検査の思い出6


昨年の8月17日に「検査の思い出5」を書いて以来の「思い出」の記事です。

当局検査の経験の中で、私にとってもっとも印象に残っている検査は、10年ほど前に受けた、ある証券会社(もう存在しません)の金融庁・証券取引等監視委員会による合同検査です。

私が、検査関係の話をするときには、ほとんどがこの会社の検査に関することです。「思い出深いから」ではありません。もう存在しない証券会社で起きた10年も前の話だからです。

<3段票>
今は制度が異なりますが、当時の金融庁の検査は、2段票、3段票という制度がありました。簡単に言ってしまうと、2段票は、1段目に金融庁の質問があり、2段目に会社が質問に対する回答を書く欄があるものです。3段票は、2段票であぶりだされた会社の問題点(指摘)が1段目にあり、2段目に指摘に対して会社はどう考えるか、3段目にだから会社は今後どうするのかを記載する欄があるものです。

正確な数字は覚えていませんが、当時私が勤めていた会社では、3段票が60枚程度あったと記憶しています。要するに、60件に及ぶ指摘があったということです。もっと言ってしまうと、60件もの不適切行為や法令違反があったということです。

今でもほとんど全ての指摘を覚えています。このとき指摘されたことが、その後の私のコンプライアンス活動の基礎に加えられました。

<分析力>
指摘の一つに、認可を得ずに店頭デリバティブ取引を行っていたというものがありました。

以下、証券会社の方でないと少しわかりにくいです。

対象は、外国会社が発行したEBでした。他社株転換社債と呼ばれることが多い証券です。EBは社債です。ですから、証券会社の登録を受けていれば、EBを海外から買い付けることも、国内の投資家に売り付ける(販売する)ことも、何ら問題がありません。

問題は、誰が組成にかかわったか、という点でした。組成とは、要するに作ることです。外国会社が発行したEBを誰が作ったのかという問題です。

EBは社債です。ですから、誰が作ったかといえば、当然、発行した外国会社です。以上、なのですが、EBの販売までの過程を一つ一つ分析すると、まず、日本の証券会社が、①発行者である外国会社に、デリバティブ取引を組み込んだ社債を発行させ、②それを買い付け、③国内投資家に販売するという順で行われます。②と③は、証券会社であれば基本的に誰でもできます。

指摘を受けたのは①でした。

当時、店頭デリバティブ取引の媒介や代理は、証券会社としての登録とは別に、認可が必要でした。けれども、指摘を受けた証券会社は、店頭デリバティブ取引の認可を受ける前に数件のEBを販売していました。

EBの販売までの過程で、証券会社は何らかの形で店頭デリバティブ取引にかかわっています。ですから、認可を受ける前にEBの販売をしていたということは、法律で要求されている認可を受けずに店頭デリバティブ取引にかかわっていたことになります。したがって、法令違反と指摘されたわけです。

この指摘が教訓になり、以後、私は、すべての取引について、発生から消滅までの考えつくあらゆる過程を分析・検証するようになりました。

例えば、匿名組合(TKと呼ばれます)を使った不動産の証券化商品の販売の場合は、①TKを組成する行為、②不動産を取得する行為、③ブリッジローン(つなぎ融資)に関する行為、④出資者を募る行為、⑤募った出資者に実際に金銭を出資させる行為、⑥レバレッジローンに関する行為、⑦出資者の損益計算書に与えるインパクト、⑧出資持分の譲渡に関する行為、⑨TKの終了に関する行為と、一口に、証券化商品の販売といっても、最低、9段階に分けて分析・検証することが求められます。

①から⑨のそれぞれの過程において、法令違反や不適切行為がないことを確認できたときに初めて、この証券化商品の販売に問題ないと判断します。いずれかの過程において少しでも法令違反の疑いがあるときは、この証券化商品の販売はできない、と判断するわけです。

以上のような分析をするようになって10年が経ちますが、分析する習慣と力がついたのは、当時の当局検査のおかげです。

証券会社に限らず、金融商品取引業者は、商品の販売をする際には、以上のような分析力が必須です。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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