シティバンク銀行の行政処分の記事


12月3日(土)の朝日新聞によると、金融庁が、シティバンク銀行に対して、業務停止命令を出す方針を固めたということです。シティバンク銀行の行員が、投資信託を顧客に販売する際、顧客に損失が生じる可能性を説明していなかったことが原因だということです。

朝日新聞の報道が本当だとしたら、金融商品取引法の観点からは、理解できない不思議な事件です。

<事件の起きる可能性は低い>
朝日新聞では「銀行法違反」と書いていますが、銀行であっても、投資信託を販売する際に適用される法律は銀行法ではなく、「金融商品取引法」です。

銀行は、金融商品取引法の定める「登録」を受けて、初めて、投資信託を販売することができます。登録を受けた銀行のことを、「登録金融機関」といいますが、シティバンク銀行などの銀行は、「登録金融機関」として投資信託を販売しています。そして、登録金融機関の業務を規制しているのは、銀行法ではなく、金融商品取引法なのです。

登録金融機関は、投資信託を顧客に販売する際、一般に、「契約締結前交付書面」という書面を顧客に交付する義務があります(金融商品取引法37条の3)。

契約締結前交付書面には、顧客に損失が生じる可能性があるときには、損失が生じるおそれがあることを記載しなければならないと金融商品取引法に規定されています。

つまり、行員は、投資信託を販売する際、損失が生じるおそれがあることが明記された契約締結前交付書面を顧客に交付するということになっているのですから、行員が、顧客に損失が生じるおそれを十分に説明しないという事件は、例外となる場合を除いて、起きる可能性が低いのです。

例外となる場合とは、1. 契約締結前交付書面に損失が生じる可能性(リスク)が書かれていなかった場合、2. 行員が、契約締結前交付書面を顧客に交付しないで、リスクを隠していた場合、3. 行員が、契約締結前交付書面を顧客に交付したが、「リスクがあると書いてありますが、本当はありません」とウソの説明をした場合など、いずれも、考えられない事態ばかりです。

<契約締結前交付書面にリスクが書いていなかった>
契約締結前交付書面は、一般に、商品を開発する部門が起案して、コンプライアンス部門など内部管理部門の審査を経て、社内のひな形として完成し、行員に利用されます。

万一、契約締結前交付書面にリスクが書いていなかったとしたら、審査を行った内部管理部門の責任は重大です。

<契約締結前交付書面を交付しなかった>
投資信託を販売するためには、行員は「外務員」といって、投資信託を販売するための「資格」を保有していなければなりません。

行員が、契約締結前交付書面を交付しなかったとしたら、行員の外務員としての処分(金融庁の委託を受けて日本証券業協会が行います)は、厳しいものになります。

<契約締結前交付書面は交付したがウソをついた>
金融書品取引法は、明文をもって、顧客にウソをつくことを禁止しています(金融商品取引法38条1号)。

行員が、ウソをついたとしたら、同様に外務員としての処分は、厳しいものになります。

以上のように、金融商品取引法は、行員(社員)が不正をできないように、二重三重の規制を設けていますので、朝日新聞で報じられた事件が起きる可能性は極めて低いのです。

最後に。記事は、シティバンク銀行が、「投信が損をするおそれがあることなどを十分に説明するよう行員に徹底して」いなかったと報じています。シティバンク銀行は、行員に対して、投資勧誘に関する社内研修を十分に行っていなかったという意味でしょう。もし、記事の内容が本当であるとすれば、報じられているCEOの交代にもまして、内部管理部門の刷新が求められる事件です。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。コンプライアンス・リスク管理コンサルタントとして、上場会社、が外資系企業など多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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