非居住者間取引と前書面


金融商品取引法は、金融商品取引業者等は、金融商品取引契約を締結しようとするときは、原則として、顧客に「契約締結前交付書面」を交付しなければなりません。金融商品取引契約とは、金融商品取引業を指します。

ということは、この規定を単純に読むと、非居住者が非居住者に社債(国内社債と外国社債)を売却する行為の「媒介」を行った金融商品取引業者等、具体的には証券会社は、顧客である非居住者に契約締結前交付書面を交付する義務が生じることになります。

非居住者間の社債の取引においても、証券会社は、本当に、契約締結前交付書面を交付する義務があるのでしょうか。

特定投資家制度
まず、非居住者は、金融商品取引法上、顧客でしょうか。この答えは簡単で、顧客です。特定投資家制度において、外国法人は特定投資家と規定しているのですから、外国法人は当然顧客になることが想定されています。

外国法人は、特定投資家ですから、希望すれば、一般投資家と取り扱ってもらうように金融商品取引業者等に申し出ることができます。アマなりと呼ばれる行為です。外国法人がアマなりすると、金融商品取引業者等には、外国法人に対して契約締結前交付書面を交付する義務が生じます。

これは本当か、というのが今日の話題です。

契約締結前交付書面の制度の趣旨
契約締結前交付書面は、実効性は別問題として、一般的に、投資家保護の現われと考えられています。

有価証券を販売しようとする証券会社は、一般投資家よりも、情報を持っているのだから、取引にあたっては、一般投資家に契約締結前交付書面を交付して、有価証券の特性を説明し、情報を提供しなければならない、というわけです。このように、取引の当事者間に情報の格差があることを情報の非対称性といいますが、非対称性を解消しなければ、投資家保護にかけることになると、一般的には説明されます。

以前にもお話しましたが、私は、金融商品取引法の直接の目的に投資家保護は含まれないとする立場ですから、こうは考えていません。金融商品取引法は、有価証券の適正な価格形成を確保しようとする法律です。そうすることによって、限りある資産が適切に配分されることを目指す法律です。

契約締結前交付書面の制度も、有価証券の適正な価格形成を確保するためのものであると考えると、契約締結前交付書面は、一般投資家に情報を提供することによって、一般投資家に有価証券の価値を判断する材料を与え、その結果として、有価証券の適正な価格形成を図ることを目的として存在する制度ということになります。

上場有価証券等については、契約締結前交付書面ではなく、簡易な上場有価証券等書面の交付で良いとされている理由も、これで説明できます。上場有価証券等の価格は、反映されるべき情報が反映されて競争的に決まるため、適正な価格形成が確保されています。だから、上場有価証券等については、簡易な上場有価証券等書面で良いわけです。

外国証券に対する規制
ところで、金融商品取引法は、インサイダー取引を規制していますが、対象となる有価証券(株券等)は、日本の取引所に上場されている株券等に限られます。インサイダー情報を知って外国の取引所に上場されている株券の取引をしても、金融商品取引法で罰せられることはありません。金融商品取引法は、外国で流通している有価証券の価格形成には無関心なわけです。

金融商品取引法4条1項4号で、外国で発行された有価証券や国内で発行されても発行の際の勧誘が国内で行われなかった有価証券には特別の規定が適用されるのも、金融商品取引法は外国で流通している価格形成に無関心であることの現れです。(投資家保護の立場をとると解釈が異なります)

非居住者間の取引と契約締結前交付書面
契約締結前交付書面は、有価証券の適正な価格形成のために存在する制度です。一方、金融商品取引法は、外国で流通している有価証券の価格形成には無関心です。

以上から、外国における流通市場の取引に関しては、公正な価格形成を図るために存在する契約締結前交付書面を交付する義務はないことになります。したがって、明文の例外規定はありませんが、非居住者間の社債の売買の媒介を行った証券会社は、非居住者が一般投資家であっても、非居住者に契約締結前交付書面を交付する必要はないことになります。

なお、以上は私の個人的な解釈です。解釈が異なれば、当然結果も異なりますので、ご注意ください。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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