顧客のインサイダー取引の防止2


初め、経営者も、違法ではないんだから止められないだろうという判断でした。でも、私は引きません。議論が平行線になったので、経営者が「じゃあ、何をどうすれば良いか、具体的なルールを作ろう」と提案しました。そこで、経営者、私の同僚、私、それにトレーダーの4人で知恵を出し合いました。

私が気にしていた点は、内部情報を受け取った海外のヘッジファンドが取引をする、つまり、インサイダー取引をする可能性があるという点でした。

そこで、まず、トレーダーが海外のヘッジファンドにワラント債発行の情報を流す前に、メールで、「今からあなたに流そうとしている情報はインサイダー情報の可能性があります。インサイダー情報を知って取引をすることは、外国人であっても刑事罰をもって禁止されています。それを承知の上で情報を受領しますか」というメールを、宛名を海外のヘッジファンド、コピーをコンプライアンス部として送信するということを第一のルールとしました。

第二のルールは、第一のルールで受け取ったメールに「了解」というメールを返信してこなかったヘッジファンドにはワラント債発行の情報を流さないというものです。

第三のルールは、第二のルールでワラント債発行の情報を知ったヘッジファンドの名称等々をコンプライアンス部が管理簿で管理するというものでした。当然、そのヘッジファンドからワラント債を発行する予定の会社が発行する株式の売買注文があったら、絶対に受けないようにモニタリングするためです。

第三のルールには、コンプライアンス部はワラント債が実際に発行されるまで、あるいは、発行が中止となったことがわかるまで、発行する予定の株式の売買状況を特別にモニタリングするというルールも追加しました。

そして、最後のルールは、コンプライアンス部は、第三のルールで作った管理簿を、当局の検査の周期も考慮して、5年間保管することしました。

それでも、もしかすると、情報を知った海外のヘッジファンドは別の証券会社を使って、ワラント債を発行する予定の会社が発行する株式を売買するかもしれません。

ただ、証券会社としてできる限りのことはやったと思っていました。実際、トレーダーは、必ず、ルールを守り、情報の管理をするようになったのですから、大きな進歩です。

そこに、当局検査が入りました。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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