ご質問への回答2


質問の続きです。

<質問>
不動産信託受益権の売買で、自社は売手とのみ媒介契約を締結し、売手の業者として媒介に入るケースで、買手には業者がいなかった場合、自社は買手とは媒介契約を締結していないので、買手に契約締結前交付書面を交付する義務はないとの理解で良いか。

<売買の媒介>
売買とは、既に発行された有価証券の買付けと売付けを言います。不動産信託受益権の売買に即してもう少し具体的にいうと、こういうことです。

委託者兼当初受益者が不動産信託受益権を譲渡する行為は多くの場合「発行」、譲受人の行為は「取得」であって売買ではない、つまり、買付けも売付けもありません。

この譲受人がさらに不動産信託受益権を譲渡する場合、譲受人が譲渡人になるわけですが、譲渡人の行為が売付け、新しい譲受人の行為が買付けで、両当事者間の間で締結される契約が「売買」です。

一般的な用語の使い方であるかどうかわかりませんが、金商法では以上のとおりです。

売買の媒介は、この売買契約の成立に尽力する行為と言われますが、これは建前で、証券会社の実務では、単に尽力しただけで、結果的に売買が成立しなかった場合には、いくら証券会社が売買契約の成立に一生懸命尽力していたとしても、売買の媒介として記録に残しません。(つまり、媒介行為はなかったことになります。)

<顧客>
質問に戻りましょう。

契約締結前交付書面の交付ですが、金商法は、金商業者は、金融商品取引契約を締結しようとするときは、あらかじめ、顧客に対し契約締結前交付書面を交付せよと規定しています。

文字通り読むと、金融商品取引契約、つまり、質問の場合、不動産信託受益権の売買の媒介契約を締結するときには、あらかじめ、顧客に対して契約締結前交付書面の交付することになります。

つまり、媒介契約を締結しようとするときには、事前に、重説をせよということですが、実務では、当事者の売買の意思が確認できた時点で、契約締結前交付書面が交付されるのが一般的でしょう。

さて、質問のケースで、売手・買手の売買の意思が確認されたとき、売手の媒介者である二種業者は、売手に契約締結前交付書面を提供して、説明する義務を負うのは当然です。

「売手に対して説明する義務はないでしょ」と考えるのは間違えです。宅建業法はともかく、金商法は、売手も買手も保護しているわけですから、金商業者は売手に対する説明義務を負います。

では、売手の媒介者である二種業者は、買手に対して契約締結前交付書面を交付する義務はないのか。単純に考えて、これでは買手が保護されないため、二種業者に交付義務がありそうです。でも、二種業者と買手との間には媒介契約はありません。

<私募の取扱いと売買の媒介>
似たようなケースに、私募の取扱い契約があります。私募の取扱いの場合、金商業者は、発行者と私募の取扱い契約を締結しますが、譲受人(投資家)とは、何の契約もしていません。でも、パブリックコメント回答に従い、金商業者は、投資家に契約締結前交付書面を交付します。投資家保護という金商法の間接目的の一つを達成するためです。

これと同じことが売買の媒介でも言えます。つまり、質問の場合、二種業者は、確かに買手とは何の契約もしていないんだけれども、買手(投資家)の保護という金商法の間接目的の一つを達成するために、二種業者は契約締結前交付書面を買手に交付しなければなりません。

金商法を不動産(信託受益権)取引にも適用した弊害の一つのような気もしますが、不動産信託受益権の売買の媒介のケースで売手とのみ媒介契約を締結した二種業者であっても、売手に対してはもちろん、買手に対しても契約締結前交付書面の交付義務(説明義務)が生じることになります。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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