証券化(4)


以前にも何度かお話していますが、信託受益権の募集と私募は、金融商品取引業ではありません。募集も私募も発行者の行為です。正確ではありませんが、募集とは、有価証券の発行者が、不特定多数の者に有価証券を取得させようとする行為で、私募とはそれ以外の取得勧誘です。

募集と私募
なお、募集が不特定かつ多数の者に有価証券を取得させようとする行為ですから、私募は、特定または少数の者に有価証券を取得させようとする行為です。「特定」の意味では、取得させようとする者が適格機関投資家のみの場合と特定投資家のみの場合が私募であると定義されています。「少数」の意味では、50名(二項有価証券の場合は500名)に達しない者に対する行為が私募であると規定されています。

自己募集
繰り返しますが、募集や私募を行う主体は発行者です。発行者(自己)が行う行為なので、金融商品取引法の施行以降、「自己募集」という言葉が使用されるようになりました。なお、一般的に、自己募集といったときには、自己(発行者)が行う募集と私募の両方の意味を持っています。募集と私募は異なる行為ですので、私募のことを「自己私募」と呼ぶ方もいらっしゃいますが、一般的には、私募も含めて、自己募集と呼ばれているようです。

信託受益権の自己募集とは、発行者が信託受益権を発行したときになす行為です。ですから、「発行者は誰か」ということと、「発行したときとはいつか」という二つの意味を明らかにしなければなりません。

社債や株式の発行者は株式会社であり、発行したときとは取得者から払い込みがあったときです。信託受益権は、誰が発行者で、いつが発行したときでしょうか。

信託の仕組みを考えると、一見すると、発行者は受託者で発行したときは受託者が受益権を発行したとき(取得させたとき)に見えます。ところが、これでは不都合が生じます。たとえば、不動産所有者が、不動産を信託譲渡して信託受益権を売付ける行為は、第二種金融商品取引業になってしまいます。信託受益権の売買(売付ける行為と買い付ける行為)は、定義上、金融商品取引業だからです。

信託受益権の発行者
そこで、金融商品取引法は、委託者のみの指図で管理、処分される信託の受益権の発行者は委託者であると定義しました。「委託者のみの指図で」という意味は、受託者が裁量で管理、処分しないという意味です。つまり、受託者は運用にかかわらないという意味です。運用権限がない受託者を発行者とするのは規制をかける意味がありませんから、このような場合には、委託者を発行者と決めたわけです。

信託受益権が発行されたとき
次に、発行したときについて、金融商品取引法は、委託者が委託者兼当初受益者の場合には、委託者が信託受益権を売付けたときとしました。受託者が信託受益権を発行したときではありません。受託者の行為は、信託法や信託業法で規制を受けるべきで、流通規制をメインとする金融商品取引法の範囲ではありません。ですから、信託受益権が発行されたときとは、信託受益権が流通におかれたとき、つまり、委託者が信託受益権を譲渡したときとしています。

以上から、委託者兼当初受益者の場合、委託者が信託受益権を譲渡する行為は、自己募集となります。ただ、信託受益権の自己募集は金融商品取引業ではありませんので、第二種金融商品取引業の登録を受けていなくてもすることができる、という整理になります。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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