平成21年改正金融商品取引法(25)


昨日は4月1日。多くの会社では入社式があったことでしょう。初々しく、少し恥ずかしげな新入社員を迎え、東京では天気も良かったため、ほのぼのとした空気が漂っていました。が、証券会社は、改正金融商品取引法の施行への対応で混乱していたようです。昨日は、証券会社からの問い合わせや適格機関投資家からの問い合わせを受けました。国内最大級の適格機関投資家の方々から質問を受けてわかったのですが、昨日の最大の問題は、「証券会社によって対応が違う!」というものです。そこで、今回は、昨日適格機関投資家が証券会社の対応が各社各様であったために混乱してしまった事例にスポットを当てて説明することにします。

<プロ私売出しの告知について>
国内最大の適格機関投資家の不満の一つとしてご相談を受けた件に「プロ私売出しの告知」がありました。プロ私売出しとは、適格機関投資家のみを対象とした既発の外国証券の販売のことですが、改正金融商品取引法の施行でプロ私売出しを行う証券会社は、取引の相手方である適格機関投資家に「プロ私売出しであるため、適格機関投資家以外の投資家に転売することができない」旨を証券の内容を説明する書面に記載しなければならなくなりました。

転売制限告知書と一般的に呼ばれるものですが、外資系を中心とした複数の証券会社が、プロ私売出しの転売制限告知書を、証券の内容を説明書に記載しないで、「別冊」(別紙ではありません)の小冊子を適格機関投資家に一斉に送ったとのことです。

送られた適格機関投資家の方のお怒りはごもっともです。一回の告知で済ませてしまう証券会社には都合がいいかもしれないけれども、送られた適格機関投資家としては、どの外国証券がプロ私売出しの対象になるのかわからず、甚だ迷惑であるということでした。しかも、別冊の転売制限告知書を送った証券会社の中には「別冊で送ることが改正金商法の義務になっています」と投資家に説明しているという話でした。

これは、完全に間違いです。そもそも転売制限告知書は、法令上、証券の内容を説明した書面に記載することが義務付けられていますので、証券会社が別冊にして送った転売制限告知書は無効です。昨日も不満を抱えた複数の適格機関投資家の方には説明しましたが、どうして別冊で送る証券会社が現れたかというと、法令には規定がないものの、金融庁がパブリックコメント回答で「取引相手が適格機関投資家の場合は、包括的に転売制限告知書を提供することも可能」と回答したことが唯一のよりどころです。

さらに悪いことには、法務コンプライアンス部門はこの点を理解しているかもしれませんが(ここも実は怪しいです)、顧客と接する営業部門は、法務コンプライアンス部門から包括的な転売制限を送ることが法令上の義務であると説明を受けたことから、「別冊の転売制限告知書を送ることが法令上の義務になっています」と説明してしまっていることです。

繰り返しますが、別冊形式は、法令では認められていません。それはそうです。別冊にされてしまうとどの外国証券がプロ私売出しの対象でどの外国証券がそうでないのか、投資家からはわからないからです。

適格機関投資家の方々の話によれば、別冊形式の転売制限告知書の内容は長いにもかかわらず内容が同じだったということですから、法律事務所が作成したものであることがわかります。以前から何度か繰り返していますが、金融商品取引法のコンプライアンスを理解できる弁護士は存在しません。

別冊の転売制限告知書は、転売制限の内容が外国証券の種類によって異なるため証券会社にとっては迷惑な話だったので、パブリックコメントに対して金融庁が「包括形式でもよい」と気を配って回答したことから作成されたものだと思います。また、証券会社でいうフローのビジネスでは、外国証券の内容を説明する書面が作成されないことがほとんどという事情も考えられます。確かにその通りですので、対行政当局に対しては説明がつくことは事実です。でも、これはコンプライアンスではありません。

金融商品取引法のコンプライアンスとは、誤解を恐れずに言うと、法令を遵守することではありませんん。法令遵守は手段であって、手段を通じて投資家に正しい情報を提供することです。別冊の転売制限告知書の送付は、法令にも記載されていない行為で、しかも、現に投資家に間違った情報(包括形式が法令上の義務であるという情報)を提供している行為ですから、コンプライアンスの観点からは失格です。

