売出し業務(3)


売出しの定義から「均一の条件」を削除した経緯は、同じ有価証券を売出しに該当しないように1銭ずつ条件を変えて、開示規制を免れながら50名以上に販売している証券会社があるからという趣旨のことが金融審第一部会のレポートに記載されています。私個人は、このようなケースは見たこともなければ聞いたこともありませんので、レポートの内容は甚だ疑問ですが、いずれにしても、「均一の条件」が外れ、結果として、事務に大きな影響が生じます。

<社債の販売実務への影響>
実務への影響は、まず、証券会社が社債の販売をするときに生じます。金融商品取引法13条で、発行者は、募集の際に有価証券届出書が提出されているように既に開示が行われている有価証券であっても、売出しを行う際には目論見書を作成することが義務付けられています。また、15条で金融商品取引業者等は、投資家に売出しにかかる有価証券を売付けるときには、目論見書を交付する義務があります。ここまでは従来通りです。

問題は、売出しの定義から「均一の条件」が外れた結果に付随して設けられた「有価証券の通算規定」の追加から生じます。「均一の条件」が外れたために、50人以上を計算する際、いつからいつまでの投資家の数を50人するかという「期間の問題」が生じました。金融商品取引業者が1名の投資家に社債Aを販売したところ、10年前に社債Aを49人に販売していたとすると、合計50名となり、10年前の49人に遡って目論見書を交付しなければならなかった、という奇妙で避けがたい問題が発生するからです。

金融商品取引法施行令案1条の8の3では、この期間を1ヶ月と決めています。この結果、証券会社は、現在、大企業が発行した社債など開示が行われた有価証券については、同一の条件で50名以上に勧誘しない限り、投資家に対して何のアクションも起こす必要がありませんが、来年以降、1ヶ月の間に同種の有価証券を50名以上に販売する際には、開示が行われた有価証券であっても、投資家に目論見書を交付しなければなりません。実務的に考えると、証券会社は、大企業が募集で発行した社債を投資家に販売する際には、投資家の数が1ヶ月で50名以上とならないように管理するか、管理の面倒を避けて、常に、投資家に目論見書を交付するかのいずれかの方法を採用しなければなりません。

<海外発行有価証券の販売実務への影響>
国内で発行された有価証券は、必ず、募集か私募のいずれかの方法で発行されています。募集で発行された有価証券の販売実務への影響は、上に見た通りです。私募で発行された有価証券には、発行時に、分割譲渡禁止などの転売制限等がついていますので、私売出しの概念を持ちますまでもなく、償還されたり、償却されたりするまでの間、必ず、発行当初に決めた転売制限等がついて回ります。

海外で発行された有価証券の場合、発行の際、金融商品取引法に基づく開示もされていなければ、転売制限等もついていません。このため、海外で発行された有価証券を1ヶ月間で50名以上の国内の投資家に販売する行為は「売出し」に該当し、上述したように、目論見書の交付が必要になります。

従って、海外で発行された有価証券を、50名未満の投資家に販売したり、適格機関投資家に販売したり、一定の条件の下で特定投資家のみに販売したりする場合に、「私売出し」の概念が効力を発揮することになります。

なお、現行の金融商品取引法23条の14に海外発行有価証券の少人数向け勧誘の規定がありますが、この規定は、50名未満の投資家に販売する私売出しに吸収されて、改正金融商品取引法から削除されます。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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