社債の私募


社債の私募に関するご質問を受けたので、ブログで紹介することにします。

<社債の私募>
社債の私募は、新たに発行される予定の社債を49名以下の潜在的な投資家に対して、取得勧誘を行う行為を指します。

社債の私募については、有価証券届出書の提出が求められません。

原則として、社債の募集を行う発行者は、有価証券届出書を提出する義務を負います。有価証券届出書を提出しないで社債の募集を行うと懲役刑です。

なぜ、社債の募集には有価証券届出書の提出が求められるのでしょうか。

新たに発行される予定の社債の「価値」は、一般的に、まだ、取引が行われていないので、市場で決まりません。従って、金融商品取引法の直接の目的である「公正な価格形成」がなされることが期待できません。

有価証券届出書が提出され、あるいは、目論見書が潜在的な投資家に提供されると、潜在的な投資家は、社債の価値が妥当かどうかを判断することができます。この結果、新たに発行される予定の社債であっても、公正な価格形成がされることが期待できます。

この理由で、社債の募集には、有価証券届出書の提出が義務付けられています。

<49名のカウントの仕方>
頂いたご質問はこういうものです。

A株式会社が、同時期に3つの償還期限の異なる社債を発行することを予定している。投資家は、X一人である。A株式会社は、Xに対し、3つの社債を同時に取得勧誘したい。このとき、A株式会社は1名に取得勧誘を行ったことになるのか、それとも、3名に取得勧誘を行ったことになるのか。

<49名カウントの原理原則>
企業内容等開示ガイドライン二-二は、次のように説明しています。

「令第1条の6に規定する50名は、発行しようとする有価証券の取得勧誘の相手方に同種の新規発行証券の取得勧誘を行った相手方と同一の者が含まれる場合には、当該者も含めた延べ人数により計算することに留意する」

つまり、例えば、3つ「同種」の社債を発行する株式会社が、3つの社債の取得勧誘を一人の潜在的な投資家に対して取得勧誘をする場合には、延べ人数、つまり、3名に対して取得勧誘を行ったと計算しなさいということです。

<同種の社債>
ここで、同種の社債とは、定義布令10条の2から、発行者、通貨、利率、償還期限が同じ社債のことを指します。これらの条件のそろった社債は、たとえ回号を変えたとしても、同種の社債、わかりやすく言えば、一本の社債と同様に取り扱われます。

従って、いずれかの要件が異なる社債は同種の社債ではないため、回号が異なれば、複数の社債ということになります。

<金融行政の実務>
しかし、金融行政の実務では、「利率と償還期限を少しずらしただけの社債は、同種の社債と同視できるため、一本の社債として評価される」としています。

利率と償還期限を少しずらした異なる回号の社債を発行して、それぞれ、49名以下の潜在的な投資家に対して取得勧誘をしたとしても、そのような社債は一本の社債と評価できるから、すべての社債の取得勧誘の相手方の合計が50名以上の場合には、有価証券届出書の提出が必要である、ということです。

これは当然の帰結です。

なぜ、取得勧誘の相手方の数が49名以下だと有価証券届出書の提出が免除されるのか。理由は、最初にお話した有価証券届書の意味を考えればわかります。

49名以下の取得勧誘の場合、親兄弟、取引先、取引銀行など、発行者の財務状況などに精通している者が取得することが想定されます。「縁故債」と呼ばれる所以です。この場合には、有価証券届出書の提出がされない場合であっても、新たに発行される予定の社債の公正な価格形成がなされることが期待されるからです。

ところが、利率や償還期限が少しずれただけの複数の社債がほぼ同じ時期に発行される場合、このような社債を購入する者は、縁故者だけであるとは想定できません。従って、有価証券届出書の提出がされなければ、公正な価格形成がされることが期待できません。

金融庁(証券取引等監視委員会)の検査結果を見ると、株式会社の中には、毎月少人数私募で社債を発行している会社があるようですが、毎月発行していては、縁故者のみが取得するとは想定できませんので、例えば、回号が異なり、利率や償還期限が異なる社債が発行されているとしても、当然にして当然のことながら、有価証券届出書が提出されるべきです。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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