検査の思い出2


金融商品取引法が、金融商品取引業者等と顧客との関係で規制している金融商品取引業者等の行為は、基本的には、「勧誘行為」(勧誘時点の行為)です。約定時点の行為については、作為的相場形成(相場操縦の要件までは満たさない相場操作)の禁止など、対顧客に影響しない行為が規制されるに過ぎませんし、決済行為については、顧客への支払いの意図的遅延を除き、対顧客との関係では一切規制が存在しません。

つまり、金融商品取引業者等が金融商品取引法違反とならないように注意しなければならない行為は、基本的に勧誘行為だと理解しておいて問題ありません。

<勧誘とは>
ここで、問題になるのは、「勧誘行為と言われるのはどの時点からか」という点です。抽象的な話、例えば、経済一般や最近の為替動向に関する話を顧客とすることは勧誘か。商品の品揃えを顧客に話す行為は勧誘か。具体的な商品や取引について話した段階で勧誘になるのか。それとも、買ってください、売ってくださいと言ってはじめて勧誘になるのか。

勧誘行為が規制の対象になるのですから、何が勧誘か、どこからが勧誘なのかを明らかにしておくことはとても大切なことになります。

私は、具体的な商品や取引を紹介した段階で勧誘になると考えています。顧客が特定の商品に興味を持つような行為をした段階で初めて勧誘になるという考え方で、商品一覧を提供した時点で勧誘というのは少し早すぎますし、買ってください、売ってくださいと言う時点では遅いと思います。

ところが!

検査官にはっきり言われたのは、「口をきいたら勧誘だ!」という指摘です。具体的に言えば、顧客に電話をかけて、「もしもし」と言えば勧誘に該当するということです。

ここも相当抵抗しました。なぜなら、「口をきいたら勧誘」としてしまうと、顧客の方から電話がかかってきたときに「はい。ABC証券です。」と言った瞬間に勧誘となってしまうからです。

しかし、抵抗むなしく、「とにかく、顧客と口をきいた時点で勧誘だ」という指摘が残りました。

「口をきいたら勧誘」の実務的な問題点はどこかと言いますと、証券会社の方からは何の情報提供もしていない段階で、顧客が、自分自身で調査をしてある商品や取引に興味を持ち、証券会社に問合せをした場合、問合せの電話を受けてしまうと、証券会社が意図していないにもかかわらず、勧誘になりますので、「勧誘のない取引」を概念することができない点です。

投資家が自身で調査して「買いたい」と証券会社に電話をしてきた場合、うっかり電話をとってしまった証券会社は勧誘をしたことになります。従いまして、例えば、飛び込みの顧客が調査に調査を重ねた結果「どうしても欲しい」「今すぐ買いたい」といわれても、「適合性の原則を確認させていただきますので、2、3日お待ちください」と、間の抜けた回答をしなければなりません。

また、証券会社が別の証券会社に「有価証券を売って欲しい」と電話をすることは日常茶飯事としてありますが、電話を受けてしまった証券会社は、何も売る気がなかったとしても、勧誘をしたことになります。(実際に指摘が残ったのはこの点で、社内規則を改正する結果になりました。)

いずれにしましても、金融商品取引業者等は、「口をきいたら勧誘」であるという前提で社内規則やマニュアルの整備が必要です。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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