第二種業者による特別の利益の提供


証券取引等監視委員会は昨日、株式会社ウェスコ・ジャパンに対して、検査の結果、金融商品取引法違反があったとして、金融庁に行政処分をするように勧告しました。法令違反の内容は、「特別の利益の提供」です。

第二種金融商品取引業を行う金融商品取引業者が「特別の利益の提供」で行政処分の勧告を受けるのは、私の知る限り、これが初めてです。「初めて」ということは、第二種金融商品取引法を営む他の金融商品取引業者も、今後、「特別の利益の提供」で行政処分を受ける可能性が高まったということです。

特別の利益の提供
では、特別の利益の提供とは何でしょうか。文字通り、特別の利益を提供することを約束したり、実際に特別の利益を提供したりすることが、特別の利益の提供という金融商品取引法違反です。

今回は、ウェスコ・ジャパンが、ファンドの持分の私募の取扱いに関して、顧客に「当社が取り扱っているファンドに出資をすれば、(顧客が)保有している未公開株を買い取る」と約束したということです。

典型的な特別の利益の提供です。

何が典型的かというと、「これがなければ取引なし」の関係に立っていることです。今回の場合は、「未公開株の買取りの約束がなければ、取引なし」の関係に立っています。特別の利益の提供の典型は、「これがなければ取引なし」の「これ」を提供する行為です。

世の中一般では、取引をしてもらうために、「お宅の商品を買うからうちの商品も買ってよ」という交換条件で取引を行うことはよくあります。よくある、というよりも、会社間の関係だと、それが普通だといえるでしょう。

しかし、金融商品取引業の世界では、その「普通」は、法令違反です。「これをするから取引してよ」なんて言おうものなら、一発で、金融商品取引法違反になります。

なぜ禁止されるのか
金融商品取引法の世界では、どうして世の中一般では普通の交換条件が禁止されているのでしょうか。いくつか理由があります。特別の利益の提供をすると、顧客は安易に取引をしがちです。「まあ、そこまでしてくれるなら、一口買うよ」みたいなことです。他のものならともかく、値下がりする可能性がある金融商品を安易に取引することは危険極まりない、よって、ダメだというのです。

紛争のもとになるというのも特別の利益の提供が禁止されている理由の一つです。「一口買ったら、こうしてくれると言ったじゃないか」と顧客から文句が出る可能性があるということです。また、金融商品取引業者が特別の利益を提供すると、金融商品取引業者に余計な費用が発生する可能性がありますから、金融商品取引業者の健全性のためにもよくないというのも、特別の利益の提供が禁止されている理由の一つです。

最後の健全性のところはわかりにくいかと思いますが、要するに、一社がやると他社もやる、他社もやると、もっと大きな特別な利益を提供をしてくる金融商品取引業者が現れる、すると、他社はもっと・・・となり、金融商品取引業者の財務の健全性が保てなくなるということです。金融商品取引業者は、顧客からお金や有価証券を預かっています。そんな金融商品取引業者の健全性が損なわれれば、最終的には投資家の財産が守られなく可能性があるということです。

ですから、特別の利益の提供の典型例は「これがなければ取引なし」の「これ」ですが、もっと広く、顧客に何らかのメリットがある行為は、金融商品取引業者の健全な競争を損ないますから、顧客にプラスのインパクトを与え得る行為はすべて、特別の利益の提供になり得るということを金融商品取引業者は、忘れてはなりません。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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