当局検査の実務(3)


世間はもう年末気分でしょうか。気のせいか、電車がすいているような気がします。金融商品取引法に、休みはありません。今日も、証券取引等監視委員会は、15社で検査を行っています。監視委員会の検査は、年末から年始にかけて数が減ります。また、例年ですと、6月から8月も数が減ります。7月に金融庁内の人事異動があるのと、お盆に入るからです。これを言い換えれば、検査が入りやすい月は、2月と8月下旬から10月にかけてということになります。もちろん、その他の月にも検査は実施されていますが、数の面から言うと、こういう計算です。

<検査の傾向>
3年くらい前から、監視委員会の検査は、会社のみに対して処分勧告することから、会社のみならず、役職員個人に対する処分勧告をするという、個々人に対する処分勧告を強調する傾向がみられます。監視委員会のホームページで報道されて表に出てきている検査結果のみではなく、表には出てきていないため業界に通じた裏の情報を集めると、「誰が悪かったのか」を追求する姿勢が、監視委員会の検査にはみられます。

この傾向が顕著になった理由は、監視委員会の検査が、責任の所在を明確にすることに一つの主眼が置かれたことにあります。監視委員会の処分勧告を受けて、実際に、処分の内容を決める金融庁のホームページをみるとわかりますが、金融庁は、以前から、会社に処分をした際、必ず、「責任の所在の明確化」を求めてきました。簡単に言ってしまうと、金融庁の考え方として、違法行為の再発を防止するためには、実際に違法行為にかかわった人を業界から追放することが必要だという考え方があるからです。

金融庁が求める「責任の所在の明確化」に呼応して、監視委員会は、検査を通じて、「誰が悪かった」のかを明確にする姿勢を示すようになったことから、検査において、役職員個人に対する処分を求める傾向が顕著に見られるようになりました。

<会社代表者に対する処分>
では、検査の結果、違法行為が発見されたけれども、誰が悪かったのかを特定することはできず、会社の組織の問題であった場合、「責任の所在」はどこに、あるいは、誰にあったと言えるでしょうか。まず、思いつくのが社長その他の役員・経営陣に責任の所在を求めるというのは、きわめて自然な発想です。事実、いかなる場合であっても、違法行為のあった会社の代表者の責任は免れません。新入社員が何も知らずに、気がつかないうちに、違法行為をしてしまった場合、ある程度の規模がある会社であれば、代表者が新入社員の違法行為に気がつく機会はありません。でも、社員が違法行為をしたということは、会社のコンプライアンス態勢が不備だったということで、代表者は、コンプライアンス態勢を構築することを怠った責任がとわれることは、至極当然のことです。

<コンプライアンス担当者に対する処分>
コンプライアンス態勢は、経営者が構築するべきものですが、現場でコンプライアンス態勢の実施の指揮をとるのは、コンプライアンスの担当者です。従って、特殊な事情がない限り、コンプライアンス担当者も責任を免れることはできません。

一般論ですが、コンプライアンス担当者は事業部門の社員と比較すると給与が安いことが多く、それでも、事業部門の社員の行為に対して、責任をとらされることに納得がいかない方もいらっしゃるかもしれませんが、コンプライアンス担当者には気の毒ですが、給与と責任の重さは、比例しません。わかりやすく言ってしまうと、コンプライアンス担当者は、責任だけを取らされる役割であると言っても過言ではありません。

金融商品取引業者等には、コンプライアンス担当者を設置することが、暗黙の了解事項として義務付けられています。このため、何も知らない、経験もないという方が、業務命令としてコンプライアンスを担当するケースも多々あるのは事実です。ただし、だかと言って、コンプライアンス担当者である以上、すべての役員や社員の責任を取らされるのは不公平かというと、個人的な感情を抜きにすれば、コンプライアンス担当者である以上、誰の違法行為であっても、責任を回避することは、余程特殊な事情がない限り、不可能です。

金融商品取引業者等のコンプライアンス担当者は、役割を会社の命令で、ある意味、仕方なく引き受けたとしても、責任はあまりにも重く、会社に不祥事があれば、即解雇であるという覚悟がなければ勤まらないことを再認識していただく必要があります。これは大げさではありませんので念のため。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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