行政処分事例集(5)


前回の続きです。

証券会社が顧客と取引を成立させた際、顧客を紹介してくれた者に対して、法外な手数料を支払った場合、手数料を支払った行為が特別の利益の提供に該当するかどうか。

特別利益の提供が禁止される理由
特別の利益が禁止される理由は、主に2つあります。1つは、特別の利益を提供すると、顧客が安易に取引を行うために、投資者保護に欠け、また、金融商品取引法の目的である公正な価格形成をゆがめるからです。

もう一つの理由は、証券会社の財務の健全性に支障をきたすからです。簡単にいえば、特別の利益を提供した分、証券会社の利益は減ります。特別の利益の提供を繰り返していると、現実には考えにくいですが、証券会社が倒産する可能性もあります。

証券会社が倒産しても、顧客の資産は分別管理されていますので影響を受けないのが原則ですが、何らかの事情で必要なだけの分別管理がされていなかった場合、証券会社の倒産によって、顧客は破産債権者になる可能性があります。つまり、証券会社の財務の健全性を損なう可能性のある行為は、投資家の保護に欠けるということです。

顧客を紹介してくれた第三者に法外な手数料を支払っても、顧客が安易に取引をすることにはなりません。でも、そのような行為は、証券会社の財務の健全性を損ねる行為です。ですから、顧客を紹介してくれた者に対して法外な手数料を支払う行為も、特別の利益の提供として禁止されるべきです。

さて、行政処分となった事例をみてみましょう。

東京三菱証券
顧客から買い付けた債券を顧客の親が社に売却する取引を6月に成立させたが、顧客から取引以前の状況に戻す取引の要請を受けたので、翌月、同値で反対売買を行い、最初の取引を解消した。取引以前の状況に戻すことを目的に同値で反対売買をするため、6月の取引で会社に生じた利益を顧客に提供する(戻す)ことになるにもかかわらず、このような利益の提供を約束して7月の反対売買を行った。したがって、特別の利益の提供であるとされた事例です。詳細は、こちらをご覧ください。

6月に行った取引を7月に解消する取引は、3月決算の企業であれば、決算操作に利用される可能性があります。極端な例ですが、A社が時価60円(簿価100円)の債券を保有している状態で中間期末を迎えるに際し、馴染みの証券会社に100円で購入してもらえば、評価損の40円は中間決算では消え、7月に入ってから、まったく反対の売買を証券会社との間で行えば、A社は、再び、中間決算前の状態に戻るという仕組みです。

悪質なケースでは、赤字の子会社を連結会社又は持分会社から外すために、3月決算の会社が、3月末日に証券会社にいったん子会社の株券を買い取らせ、4月1日に同値で買い戻すという仕組みもあります。証券会社は一日しか保有しないため、「一泊させる」などと呼びます。

いまどき、決算操作・粉飾決算を目的に、有価証券を一泊させようという顧客もいないでしょうし、仮にいても応じる証券会社がありませんが、決算期の取引を引き受ける証券会社には、李下に冠を正さずの姿勢が求められます。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

コメント

非公開コメント

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
電話:03-5533-8785
http://office-jsl.com/

<お問い合わせ>
お問い合わせは、お問い合わせフォームで受け付けます。

<主な業務>
主な業務は、主な業務をご覧ください。

ブログの内容は個人的見解ですので、正確性は保証いたしません。また、ブログの内容に関する質問を含め、質問には一切回答いたしかねますので、ご了承ください。

プライバシーポリシー

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
Translation
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード