法人関係情報に係る禁止規定


2月20日のメールマガジンからの抜粋です。



アスクルの工場が火事で燃えていると報道されています。アスクルは上場会社であり、同社工場の火災は「発生事実」であることから、いわゆる内部情報になり得ます。

いわゆるインサイダー取引は、「上場会社等」の「未公表」の「重要事実」を知って「上場株券等」を取引することです。

風説の流布や相場操縦と異なり、インサイダー取引の成立には、不正の目的が要件になっていないため、上場会社等の未公表の重要事実を「知って」取引をすれば、不正の目的がなくても、インサイダー取引です。

ただし、「知って」は、「職務に関し」知っている場合に限定されています。

これに対し、法人関係情報の不正利用には、「職務に関し」という限定がありません。ですから、法人関係情報を知った者が、当該情報を不適切に利用することは、たとえ当該情報を偶然知ったとしても、法令が禁止する法人関係情報の不正利用です。

法人関係情報の不正利用には、「職務に関し」がない理由は、刑事罰の対象となる行為は、罪刑法定主義から、限定される必要がありますが、法人関係情報の不正利用は、インサイダー取引と違って、刑事罰の対象でないことから、ことさら、該当行為を限定する必要はなく、法人関係情報の不正利用を全面的に禁止する方が、金商業者の不正行為の誘発防止に役立つからだと考えます。

以上から、今回の火災の場合、現場近くを「偶然」通った者が、火災の事実が公になる前に、当該情報を不適切に利用することは、インサイダー取引にはなりませんが、法人関係情報の不正利用にはなり得ます。

注意が必要なことは、インサイダー情報の不正利用の場合と異なり、法人関係情報の不正利用は、主体が、金商業者に限られることです。ですから、証券会社の役職員を除き、金商業者の役職員による法人関係情報の不適切な利用は、禁止されていません。

「証券会社以外の金商業者の役職員が法人関係情報の不正利用をしたとしても、当該役職員は行政処分の対象にならないのか」

原則として、役員解任命令を除き、行政処分の対象は金商業者であって、金商業者の役職員ではありませんので、金商業者の役職員が法人関係情報を不正利用しても、当該役職員が、行政処分の対象になることはありません。

ただし、当然のことながら、役職員による法人関係情報の不正利用が、自己(金商業者)のために行われたものであれば、当該金商業者は、行政処分の対象です。

また、役職員が自己以外の者のために法人関係情報を不正利用した場合、当該行為を可能にした金商業者は、法人関係情報の管理不備を理由に、行政処分の対象になります。

法人関係情報の不正利用に係る禁止規定は、以下の通りです。

「金商業者が発行者の法人関係情報を利用して勧誘する行為」(金商業等府令第117条第1項第14号)

法人関係情報の不正利用が禁止される行為は、株券等の売買等のみですから、この禁止規定は、株券等の売買等の勧誘が認められる証券会社にのみ適用があります。

「法人関係情報を利用したプレマーケティング」(金商業等府令第117条第1項第15号)

法人関係情報の不正利用が禁止される行為は、株券等の売買等のみですから、この禁止規定は、業務に関し、株券等に係るプレマーケティングが必要となり得る証券会社にのみ適用があります。

「法人関係情報に基づく自己の計算による有価証券の売買等」(金商業等府令第1項第16号)

金商法関連法令の中で、「自己」と言えば、常に、金商業者を意味します。この禁止規定は、すべての金商業者に適用されます。

「法人関係情報の管理不備」(金商業等府令第123条第1項第5号)

金商業者の役職員が、自己以外の者のために法人関係情報を不正利用した場合、当該行為を可能にした金商業者が行政処分の対象になる根拠がこの禁止規定であることは、既述の通りです。

この禁止規定も、すべての金商業者に適用されます。


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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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