上述しましたように適格機関投資家の方々が「甚だ迷惑である」と苦情を漏らしている実態に鑑みても、別冊形式を採用している証券会社は、即刻別冊形式を中止することをお勧めします。なお、フローのビジネスの対応方法は別にあります。

<プロ私売出しの対象となる外国証券>
証券会社が(外国)有価証券を投資家に売り付ける行為は、大原則として、すべて売出しです。ここを理解していない証券会社が多数(「複数」というレベルではありません)あることが、昨日、適格機関投資家の方々から受けた相談を通じてわかりました。原則、すべて売出しである!という点が、今回の改正金融商品取引法の最大の改正点であるにもかかわらずです。

例外として、適格機関投資家間でのみ流通する外国証券については、証券の内容を説明した書面に適格機関投資家以外の者に転売することを禁止するという内容の文言があれば、売出しに該当せず、従って、有価証券届出書の提出が不要で、外国証券情報の提供も不要だというのが金融商品取引法の立てつけで、すべての証券会社の外国証券の売付け行為は、原則、すべて売出しだというのが改正金融商品取引法の最大の改正点であることを、すべての証券会社は忘れてはなりません。

ですから、証券会社の実務上の手続きとしては、まず、売出しで販売する方法を検討し、次に、プロ私売出しを検討するという順番でなければなりません。ところが、昨日受けた適格機関投資家の方々からの相談から、多数の証券会社が、適格機関投資家に販売する外国証券をやみくもにプロ私売出しで販売していることがわかりました。

証券会社の正しいアプローチは、まず、売出しの方法を考え、次にプロ私売出しを考えるべきだと言いましたが、実態は逆になっているということです。このため、昨日、個人的には面白いことが起こったようです。適格機関投資家の方々の話では、外国国債、外国地方債、外国政保債にも、プロ私売出しの転売制限を付けてきた証券会社が多数あって困ったというのです。

外国国債、外国地方債、外国政保債は、①販売の対象となる外国国債等の価格を投資家が容易に取得でき、②販売の対象となる外国国債等か、同一の発行者が発行したその他の外国国国債等が外国で継続的に売買されていて、③発行者の財務情報が日本語か英語で公表されていれば、法定開示・外国証券情報の提供のいずれも不要の売出しになることは、いずれの証券会社でも理解されている通りです。これらの外国国債等についても、プロ私売出しの転売制限を付けて販売する証券会社が多数あったことが、適格機関投資家の方々の不安を増幅させた要因の一つとなっています。

売出しであるにもかかわらず、プロ私売出しとして販売してきた証券会社の趣旨は、おそらく、①から③の条件をすべて満たしているかどうかを確認するよりも、プロ私売出しとして販売してしまった方が楽だからだと思います。特に、①の「投資家が販売対象の外国国債等の売買価格情報を容易に取得できる」かどうかの判断がつかない外国国債等があるために、一律、プロ私売出しにしてしまったものだと推測されます。

このような一律の対応も、コンプライアンスの観点からは失格です。確かに、すべてをプロ私売出しにしてしまえば、法令は遵守できているかもしれません。でも、外国国債等の取扱いまで一律にプロ私売出しの対象にしてしまった証券会社があったために、事実として適格機関投資家の方々の中には、プロ私売出しが原則なんだという誤解をされてしまった方もいらっしゃいます。

このような一律の対応をしている証券会社は、法令を遵守することは目的ではなく手段であるというコンプライアンスの基本を忘れてしまっています。また、一律プロ私売出しとする対応は、改正金融商品取引法の最大の改正点であった「原則としてすべての(外国)有価証券の販売を売出しとする!」という点にも配慮していない行為です。

昨日の改正金融商品取引法の施行は、証券会社が法令の趣旨とコンプライアンスの意味を履き違えると、投資家に誤解を与え、多大な迷惑までかけてしまうという事実を図らずも顕在化させていました。

でも、まだ、改正金融商品取引法は始まったばかりです。社内でも間違った情報を与えられたために、適格機関投資家の方々から苦情を受けた証券会社の営業部門の方々にとっても気の毒です。昨日、国内最大級の適格機関投資家の方々から私が相談を受けた証券会社に対する不満も、今ならまだ回復可能ですから、昨日、苦情を受けた証券会社の方々は「コンプライアンスとは何か」という基本に立ち返って、実務の修正をしていけば良いと考えます。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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