売出しと私売出し(4)


東京証券取引所が「東証メールマガジン」を発行しているそうです。私は読んでいませんが、6月8日号に、証券取引等監視委員会の寺田事務局総務課長の寄稿があります。題名は「社債の無届募集について(その1)」です。詳細は、こちらをご覧ください。

そこに興味深い数字が載っていました。連載中の売出しにも関連するところですので紹介します。以下、引用です。

「日本証券業協会は、平成22年4月より「未公開株通報専用コールセンター」を設置し、投資家等からの照会に対応し、被害防止に取り組んでいるところであるが、22年4月の一ヶ月で被害に遭われた方の対象有価証券の77.1%が未公開株、16.5%が社債であったところが、近時、社債に係る被害が急増し、11月には未公開株38.9%に対して社債40.5%と社債が上回るに至ったところである。」

未公開株の詐欺事件は、多数報道されているところですが、未公開株の取引に関する照会よりも、社債の取引に関する照会の方が多いということです。割合しか出ていませんので、社債の取引に関する照会件数がどれくらい増えているのか(あるいは変わらないのか、減っているのか)は、わかりませんが、未公開株関連よりも多いというのは興味深い数字です。

未公開株の事件の典型は、「上場する予定だから株価が上がる」と投資家を騙して、未公開株を売付ける詐欺事件です。社債は、日本の場合、基本的に上場することがありませんので、手口が異なり、投資家に情報公開をせずに、社債を売付けるケースが典型のようです。

社債を不特定多数に対して募集発行する場合、発行者は有価証券届出書をEDINETというネットを経由して財務局長に提出しなければなりません。

有価証券届出書は、繰り返しお話しているように、発行者の概要(企業情報)と社債の概要(証券情報)を記載した書類です。投資家は、有価証券届出書(と目論見書)を参照して、社債に投資するか判断します。

社債は、品質保証されていません。発行者が100円で発行しても、100円の価値があることを意味せず、50円の価値しかない可能性もあるということです。そこで、金融商品取引法は、社債を募集発行する企業(未上場会社も含めたすべての企業です)に、投資家の投資のための判断材料として、有価証券届出書を提出することを義務付けています。投資家は、有価証券届出書を見て、100円の価値があると考えれば投資し、ないと判断すれば投資しないという選択ができます。

無届募集とは、この有価証券届出書が提出されていない募集を意味します。つまり、投資家に選択権を与えない、一方的な押し売りが、無届募集です。

押し売りを取り締まるのは、消費者保護の観点から当然のこととなっていますが、有価証券取引でも、投資家保護の観点から当然のこととされています。無届募集を行った者には刑事罰が科されます。

投資家に選択権を与える

この視点は、金融商品取引法上、非常に重要な視点です。選択権を与えるために、金融商品取引法は、さまざまな資料を、投資家が入手できるような仕組みを整えています。

有価証券届出書は提出すればそれで済む話。にもかかわらず、なぜ、社債の無届募集が行われるのか。未上場株事件の典型例と違って、社債の無届募集は、即、詐欺につながるものではありません。選択権を投資家に与えなかったというだけです。では、なぜ、発行者は投資家に選択権を与えなかったのか。証券取引等監視委員会は、東証メールマガジンで、事件の背景につて、今後寄稿するとしていますので、その中で明らかにされることを期待しています。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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