アセット・ファイナンス10


<金銭債権の信託>
A社がB社に対して金銭債権を所有しています。A社は3年待たなければB社から10億円を回収することができませんが、今、現金化するニーズがありました。

そこで、A社は、金銭債権をD信託銀行に信託しました。替わりに、A社はD信託銀行から信託受益権を取得しました。そして、A社は、「B社に対する金銭債権なら、すぐにでも欲しい」と言っているF社に信託受益権を譲渡(売却)しました。

こうして、A社は、3年待たなければ現金化できなかった金銭債権を、今、現金化することに成功しました、というのが、前回までに取り上げた事例のあらましです。

ここで、用語の整理をしておきましょう。

まず、金銭債権。これは、金銭の支払いを請求できる権利のことです。債権者が債務者に「利息を支払え」とか「貸したお金を返せ」とか請求する権利がそれです。

そして、信託受益権。単に、受益権ともいいます。信託銀行(信託会社のときもある)に「信託財産の運用益を支払え」と請求できる権利のことです。信託財産とは、運用益を生み出す財産のことですが、運用益が金銭の場合、結局、信託受益権は、金銭の支払いを請求できる権利になりますから、金銭債権だということになります。

次に、金銭債権の譲渡の対抗要件を確認しておきましょう。対抗要件というのは、「主張できる要件」のことでしたね。「この金銭債権の所有者は自分だ」と主張できる要件です。

債務者に対して、債権の譲受人が、「今の金銭債権の所有者は自分だ」と主張するためには、元の債権者が債務者に譲渡したことを通知するか、債務者が譲渡を承諾するか、いずれかの方法を採用しなければなりませんでした。ですから、この通知や承諾が、対抗要件ということになります。

以上を総合すると、A社は、F社に直接金銭債権を譲渡すると、F社に譲渡したことについて、B社への通知かB社からの承諾が必要になりますが、D信託銀行に信託すると、D信託銀行に譲渡したことについては、B社への通知かB社からの承諾が必要になりますが、F社に信託受益権を譲渡することについては、D信託銀行に通知するかD信託銀行から承諾を得ればよく、B社に対しては何もする必要がないことになります。

<二項有価証券>
さて、ようやく、金融商品取引法の出番です。

金銭債権の信託受益権化は、アセット・ファイナンスの方法の一つですが、信託受益権は、金融商品取引法で、「二項有価証券」とされています。つまり、金融商品取引法の規制が適用される、ということです。

では、どの段階で、金融商品取引法が適用されるのでしょうか。A社がD信託銀行に、金銭債権を信託したときか、A社が信託受益権を取得したときか、A社が信託受益権をF社に譲渡したときか。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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