インサイダー取引(号外)


まったく、馬鹿げています。

パナソニック電工(旧松下電工、平成23年3月29日上場廃止)の株式を、親会社のパナソニックが公開買付けすることを決定したという事実を知ったパナソニック電工の社員が、公開買付けが公表される前に、パナソニック電工の株式を買付けたという事件が報道されています。

金融庁は、金融商品取引法に基づいて、この社員に、この取引で得られたであろう利益を、課徴金として、国に納付するように命じました。詳しくは、こちらをご覧ください。

馬鹿げているのは、得られたであろう利益(課徴金)の金額が、31万円だということです。わずか
31万円です。この社員は、31万円のために、人生を棒に振ってしまったのです。

公開買付け
「公開買付け制度」は、2006年のドン・キホーテvsオリジン東秀事件で複雑になってしまい、詳細は、拙著『金融商品取引法の基本がよくわかる本』(中経出版)に譲りますが、簡単にいうと、上場会社の株式を市場外で大量に買付けようとする者は、必ず、公開して買付けなければならないという制度です。

大量に買付けようとする者は、どうしても買付けたいわけですから、通常、市場でついている売買価格よりも、何割か高い価格で買付けます。ですから、公開買付けの情報が公表されると、通常、株価は上がります。

だから、この社員は、パナソニックによる公開買付けの事実を知って、その情報が公表される前に、パナソニック電工の株式を買付けたわけです。

重要な要件
公開買付けに関する情報は、広い意味で、インサイダー情報の一つです。インサイダー情報は「知ったらおしまい」という性格があります。知ってしまうと、儲ける気があってもなくても、売買できなくなるのです。売買すると、即、インサイダー取引規制違反となり、懲役5年の刑事罰の対象になります。

重要な点は、知っていたかどうかです。繰り返しますが、儲ける意図は関係ありません。ですから、例えば、老後の資産形成を目的に売買しても、知っていたら、おしまいです。

第1次情報受領者
インサイダー取引規制の対象になるのは、社員ばかりではありません。社員から情報を取得した者も対象になります。社員から情報を取得した者を、一般に「第1次情報受領者」と呼びます。パナソニック電工事件では、第1次情報受領者にも、課徴金納付命令が出ています。詳しくは、こちらをご覧ください。

なお、第1次情報受領者から情報を取得した第2次情報受領者が売買しても、法令違反になりません。第2次以降の情報受領者は、情報源から遠いからです。

上場会社は、役員・社員に「情報を知ったら株式を売買するな!」ということを、社内研修を通じて、伝えなければなりません。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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