木を見て森を見ず


4月21日発行のメールマガジンの抜粋です。



AUによる携帯料金と保険のセット販売が、保険業法で禁止する「特別利益の提供」に該当するかどうかが問題になっているようです。新聞解説によると、保険業法で「特別利益の提供」が禁止されている理由の一つは、「保険加入者間の公平」を損なうからだということです。

金商法も、金商業者による「特別の利益の提供」を禁止しています。ただ、保険業法と違い、金商法には、「市場参加者間の公平」という考えはなく、「特別の利益の提供」が禁止されている理由は、特別の利益の提供がなければ市場に参加しなかった投資者が市場に参加することで、①公正な価格形成が歪められる、②当該投資者が不測の損害を被る、③当該投資者と金商業者の間のトラブルの原因になることなどにあります。

金商法を読むときの注意点として、公開買付け制度を除き、金商法に「市場参加者間の公平」という概念はないということを忘れないで読む必要があります。市場参加者間に存在するのは健全な(法律に則った)競争であり、お互いの利益に干渉しない自己責任の原則であり、情報の非対称性です。

例えば、金商法は、開示規制、行為規制(業者規制)、不公正取引規制のわずか3つの規制から成り立つ法律ですが(この3つ以外の規制は金商法に存在しない)、いずれも、市場参加者間の公平は考えていません。

開示規制において、有価証券の発行者に情報開示を義務付ける開示規制は、発行者という市場参加者と、投資者という市場参加者の間の情報の非対称性を是正することにより、新たに発行される有価証券(募集の場合)、あるいは、既に発行された有価証券(売出しの場合)の「価格」の公正性を担保するための制度です。

既に発行された有価証券で、市場で取引されている有価証券の場合、有価証券の「価格」は、存在するすべての情報を反映しているため公正であるけれども(invisible hand)、募集や売出しの場合には、発行者が有する情報と、投資者が有する情報の間に、情報の非対称性が存在し、公正な価格形成が期待できないため、発行者に情報を開示させます。売出しの場合にも、つまり、資金調達者である売出人が発行者でない場合であっても、開示義務が発行者に課されるのは、このためです。

行為規制において、金商業者による「損失補てん」が刑事罰をもって禁止されていますが、この禁止規定が存在する理由は、「損失補てんは投資者間の不公平感を生むから是正する」ことではありません。損失補てんを許してしまうと、本来、市場に参加すべきでない者が市場に参加するため、公正な価格形成が歪められるからであり、金商業者の財務の健全性が損なわれ、ひいては、金商法の目的規定にある「投資者の保護」に支障が生じることになるからです。

不公正取引規制において、「インサイダー取引」が刑事罰をもって禁止されている理由は、インサイダー取引が、「インサイダー情報を持っている人が有利で不公平だから」ではなく、インサイダー情報を知っている投資者が、インサイダー情報を知らない投資者との間で株券等の売買等をする行為は、詐欺的行為であって、インサイダー取引が横行すると、市場は信頼を失い、投資者が市場に参加しなくなる結果、金商法の目的規定にある「国民経済の健全な発展」を阻害するからです。

なお、勘の良い方は、「インサイダー情報が市場に反映されなければ、存在するすべての情報が市場に集まっていることにならないのではないか」という疑問を持つと思います。この考えは正しく、だから、インサイダー取引を規制するかどうかは、何を優先させるかの問題であって、インサイダー取引を規制することが必ずしも正義であるわけではありません。

以上のことは、20年以上前、私が、コンプライアンス担当者に任命されたばかりの頃に読んだ「証券取引法入門」(商事法務研究会)にとても詳しです。このような良書による勉強は、決して、勉強のための勉強、興味本位の勉強ではなく、規定が細かいために、「木を見て森を見ず」になりがちな、金商法の条文の一つ一つの読み込みの際の一本の柱・指針を持つために重要です。柱・指針がないと、例えば、禁止規定一つとっても、「金商法で禁止されているから禁止」と、金商法を暗記科目のように考えがちであり、金商法の条文がいつまでたっても自分のものにならないと思います。

買った当時、あまりにも面白くて、夜を徹して、何度も何度も繰り返し読んだ「証券取引法入門」は既に絶版ですが、図書館にあるか、あるいは、「新訂第二版」であれば、アマゾンで中古が販売されています。金商業者のコンプライアンス担当者の方にお勧めです。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
電話:03-5533-8785
http://office-jsl.com/

<お問い合わせ>
お問い合わせは、お問い合わせフォームで受け付けます。

<主な業務>
主な業務は、主な業務をご覧ください。

ブログの内容は個人的見解ですので、正確性は保証いたしません。また、ブログの内容に関する質問を含め、質問には一切回答いたしかねますので、ご了承ください。

プライバシーポリシー

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
Translation
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード