平成22年改正-デリバティブ取引(1)


金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針の改正についてです。4月16日から、一般投資家と店頭デリバティブ取引をしたり、一般投資家に仕組債を販売したりする証券会社に対する監督の検証項目・着眼点が改正されました。関係者の方々のご参考具体的に何をすれば良いか、パブリックコメントに対する金融庁の回答と私見に基づきまとめておきましょう。

<改正の要点>
追加された点は、既に証券会社に課されている説明義務に関するものです。説明すべき事項や説明義務は法令に規定されていますが、特に店頭デリバティブ取引や仕組債の販売に関する説明義務について、監督にあたっての具体的な基準を明確にしたものです。

言い換えると、何も新しいことが追加されていないことに注意してください。ここを勘違いされている方が大勢いらっしゃいます。証券会社は既に行っていただろうけれども、あらためて明確化したに過ぎません。説明義務の基準の明確化ではなく、説明義務の内容の「追加」であれば、金商業用府令で行われるべきで、監督指針に説明義務の内容の追加を行う権限はないからです。

<仕組債>
仕組債とは何を指すのか、具体的な記述はなく、デリバティブが組み込まれた社債は一律に仕組債と規定されているように見えます。ですから外国企業が発行するユーロ円建て普通社債であっても、裏で通貨スワップが組まれている場合であっても、仕組債に該当すると考えるべきだと考えます。こう考えても、今回、仕組債の説明について明確化された点は、仕組債が参照している金融指標に限ったものと把握されることから(こう把握しないと店頭デリバティブ取引に関する着眼点と異なってしまう)、通貨スワップが組み込まれたユーロ円建て普通社債については、今回の改正の影響を受けませんので、問題がありません。

<想定最大損失額>
証券会社は、合理的に計算された最悪シナリオを想定した最大損失を顧客に説明する義務があります。「合理的」な範囲で計算された最悪シナリオである必要がありますから、「オプションの売りの損失は無限大です」とか「仕組債の償還金額はゼロに可能性があります」という説明は、通用しません。オプションであれば期間に応じて合理的な範囲の損失額には限界がありますし、仕組債についても同様に期間に応じた合理的に想定される最大損失額に限度があるからです。

もっとも、「想定」を超えた損失額が発生する可能性は当然にあるわけですから、顧客に想定外の損失が発生する可能性があることを理解していただけなければ、今回の改正を反映した説明とは認められません。

「想定最大損失額」は、商品に応じて決まるもので、顧客の属性とは無関係ですから、すべての顧客に対して同一の説明がなされなければならない点に注意が必要です。

<許容可能損失額>
証券会社は、顧客の財務状況から許容できる損失額を顧客に認識されるとともに、いかなる場合に、許容範囲を超えた損失が発生するかについても説明しなければなりません。このことは、適合性の原則から、当然に導き出される説明義務ですので、今回の改正では、あらためて明示されたに過ぎません。許容可能損失額は、顧客によって異なる点で、想定最大損失額とまったく異なるものであることに注意が必要です。

<解約損・売却損>
証券会社は、デリバティブ取引の期限前解約や仕組債の償還前売却に伴い顧客に生じえる最悪シナリオの損失試算額も顧客に説明しなければなりません。また、損失試算額を超える損失が顧客に生じる可能性があることも顧客に理解させなければなりません。

<ヘッジ取引の限界>
ヘッジ取引については、監督上の特別な検証項目が監督指針に記載されました。ヘッジ取引をしたことによって、むしろ経営的にはマイナスになる可能性があることを顧客に認識させる義務が証券会社にあることが明確化されました。

証券会社は、以上のことを顧客が理解・認識・把握したことを確認書等で確認しなければなりません。なお、確認書は、顧客が取引参加に慎重になるように作成されるものです。証券会社の説明義務が完全であったことを証明するためのものではないことにも注意が必要です。

テーマ : 金融商品取引法
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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
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