中央三井と野村証券


中央三井アセット信託銀行のファンドマネジャーが、インサイダー取引を行ったとして、証券取引等監視委員会が課徴金納付命令を出すように金融庁(長官)に勧告したと報道されています。

教科書的な説明を先に。

ファンドマネジャーとは、年金基金などを運用している担当者のことを指します。だから、仮に、インサイダー取引で利益を上げた者がいるとすると、中央三井アセット信託銀行ではなく、年金基金などのファンドです。ただ、インサイダー取引をしたのはファンドマネジャーですから、金融商品取引法に違反したのは、ファンドマネジャーです。

ファンドマネジャーは、野村証券の営業の女性からインサイダー情報を入手したと話しているようです。証券会社の「営業」は、まず、インサイダー情報を知る機会がありません。証券会社の内情を知らない方は、「営業」もインサイダー情報を持っていると考えがちですが、営業がインサイダー情報を持っているなんて、まず考えられません。

証券会社(に限りませんが)は、インサイダー情報を取扱う部署を他の部署から隔離しています。朝日新聞にも書いてありましたが、「チャイニーズ・ウォール」(万里の長城)とまで呼ばれる壁で隔離しているのです。

営業は、チャイニーズ・ウォールを越えることはまずできません。従って、営業がチャイニーズ・ウォールの中にあるインサイダー情報を知っているということは考えにくいわけです。

これも報道によれば、金融庁は、野村証券の情報管理について聞き取り調査を始めたとのことです。営業に漏れるはずのない情報が漏れていたというのですから大変です。事実なら、法人関係情報の管理不備という金融商品取引法違反で、行政処分です。

金融商品取引法は、インサイダー情報を投資家に提供して注文をとることを禁止していますので、野村証券の営業が、もしインサイダー情報を知っていたとすれば、営業の女性は、金融商品取引法違反です。

以上が、教科書的な説明です。

ただ、果たして、本当に、野村証券の営業の女性がインサイダー情報を持っていたのかどうか、個人的には甚だ疑問です。上に書いたように、複数の金融商品取引法違反が起こらないと、今回のインサイダー取引は成立しません。

複数名が同時に、金融商品取引法に違反するということは、通常では考えられません。

ファンドマネジャーは「市場のうわさだと思った」と言っているらしいです。本当にそう思っていたのかもしれません。野村証券の営業の女性も、もしかしたら、市場のうわさと思っていたのかもしれません。

さて、実務として、もし、ファンドマネジャーも、野村証券の営業も、実はインサイダー情報を持っていたわけではなく、単に、市場のうわさと信じて疑っていなかったとしたら、そして、それが、市場のうわさではなく、結果的に、本当の話だったとしたら、中央三井アセット信託銀行や野村証券、ファンドマネジャーや営業の女性は、金融商品取引法に違反したことになるでしょうか。

少なくてもインサイダー取引は刑罰が科される犯罪です。(過失規定がない以上)故意でなければ罰せられません。したがって、誰も、金融商品取引法違反していなかった、というのが意外にも真実かもしれません。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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