適合性の原則


<適合性の原則>
金融商品取引業者等は、金融商品取引行為について、顧客の知識、経験、財産の状況、金融商品取引契約を締結する目的に照らして、不適当と認められる勧誘を行ってはならないという、行動規範が、「適合性の原則」です。

ここでいう適合性は、狭い意味での適合性で、「顧客」の知識、経験、財産、目的を基準とする狭義の適合性であり、海外では「顧客適合性」(Client Suitability)と呼ばれたりします。

一方、金融商品取引法には規定されていませんが、「商品」自体が、顧客に提供できるレベルにあるかどうかという商品性に着目する適合性があり、海外では「商品適合性」(Product Suitability)と呼ばれたりします。

そして、顧客適合性と商品適合性を併せて、「適合性」と呼びます。

<顧客適合性>
日本では、これまで、適合性の原則違反といえば、顧客適合性に反する行為のみを指してきました。また、事例として、年金暮らしのお年寄りに信用取引やデリバティブ取引をさせるなど、極端な事例が想定されてきました。

最近になって、金融庁は、例えば、輸出企業が為替変動のリスクヘッジをデリバティブ取引で行う場合、ヘッジ取引が「事業の状況や市場における競争関係を踏まえても、継続的な業務運営を行う上で有効なヘッジ手段として機能すること」を理解している顧客以外の顧客に勧誘する行為は、顧客適合性に違反する可能性があることを示すようになりました。(監督指針Ⅳ3-3-2(6)③)

実務上の問題となる点は、金融商品取引法に規定する適合性の原則は、特定投資家には適用されないため、金融商品取引業者等は、顧客が特定投資家である場合は、顧客適合性を考えなくても良いかという点です。

結論だけお話しすると、顧客が特定投資家であっても、顧客適合性を考慮しない取引の勧誘を行うことは、公益を害する行為として、業務改善命令の対象になることがあると考えます。

<商品適合性>
商品適合性は、海外では10年以上前から議論されていたようです。10年ほど前に海外出張に行った際、「各国のコンプライアンス担当者は、Product Suitabilityに頭を悩ませている」と聞かされ、「Product Suitabilityって何だ?」と思った記憶があります。

商品適合性の概念が日本に輸入されたのはごく最近のことです。(監督指針Ⅳ3-3-2(10)①、日本証券業協会投資勧誘規則3条3項)

Product Suitabilityに「違反」するということはどういうことであり、また、違反した場合、金融商品取引業者等はいかなる不利益を受けるのか、ということについては、まだ、事例がまったくないので、即答できません。

ご参考までに私の実践経験をお話しすると、以前、ある会社のコンプライアンス部長だったとき、複雑な仕組みが載った仕組債の販売に関し、仕組み(デリバティブ取引)の値付けの透明性がないと認められる商品は、Product Suitabilityの観点から問題があると判断して、顧客が誰か以前の問題として、商品そのものを承認しなかったことがあります。

Product Suitabilityに問題があると判断される商品を顧客に販売することは、公益を害する行為であると考えたからです。(なお、当時はまだ証券取引法の時代でしたので、公益を害する行為だからという理由だけで、当局が業務改善命令を出すことはできませんでした。)

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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