募集の取扱い(3)


「募集の取扱い」の意味、わかりましたでしょうか。

募集をするのは企業です。ですから、企業自身が、株式や社債を発行するときに、取得してくれそうな人にお声がけをすればいいのです。自分で募集をする行為を、一般に「自己募集」と呼んでいます。株式や社債の自己募集は金融商品取引業ではありませんので、誰だってできます。

もし、企業自身が投資家を探すことができれば、金融商品取引業者(証券会社)に頼む必要はありません。特に、投資家の数が少ない場合、たとえば、親会社や子会社、取引先や取引銀行だけに株式や社債を引き受けてもらう場合には、企業は、証券会社に頼む必要はないでしょう。これが、「私募」です。社債の発行の際に多く見られる形態です。

「私募債」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。金融商品取引法に「私募債」という言葉はありませんが、私募で発行される社債は私募債と呼ばれることがあります。私募債は、(企業金融の場合)融資の変形です。ですから、発行する企業(財務)の中身を良く知っている親会社や子会社、取引先や取引銀行が取得することになります。だから、私募(債)には、開示が要求されないわけです。私募には、投資家が50名未満の「少人数私募」、投資家が銀行などの適格機関投資家に限定される「プロ私募」がありますが、いずれも開示が要求されない理由は、発行企業の情報をよく知っている者が取得するからです。なお、少人数私募もプロ私募も金融商品取引法の言葉ではありません。

これに対して、広く多くの投資家を集めたいとなると、一般企業は投資家を集めることを「仕事」にしていませんので、投資家を集めることを「仕事」にしている金融商品取引業者(証券会社)に投資家を集めてもらうことになります。このときの一般企業の行為が「募集」で、金融商品取引業者の「仕事」が「募集の取扱い」です。「仕事」(業)なので、「募集の取扱い」は、登録を受けた会社しかできない「金融商品取引業」の一つと定められています。

ちょっと話は変わり、確認ですが、金融商品取引法で「募集」や「私募」に見る「募」という文字を使った場合は、必ず、まだ発行されていない、これから発行される「予定の」株式や社債に関する話を指します。少なくても金融商品取引法は、既に発行されていて、市場に出回っている有価証券の取引について「募」という文字は使いません。

よく「公募」という単語を使用する証券会社の方がいますが、公募も、金融商品取引法の単語ではありません。ですから、「募」という文字を使っていながら、公募には、金融商品取引法でいう募集と売出しの両方の意味が含まれています。(売出しは、既に発行されて市場に流通している株式や社債の取引を指します。)

さて、長々と書きましたが、以上から何がわかるでしょう?

自己募集、私募債、少人数私募、プロ私募、公募と、有価証券の世界では、金融商品取引法にない単語がふんだんに使用されています。このため、使う人によって、意味が違っていたりします。また、金融商品取引法にある用語の意味が複雑なために、違った意味で使われることもあります。

企業の財務担当の方も、証券会社の方も、注意しなければならないことは、同じ単語を使って会話をしていても、お互い、違う意味で使っている場合があるということです。

そうかといって、有価証券市場に関係している方が、全員、金融商品取引法に書いてある通りの言葉を使えば、同じ単語を違った意味で使う可能性が低くなるかといえば、まさか、「少人数私募」のことを「少人数向け勧誘のうち有価証券発行勧誘等に該当する行為」なんて正確に説明すると、何のことやらむしろわからなくなります。

企業の財務担当の方も、金融商品取引業者の方も、話している相手が同じ単語を使っていても、違う意味合いで使っていないかどうかを確認しながら会話を進めることが、実務的には、とても重要です。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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