公募債と私募債


友人の行政書士が中小企業に公募債の発行を勧めています。詳細は、ここです。

<中小企業による公募債の発行>
中小企業が公募債を発行したというニュースはなかなか聞きません。最大の理由は、中小企業の経営者が公募債を知らないか、誤解をしているからでしょう。

公募債は知らなくても私募債は知られています。なぜ、同じ社債なのに、差が出るのでしょうか。

複数のサイトを調べて理由がわかったような気がします。私が調べたサイトは(約20のサイトを調べました)、例外なく、「公募債は、有価証券届出書を提出するなど、複雑なので、中小企業が発行することは不可能」と書いていました。これでは、中小企業の経営者に公募債の記憶は残りませんよね。

公募債と私募債の規制のどちらが複雑かといえば、圧倒的に私募債の方が複雑です。

事実、証券会社のコンプライアンス部門は、私募債は難しい問題を含んでいるので悩みますが、公募債の発行では何も悩みません。

<簡単な公募債の発行手続き>
公募債の発行手続きは、非常に単純です。

発行総額が1億円以上の場合、発行者は、原則として、有価証券届出書を財務局に提出します。同時に、有価証券届出書に記載した内容をベースに目論見書を作成し、投資家に交付します。

有価証券届出書は、発行される公募債の情報である「証券情報」と発行者の情報である「企業情報」が記載されています。

証券情報は不変ですが、企業情報は時々刻々変化します。そこで、金融商品取引法は、発行者に、アップデートした企業情報を継続的に開示させるために、有価証券報告書を財務局に提出するように規定しています。

それだけです。

さらに、発行総額が1億円未満の場合、発行者は、有価証券通知書という書類を提出すればよく(これで終わり)、1千万円以下の場合は、有価証券通知書の提出すら要求されません。

この制度は、理にかなっていると思うので、複雑なことはありません。

<私募債は複雑>
私募債には2種類ありますが、通常、私募債といえば、50名未満にしか取得勧誘ができない社債を指します。

まず、この50名未満の計算が複雑です。

50名未満は、6か月通算です。例えば、9月30日に私募債を発行した場合、4月1日から同種の私募債を何人に勧誘したかを数え、その合計を50名未満に抑える必要があります。翌月になれば、1か月ずれます。

さらに、50名は延べ人数です。1人に2回取得勧誘をすれば、2名です。

人数を気にしなくても良い公募債に比べ、管理が複雑ではないでしょうか。この複雑さのために、証券会社のコンプライアンス部門は、公募債よりも、私募債で悩むんです。

<誤解だらけの公募債>
会社法の観点からは、公募債は、社債管理者を置かなければならないと誤解しているサイトもありました。

発行総額が3000万円の公募債を最小単位100万円で発行すれば、3000÷100=30ですから、社債管理者を置く必要がありません。

また、「公募債」でグーグル検索するとトップに表示されるKotobankで、公募債は、証券会社の引き受けが必要であるという間違った説明がされていました。証券会社の引き受けは義務ではありませんし、発行総額が1億円未満の場合、ロットが小さすぎて、引き受ける証券会社はないでしょう。(募集の取扱いをする証券会社はあるかもしれません。)

以上は、公募債を金融商品取引法から説明した場合です。公募債を、50名以上に取得勧誘する社債で、証券会社が引き受ける社債と定義すれば、Kotobankは正しいことになります。でも、それは、いかなる法律にも基づきません。

<公募債発行の勧め>
公募債と私募債の規制を比較すると、私募債の方が複雑です。私も、中小企業は、私募債を発行するくらいであれば、公募債を発行する方が良いと考えます。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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