アセット・ファイアンス1


今年も残すところ今日を含めてあと4日。今日の記事は、2011年最後の記事になります。年の締めくくりは、「アセット・ファイナンス」の話です。信託銀行で土地信託や金銭債権信託に携わった私の得意分野は、アセット・ファイナンスのコンプライアンスです。

<ファイナンスとは>
「ファイナンス」とは「資金調達」「お金を集めること」という意味です。株式会社の資金調達を考えるときには、まず、貸借対照表を頭に浮かべます。

出資、つまり、事業がうまくいかなくても返済する義務のないお金を受け取るためには、資本に計上する「株式」を発行して、資金調達をします。返済義務のあるお金を受けるためには、負債に計上する「社債」を発行したり、銀行から借入をしたりして、資金調達します。これが貸借対照表の「貸方」による資金調達です。

<アセット・ファイアンスの実例>
では「借方」である「資産」で資金調達はできないか。資産、つまり、アセットで資金調達することをアセット・ファイアンスと呼びます。

最も単純な方法は、仕入れたり製造したりした商品を売ったり、所有している土地を売ったりすることです。ただ、商品を売ったり、土地を売ったりしてお金を集めることは、通常、アセット・ファイアンスとは言いません。

アセット・ファイナンスの原型は、受取手形の割引に見られます。3ヶ月の受取手形を3ヶ月待たずに現金化したいとき、銀行では手形を割り引いてくれます。手形を持ち込んだ方から見ると、手形に記載した金額よりも低い価格で買取ってくれるように見えますが、そうではありません。銀行は、まさに、割り引いているのです。

<手形の場合>
ちょっと期間が長いですが、わかりやすくするために、1年後に100万円の支払いを請求できる受取手形を割り引く例を考えてみましょう。また、これもわかりやすくするために、銀行は手数料を取らないとします。

1年後の100万円は、今の100万円と同じ価値か?という考え方がアセット・ファイアンスのポイントです。

今どき考えられませんが、銀行預金金利が5%だとします。952,381を銀行に預金すると1年後には100万円になります。ということは、1年後の100万円の現在の価値は、952,381円であって、100万円より低いことになります。

952,381円は、100万円を金利5%で割り引いた結果でもあります。つまり、100万円÷1.05が952,381円です。ですから、銀行が100万円の手形を買取るときには、100万円を金利5%で割り引いた952,381円で買取ることになります。だから、手形を現金化することを「割り引く」というわけです。

<商業ビルの場合>
次に、テナントが入っている商業ビルの現在の価値を考えてみましょう。商業ビルはいくらで売れるかということです。

商業ビルの1年間のテナント料を1億円とすると、1年後の1億円の現在の価値、2年後の1億円の現在の価値、3年後の1億円の現在の価値・・・とすべての年のテナント料を現在の価値に割り引いて、それを合算すれば、商業ビルの現在の価値を計算できることになります。

商業ビルというアセット(資産)を現金化するために、信託の仕組みが活用されることあります。商業ビルを信託銀行に信託譲渡して、受益権を販売する方法です。用語説明は省略しますが、商業ビルの所有者の信用リスクから隔離できることや登録免許税が極端に安いことが理由です。この受益権の値段は、先ほど計算したテナント料の現在価値(の合計)になるわけです。

<金融商品取引法との関係>
手形は、一般的には有価証券、つまり、現金化できる証書ですが、金融商品取引法の有価証券ではありません。一方、商業ビルの信託受益権は、金融商品取引法の有価証券です。商業ビルという不動産を証券という商品に変形させるため、「証券化商品」と呼ばれます。

アセット・ファイアンスのコンプライアンスとは、商業ビルの信託受益権のように、金融商品取引法の有価証券について、1.違法性がないか、不適切な商品ではないか、2.リスクの所在はどこにあって、販売の相手方である買い手に商品性やリスクがきちんと説明されているか、3.販売価格は妥当か、などについて検証することです。

今日取り上げた商業ビルの販売は、要点を強調するために、かなり単純化しています。現実の証券化は、もっと複雑です。ただ、どんなに複雑な証券化商品であっても、将来の現金収入(キャッシュフロー)を現在価値に直したものの合計が証券化商品の価値(値段)であるという基本は変わりません。

なお、デリバティブ取引の基本も同じなのですが、今日は、ここまでとして、デリバティブ取引については、別の機会に説明します。

今年も、ブログ「これでわかった!金融商品取引法」をご覧いただき、本当にありがとうございました。来年も宜しくお願いいたします。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
電話:03-5533-8785
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