開示規制義務違反


証券取引等監視委員会は、社債の発行会社に対して課徴金納付命令を発出するように勧告しています。同社は、回号ごとに利率をわずかに変えた社債を50名以上に取得勧誘していたことが、同社の検査でわかったということです。詳細は、こちらをご覧ください。

私募と募集
社債にかぎりませんが、有価証券の発行は、金融商品取引法上、私募か募集で取得勧誘されます。金融商品取引法の定義上、私募か募集以外の取得勧誘方法はありえません。

「取得勧誘」の意味をあらためて説明しますと、正確には「取得の申込みの勧誘」を指します。社債の発行者が、発行する社債に対して、取得の申込みをさせるために、誘い込む行為が、取得の申込みの勧誘、取得勧誘です。

私募の場合、原則として、50名以上に対する取得勧誘ができません。できないのは「勧誘」、つまり、誘う行為、簡単に言えば、「お声がけ」です。ですから、実際に取得した人数が、仮に1名であっても、50名以上に「お声がけ」すれば、声をかけた瞬間に私募ではなくなります。

有価証券届出書の意味
私募でなければ募集です。募集であれば、原則として、発行者は事前に「有価証券届書」を財務局に提出しなければなりません。なお、有価証券届出書の内容は、発行者の財務情報(企業情報といいます)と、発行される有価証券に関する情報(証券情報といいます)の大きく分けると2つです。

有価証券届出書を提出する行為は「開示」と呼ばれ、金融商品取引法により規制されています。「開示規制」に違反すると、最悪の場合、10年の懲役です。なぜ、開示規制違反には、10年の懲役という重い刑罰が科されるのでしょうか。

多くの商品は、ある程度の品質が保証されています。たとえば、スーパーマーケットで100円のモノを買う場合、対象は100円の価値があるということです。100円の価値あるものとして品質が保証されているということです。家を3000万円で買ったとします。家の価値は3000万円であることが保証されます。もし、買った家にキズ(瑕疵といいます)があれば、買主は売主に修復するように要求できます。なぜなら、キズがあるということは、3000万円の価値がないことになるからです。

社債のような有価証券は違います。発行者が100円で発行したからと言って、100円の価値があるわけではありません。発行者が100円の値段をつけたというだけで、品質が悪ければ50円の価値しかない場合もありえます。

有価証券には品質保証がありませんので、企業情報と証券情報を発行者に開示されせることによって、投資家に100円の価値があるのかないのかを判断させるという手続きが要求されるわけです。逆に言うと、この手続きに違反があると、投資家は50円の価値しかない有価証券を100円でつかまされる可能性があるということです。だから、開示規制違反は罪が重いわけです。

近時の特徴
近時、証券取引等監視委員会は、「脱法的募集行為」に対する監視を強化しています。脱法的という表現を使ったのは、証券取引等監視委員会が、法令の文字上の違法行為には該当しないけれども、開示規制の趣旨に反する行為を「違法」と判断しているからです。

今回の事件でも、複数の異なる回号で発行された社債の私募を、一体としてみると募集(開示規制違反)になるとして課徴金を科すように勧告しています。

社債は、回号が違っても、利率と償還期限(及び通貨)が同一であれば、同一種類の社債、つまり、同じ社債であると関連法令に規定されています。今回は、利率が異なっていたとあります。法令を文字通り読めば異なる社債が複数発行されたことになるわけです。しかし、利率の差異は小さなものであり、また、同時期に取得勧誘が行われていたので、証券取引等監視委員会は、開示規制違反と判断しました。

金融商品取引法の適用
以前にも書きましたが、「金融商品取引法は上場企業のための法律」という考えは間違っています。未上場企業でも、社債にかぎらず、有価証券を発行すれば、金融商品取引法や関連法令が確実に適用されます。例外はありません。金融商品取引法は、「資金調達」を規制する法律だからです。

すべての企業は、資金調達を行う際には、必ず、金融商品取引法を参照しなければならないということです。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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JSL行政書士事務所代表
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