AIJ投資顧問事件3


AIJ投資顧問事件を受けて、金融庁は金融商品取引法を改正し、投資運用会社や証券会社に外部監査を義務付けることとすると報道されています。

なぜ、外部監査なのか、理解できません。外部監査は年数回しか行われません。一方、投資運用会社は、毎日、顧客から預った資産を運用しているのです。

やるべきは、外部監査ではなく、コンプライアンス担当者による日々のモニタリングです。金融庁は(管轄外ですが年金を所管する厚労省も)、投資運用会社のまともなコンプライアンス担当者が何をしているか知らないから、間違った発想をしてしまうのです。

<コンプライアンスの設置の義務化>
まず、金融商品取引法を改正して、投資運用会社などすべての金融商品取引業者に独立したコンプライアンス部門の設置を義務付けるべきです。

現在の法律は、コンプライアンス担当部門の設置を任意にしています(法29条の2・1項4号、令15条の4・1号)。実際には、登録申請の実務上、設置している会社がほとんどです。が!設置すればいいというものではありません。

ほとんどの会社は、コンプライアンスの知識も経験もない者が、コンプライアンスを担当しています。「会社から、突然、コンプライアンスを担当しろといわれ、困惑しています」という方はまだ良いほうで、「私はコンプライアンス担当者ですが、実は営業も兼任しています」という方もいます。

法改正をするなら、外部監査の義務化ではなく、営業部門からも決済部門からも独立した、経験年数3年以上(令17条の6・1項、同17条の8・1項、同19条の4・1項参照)のコンプライアンス統括責任者(令15条の4・1号参照)の設置を義務付けるべきです。

<運用会社のコンプライアンス>
運用会社のコンプライアンス担当者は何をしているのか。会社によって異なるとは思いますが、私の経験では、日々、個別のファンド(基金)ごとに、運用状況の監査をしています。この監査のことを、モニタリングと呼んだりします。

以下は、経験に基づくもので、すべての投資運用会社がそうなっているわけではない(そうなっていないから問題が発生する)ことにご注意ください。

投資運用業者は、基金の運用を一任されているといっても、完全にフリーハンドであるわけではありません。通常は、顧客と「投資運用方針」を決めて、投資運用方針に従って、運用しています。例えば「基金の過半数は公社債で運用する」などと定められています。

投資運用会社のコンプライアンス担当者は、毎日、ファンドの運用状況が投資運用方針通りかどうかをモニタリングしています。そしれ、方針違反があると、運用担当者に、方針通りの資産状況(アロケーションといいます)にするように指示します。指示が守られなければ、その運用担当者は解雇です。

<人材の確保>
問題は、経験3年以上のコンプライアンス統括責任者を確保できるか、という点です。実力のほどはともかく、金融商品取引業者でコンプライアンスを3年以上担当したことがある者は大勢います。ですから、人材の確保は、実際には、難しくありません。

年数回しか実施されない外部監査と、毎日モニタリングを行うコンプライアンスと、どちらを設置する方が、基金拠出者の資産保護のために実効性があるかといえば、やはり日々モニタリングをする方がよいでしょう。

さらに、基金拠出者に送られる運用実績(運用報告書)をコンプライアンス担当者が事前にチェックをすれば、AIJ投資顧問事件に類似する事件が起きることはありません。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
電話:03-5533-8785
http://office-jsl.com/

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