米国投資家によるインサイダー取引


証券取引等監視委員会が米国で行われたインサイダー取引を追っていると報道されています。

まずは用語の整理をして、証券取引等監視委員会の行動の是非について考えてみましょう。

<インサイダー取引>
事件は、東京電力(「東電」)による公募増資の情報が、公表される前に、米国の投資家が東電の株券を空売りしたというものです。

上場会社の未公表の重要事実を知りながら株券等を売買する行為が、不公正取引として金融商品取引法で禁止されているインサイダー取引です。事件に当てはめると、東電の未公表の公募増資情報を知りながら東電の株券を空売りしたというものです。

<公募増資>
増資とは、株式会社が、新たに株券を発行して資金調達する(お金を集める)ことをいいます。増資には、「株主割当増資」「第三者割当増資」「公募増資」の3種類があります。新たに発行する株券を株主だけに割り当てる(引き受けてもらう)増資が株主割当増資、特定の第三者に割り当てる増資が第三者割当増資、一般に引受人を募集する増資が「公募増資」です。

なお、いずれの単語も金融商品取引法の用語ではありません。

<空売り>
公募増資をすれば株式数が増えますから、会社の資産や利益を株式総数で割った値が小さくなります。一株当たりの資産や利益が小さくなるわけですから、株価は下落しやすくなります。

株価が下がると予想されるならあなたはどうしますか。売っておけばいいんです。

モノは通常買うことから始まります。買ったモノの価値が上がれば売却して利益を得ることができます。株券の場合、株券を借りてきて、先に売っておくことができます。売っておいて売ったモノの価値が下がれば買い戻して、借りていた株券を返して利益を得ることができます。借りてきただけで、実際に所有していないモノを売るので、空売り(カラウリ、ないモノを売ること)と呼びます。

米国の投資家が、東電の未公表の公募増資情報を知って、株価が下がると予想して、空売りをした疑いがあるというのが事件の概要です。

<証券取引等監視委員会>
証券取引等監視委員会とは、金融庁の下部組織ですが、独立して行動している「市場の監視役」です。組織は大きく分けると、証券会社など金融商品取引業者等を検査する部門と、インサイダー取引など市場の不公正取引を取り締まる部門とに分かれています。

今回は不公正取引を取り締まる部門が、米国で、やはり、不公正取引を取り締まっている機関(SEC)に、捜査協力を要請しているようだと報道されています。証券取引等監視委員会は、SECの捜査の結果、米国の投資家がインサイダー取引をしていた場合、課徴金(国に治めさせる反則金)を米国の投資家から徴収すると記事にはあります。

日本の証券取引等監視委員会が、米国在住の米国の投資家から「日本にお金を支払え!」と命じることができるのでしょうか。

正解は「できる」です。なぜなら、報道されていることが事実なら、米国の投資家は日本の株式市場を混乱させたことになるからです。

と、教科書的にはそうなるのでしょうが、果たしてそうでしょうか。そもそも金融商品取引法は、どうしてインサイダー取引を禁止しているのでしょうか。例えば、インサイダー取引が禁止されていない国の国民が、海外から、日本の株式市場でインサイダー取引をしたとき、責任を問えるのでしょうか。「法の不知はこれを許さず」の刑法の原則が通用するのでしょうか。これらの疑問は、機会を改めて検証します。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。コンプライアンス・リスク管理コンサルタントとして、上場会社、が外資系企業など多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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