認が不要です。(当然、「現実には」必要です。)

私募の取扱いとは、金商業者が発行者のために行う取得勧誘であり、したがって、金商業者と発行者との間で締結される契約(私募の取扱い契約)は、金商業であり、二種業務です。

一方、金商業者が取得者と締結する契約は、金商法上、金商業ではないため、二種業務ではありません。

二種業者の特定取引は、二種業者の特定業務である二種業務のうち、取引時確認を要する取引であるところ、二種業者が取得者と締結する契約は、以上のように、二種業務ではないため、特定業務ではなく、したがって、二種業者が私募の取扱いを行う際には、取引時確認が不要ということになります。

閑話休題。

助言業者の場合は助言業務に係る契約、運用業者の場合は運用業務に係る契約が特定取引です。

ただし、助言業務に係る契約(投資顧問契約)の場合、当該契約により金銭の預託を受けない場合が特定取引から除かれます(犯収法施行令第7条第1項第1号ヌ)。

この規定と、金商法の金銭の預託の受入れの禁止規定から、原則として、助言業者には、取引時確認を行う義務がありません。

ただし、既述の通り、助言業者は、特定投資家を相手方とする投資顧問契約の締結に関し、顧客から金銭の預託を受け入れることができるので、助言業者は、常に、取引時確認を行う義務を負わないのではなく、特定投資家を相手方として投資顧問契約を締結する場合には、取引時確認を行う義務が生じることがあります。

「助言業者には、取引時確認義務が課されない」と暗記してしまうと、以上のようなことがあるため、犯収法違反となり得る点に注意が必要です。



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プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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