私募の取扱い(4)


4月1日施行の「売出しの定義の改正」と「私売出し」については、こちら<平成21年改正法>をクリックしてご覧ください。



繰り返しになりますが、私募や私売出しとは、不特定多数に有価証券が譲渡されるおそれのない有価証券の発行・販売方式です。不特定でも少数ならば、少人数私募か少人数私売出し、多数でも特定なら適格機関投資家向け取得勧誘(いわゆるプロ私募)か、適格機関投資家向け売付け勧誘等(いわゆるプロ私売出し)、ある程度多数で特定なら特定投資家私募から特定投資家私売出しです。

前回に引続き、今回も、来年の改正金融商品取引法の施行に伴う他社株転換社債の私募の取扱いの話から始めます。前回は、プロ私募とプロ私売出しについて話しましたので、今回は、少人数私募と少人数私売出しについて話し、結論付けます。他社株転換社債の私募の取扱いについての改正法の影響は、プロ私募やプロ私売出し出はなく、少人数私募と少人数私売出しに起因します。

<少人数私募>
現行の金融商品取引法のもとでは、上場株券を対象にした他社株転換社債の少人数私募を禁止する規定がありません。少人数私募は、人数制限があるため、償還された株券が不特定多数の者に譲渡されるおそれがないという判断からだと思われますが、これはおかしな話です。50人未満の少数の者が上場株券を取得した場合でも、上場株券には色がないため、結局、市場に放出されると不特定多数の者に譲渡される可能性があるからです。

この欠陥を補うため、改正金融商品取引法は、少人数私募の場合にも、上場株券を対象にする他社株転換社債の発行を禁止する予定にしています。また、新たに追加される少人数私売出しについても、上場株券を対象にした他社株転換社債の売付けを禁止する予定にしています。

もっとも、この説明は一見すると納得してしまいますが、よく考えてみると、他社株転換社債が株券償還となったときに投資家が所有することになる株券は、既に発行され流通している株券ですから、株券償還は所有者の移転以外の何ものでもないことを考えると、この規制の意味がわかりません。

<結論>
いずれしても、改正金融商品取引法が来年施行されると、ソニーの株券など、上場株券を対象とする他社株転換社債は、募集か売出し以外の方法で発行することができなくなる予定であるということです。他社株転換社債の少人数向け勧誘は、多数の証券会社で日常的に行われていることから、この改正は、証券会社の実務に多大なインパクトがあります。なお、根拠条文は、改正定義府令の13条3項2号ニ、13条の7・3項2号ニ、13条の4・2項2号ニです。

<不可思議な私売出しの取扱い>
改正金融商品取引法では、まったく不思議なことが起きます。有価証券の販売形態には、発行前の販売形態として、募集と私募、発行後の販売形態として、売出しと私売出しが存在します。これ以外にはありません。金融商品取引法は、「有価証券の募集若しくは売出しの取扱い又は私募若しくは特定投資家向け売付け勧誘等の取扱い」を金融商品取引業の一つとして規定しています。

「若しくは」と「又は」が混在して読みにくいですが、要するに、「募集の取扱い」「売出しの取扱い」「私募の取扱い」「特定投資家私売出しの取扱い」は金融商品取引業であって、第一種金融商品取引業か、第二種金融商品取引業の登録を受けないとできないとしているわけです。

改正金融商品取引法で、発行・販売形態として、適格機関投資家私売出し(プロ私売出し)と少人数向け私売出し(少人数私売出し)が追加されます。ところが、平成21年改正金融商品取引法では、プロ私売り出しの取扱いと少人数私売出しの取扱いが金融商品取引業に追加されていません。(改正金融商品取引法2条8項9号参照)つまり、プロ私売出しと少人数私売出しは、金融商品取引業の登録を受けなくてもできる予定だということです。

これは、まったくおかしな話です。どうおかしいのかというと、有価証券の発行前に少人数又は適格機関投資家である投資家を探す行為は金融商品取引業であるから行為規制が適用されるのに対して、発行日まで我慢して待ってから投資家を探せば、金融商品取引業にはならないため、誰でも何の行為規制もなしに、有価証券を販売できることになるからです。

これには理由があります。私売出しは、有価証券の売買のカテゴリーに含まれるからです。有価証券の売買は、既に金融商品取引業なので、あらためて、私売出しを金融商品取引業とする必要はないからです。ただし、これは理屈になっていません。

現行の金融商品取引法にも、一つだけ私売出しがあり、それは特定投資家向け売付け勧誘等というもので、特定投資家のみを相手方とする売付けの勧誘等ですが、特定投資家向け売付け勧誘等も売買ですが、有価証券の売買のカテゴリーに含まれずに、私売出しとして別の金融商品取引業と規定されています。なぜなら、特定投資家向け売付け勧誘等は一方的な売付けであって、売買という買付けも想定した行為ではないからです。私売出しは例外なく、一方的な売付け行為です。ですから、改正金融商品取引法で新たに設けられたプロ私売出しや少人数私売出しも、別途、金融商品取引業として規定されなければならないのです。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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