開示規制違反か?


<問題>
新たに発行される社債を50名以上に取得させようとする行為は募集となり、発行者は有価証券届出書を提出する必要があります。ここで、「50名」の計算は、過去6ヶ月間に勧誘した相手方を合計しなければなりません。また、通貨、利率、償還期限が同じ社債は、同一種類の有価証券として、たとえ発行日が異なっても、50名の計算の対象となります。たとえば、円建てで満期日が平成25年3月31日の金利2%の社債があったとして、平成23年3月1日に49名に取得の申込みの勧誘をすれば、平成23年9月30日までに1名にでも取得の申込みの勧誘をすれば、立派な(?)募集で、私募ではありませんから、有価証券届出書が提出されていなければできません。

ここまで、大丈夫でしょうか?

問題はここから。ある証券会社が、円建てで平成25年3月31日を満期日とする金利2%の社債を49名に対して取得の申込みの勧誘をし、翌日、円建てで平成25年4月1日を満期日とする金利2%の社債を1名に対して取得の申込みの勧誘をする行為は、募集の取扱いとなるでしょうか?なお、償還期限が異なるので、金商法施行令1条の6により、2つの社債は同一種類の社債ではありません。あなたなら、2つの私募が行われたと判断しますか?それとも、満期日が一日異なる程度では実質的に同一種類の社債だから、1つの募集が行われたと判断しますか?

<回答>
満期日が一日異なる程度では同一種類の社債の募集(の取扱い)とみなされて、行政処分の対象になり得る。

<解説>
もう一度繰り返しますが、同一種類の社債、つまり、通貨、利率、償還期限が同一の社債を過去6ヶ月通算して50名以上に取得の申込みの勧誘をする行為は、発行日をずらしても、一つの募集の取扱いです。言い換えれば、通貨、利率、償還期限のいずれか一つでも異なる社債は同一種類の社債ではなく、したがって、仮に同じ日に、複数の回号にわけて、取得の申込みの勧誘をすれば、それぞれの回号ごとに勧誘の相手方の人数を合算して49名以下であれば、それぞれ別の私募ということになります。

ところが、です。昨日(平成23年3月1日)、金融庁(関東財務局)は、償還期限がわずかに異なっているに過ぎない社債の取得の申込みの勧誘は、発行日をずらしても(発行日が同じならもちろんのこと)、また、回号が異なっていても、勧誘の相手方が50名を超えれば、全体として一つの募集であり、有価証券届出書の提出が行われていることが必要で、届出が行われていないのに証券会社が募集の取扱いをすることは違法である、として、そのような勧誘を行った証券会社に対して、募集の取扱い及び私募の取扱いの一ヶ月間の停止命令を出しました。

おそらく、よほど悪質で、脱法の趣旨が見え見えだったのだと想像されますが、法令違反であると指摘をした証券取引等監視委員会にしても、一ヶ月間の業務停止命令を出した金融庁にしても、この判断は妥当だったと考えます。なぜなら、こんなことを許してしまったら、開示規制、つまり、投資家に発行者や有価証券の情報を提供することを義務付けた金融商品取引法の規制が有効に機能しなくなるからです。

ただし、そうであるなら、金融庁は法令を改正すべきです。行政処分の運用で募集であるかどうかを判断されてしまうと、発行者も証券会社もどこからが実質的に募集とみなされるのか、法令を見てもわからないからです。

開示規制は、元本が必ずしも保証されない有価証券の取引を公正にするために必要な、金融商品取引法の規制の中でも、最も重要な規制です。投資家が投資をするかしないかを決定するためのよりどころとなるからです。開示規制の脱法的行為は、今後とも厳しい処分の対象になると考えられます。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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