取引一任勘定取引の禁止


証券会社など第一種金融商品取引業を行う会社やファンドの販売や信託受益権の取扱いをする第二種金融商品取引業を行う会社の役職員が、顧客から「銘柄」「売買の別」「価格」「数量」のすべてを決定する権限を委任される契約を結ぶことは、基本的にできません。

<取引一任勘定取引>
証券取引法時代には、「取引一任勘定取引」と呼ばれ、取引一任勘定取引は明文をもって禁止されていました。金融商品取引法では、後述する一部の取引一任勘定取引を適正に行うことが役職員に求められているのみで、取引一任勘定取引を直接禁止する規定はありません。これは、銘柄、売買の別、価格、数量のすべてを決定する権限を受任して投資する行為は「投資運用業」と位置付けられ、投資運用業の登録をしていなければ必然的にできない行為となったことによるものと思われます。(定義府令16条1項8号ロ参照)

<禁止される理由>
取引一任勘定取引を認めると、法令違反である損失補てんに繋がること、また、損失補てんは第一種金融商品取引業や第二種金融商品取引業を行う会社の経営を脅かす危険があることからです。実際、山一証券が自主廃業(実質破綻)した原因は、取引一任勘定取引を積極的に行った結果であると言われています。

取引一任勘定取引は、顧客が運用のすべての権限を第一種金融商品取引業や第二種金融商品取引業を行う会社に委任して行われるものです。ですから、損失が発生したときに、受託した会社は顧客から「損失を出したのはお前が悪い。だから、損失を補てんしろ!」となりがちです。

ちなみに、業者が損失を補てんするのも懲役刑付の法令違反ですが、顧客が業者に損失の補てんを要求する行為も同じく懲役刑付の法令違反です。それでも、強引な顧客と押しに弱い業者間では、取引一任勘定取引を通じて、損失補てんが行われる可能性があるため、業者が取引一任勘定取引を行うことは基本的に禁止されています。

第一種金融商品取引業や第二種金融商品取引業を行う会社が、取引一任勘定取引を行っていたり、または、法令で認められた取引の一部一任取引を行ったりすれば、行政処分の対象になります。悪質であったり、継続的に行われたりしていれば、営業停止があってもまったく不思議ではありませんし、実際に取引一任勘定取引を行った会社や実行犯である個人が営業停止を受けた事例は、珍しくありません。

<許容される一任勘定取引>
1. 顧客から銘柄、売買の別、数について同意を得て、価格については同意をした時点における相場を考慮して上下何円と値幅について同意を得て(特定同意といいます。)、業者が特定同意の範囲内で約定を決める行為は認められています。逆いうと、この値幅を超えて業者が取引を決める行為は、禁止されています。(おそらく投資運用業になってしまいます。)

2. 顧客から銘柄、売買の別、取引総額と数又は価格の一方について同意を得て業者が取引をする行為も認められています。取引総額が決まっていれば争いの余地が少ないからです。また、経済効果としては、取引総額を決めて業者が「安い」と思ったときに多く買い、「高い」と思ったときに少なく買うことは、顧客にとってメリットがあります。

3. 顧客と取引総額のみについて同意し、他の要素については業者のプログラムにそって約定を成立させる業者の行為も認められています。取引総額が決まっていれば争いの余地が少ないこと、また、プログラム売買であれば、業者の裁量の余地がないことからです。

4. 業者の役職員の親族が顧客である場合で一定の場合も、業者が裁量で取引することが認められています。まさか従業員の親族が業者に苦情を言うことは考えにくいからです。

以上の他、海外関連会社からの委託取引を除き、取引一任勘定取引は法令で認められていません。違反すれば、会社のみならず、実行犯である職員も処分の対象になることは既述の通りです。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。コンプライアンス・リスク管理コンサルタントとして、上場会社、が外資系企業など多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所
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