アセット・ファイナンス20


信託受益権の「発行」は、1.委託者兼当初受益者であり、2.運用指図権が委託者にある場合には、委託者が信託受益権を売却したときです。

<発行>
「発行」の定義は金融商品取引法のどこを探してもありませんが、発行者に対して、投資家が発行代り金を支払ったとき、要するに、資金を提供したときが発行のときです。

もっとも、欧州の実務では、代り金の支払いは要件ではなく、単に、発行者が「発行した」と宣言すると発行になると聞いたことがありますが、真偽のほどは知りません。

<信託受益権の発行>
信託受益権は、金銭信託の場合、委託者が受託者に金銭を信託したときに発行されます。受託者を基点にして考えてみると、委託者は受託者に信託受益権の発行代り金を支払っているからです。

「受託者が発行しているのなら、受託者が発行者で、受託者の行為は私募(自己募集)になるんじゃない?」

と鋭い読者の皆様は考えるかもしれません。政策的には、そうすることもできたはずです。でも、金融商品取引法は、そうしませんでした。

金融商品取引法は、委託者兼当初受益者が信託財産の運用権限(指図権)をもっているときは、委託者が、受託者が発行した信託受益権を譲渡したときが「発行」だとしました。

なぜでしょうか。

<金融商品取引法の基本ルール>
金融商品取引法は、もともと、投資サービス法として誕生するはずでした。投資商品すべてに網をかける法律を前提にしたわけです。

結局、この壮大な目論見は実現しなかったため、有価証券とデリバティブ取引だけが対象になりました。そして、有価証券の定義を広げることによって、信託受益権や組合契約出資持分に対しても、金融商品取引法が適用されるように工夫しました。

ただ、投資サービス法の精神は、金融商品取引法の基本ルールの中で生かされています。具体的には、二項有価証券の定義に現れています。

二項有価証券は、信託受益権や組合出資持分のことですが、いずれも、運用権限がある者を発行者とみなしています。これが、金融商品取引法の基本ルールの一つです。

この基本ルールがあるから、「委託者が信託財産の運用指図権があるとき」には、委託者を発行者としたわけです。

<受託者が発行者になることはないのか>
すると、鋭い読者の皆様は、「受託者が運用権限を持っているときは受託者が発行者か」とご質問されるでしょう。

その通りです。金銭信託の場合、委託者兼当初受益者であっても、運用権限が受託者にある場合には、発行者は受託者です。そして、当然の帰結ですが、発行は、信託の効力が生じるとき、実務的には、通常、委託者が受託者に金銭を信託したときです。受託者が信託受益権を発行したときと言い換えても構いません。委託者兼当初受益者の金銭信託のうち、受託者に運用権限があるときには、信託受益権の発行が、金融商品取引法の発行に一致するわけです。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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