一種業者・二種業者必読


2月19日(金)、証券取引等監視委員会は、アーツ証券が組成に関与したABS(Asset Backed Securities、資産裏付証券)を販売した6つの証券会社(以下「同社」)が、虚偽表示又は誤解を生ぜしめるべき表示を行ったとして、金融庁に対し、同社に行政処分を行うように勧告しました。

私は、アーツ証券に登録取消し処分が出た際の当時のブログの記事で、アーツ証券の事件で最も注目すべき点は、報道にあるような「アーツ証券による虚偽告知」ではなく、「アーツ証券、オプティファクター、エム・アイ・ファシリティズの報酬合計の支出合計に占める割合が22.26%に及ぶことだ」と書きましたが、今回の同社に対する証券取引等監視委員会の指摘は、同じ考え方に立っています。

当時のブログの記事はこちら
証券取引等監視委員会のサイトはこちら

今回最初に取り上げるのは「虚偽表示の意味」です。後で書きますが、金融商品取引業者にとって、今回の証券取引等監視委員会の指摘は、ここが重要なのではありません。

「虚偽」と言えば、通常、ウソを意味すると思います。辞書で意味を調べてもウソとあります。だから、金商業者の禁止行為となっている「虚偽表示」は、「ウソの表示」を意味すると短絡的に考えそうですが、証券取引等監視委員会の同社に対する今回の指摘を見ると微妙に違います。

証券取引等監視委員会は、同社の何が虚偽表示だと言っているかというと、同社が「SPCが発行者となり、診療報酬債権を裏付資産として発行する債券だから、安全性が高い」という趣旨のことを勧誘資料や契約締結前交付書面に書いていたことを虚偽表示と指摘しています。なぜ、虚偽かというと、当時のブログの記事に書いたように、発行者は投資者から集めた金銭をアーツ証券らの報酬に充てていて、診療報酬債権を取得していなかったのだから、「診療報酬債権を裏付資産として発行する債券」じゃないし、「安全性が高い」債券でもないから虚偽だ、と指摘しています。

つまり、同社が、勧誘資料や契約締結前交付書面に記載した事項は、「事実と異なる」ということをもって「虚偽表示」としているということです。

通常、「ウソをつく」と言えば、事実でないことを内心知っていて、事実と異なることを表示することと考えそうですが、この考えは否定され、金商業者の場合、内心がどうであったかにかかわらず、知っていても知らなくても、とにかく、事実と異なる表示をすることが、虚偽表示である、と証券取引等監視委員会は言っているわけです。

したがって、例えば、金商業者が顧客に配布する資料にうっかり間違えたことを書いてしまっても(ケアレスミスが原因であっても)、事実と異なるのであれば「虚偽表示」になるということです。

もっとも、証券取引等監視委員会は、昨日今日始まったわけではなく、一貫して、虚偽表示と言えば、いわゆるウソではなく「事実と異なる表示」のことを指しています。「金商業者はうっかりミスも許されない!」ということで、大げさではなく、検査実務では常識です。

虚偽表示の禁止規定は、顧客が特定投資家であっても適用されますから、特定投資家のみを顧客とする金商業者であっても、当然のことながら、顧客に提供する資料を審査する体制、広告審査体制を整備することが必須です。

以上が虚偽表示ですが、金商業者の実務において、今回の指摘のポイントは、実は、虚偽表示ではありません。今回の指摘で最も注目すべき点は、証券取引等監視委員会が、金商業者の「審査義務」と「モニタリング義務」を認めている点です。

「審査義務」とは、有価証券(みなし有価証券を含む)を販売しようとする金商業者は、販売の前に、有価証券の発行者や有価証券の内容に関して審査をしなければならない義務です。有価証券の引受けに伴う「引受審査義務」は金商法にありますが、報道を見る限り、同社は有価証券の引受けを行っていないため、証券取引等監視委員会が認めている「審査義務」は、法令上の義務ではありません。

「モニタリング義務」とは、有価証券(みなし有価証券を含む)を販売した金商業者は、販売後も、有価証券の発行者や有価証券の内容に関してモニタリングを継続しなければならないという義務です。モニタリングも、法令上の義務ではありません。

私の知る限り、今回の指摘は、証券取引等監視委員会が金商業者の審査義務とモニタリング義務を正面から認めた初のケースです。

証券取引等監視委員会は、今後も、金商業者に、法令上の義務ではなくても、審査義務とモニタリング義務を求めるでしょうから、審査体制やモニタリング体制のない一種業者や二種業者は、この指摘が出た以上、体制整備が急務です。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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