金商法の用語の整理1


新たに金融商品取引業者として登録を受けている方の数が再び増え始めているようですので、あらためて、用語の整理をシリーズでしておきたいと思います。

金商法2条8項に規定する有価証券の売買、有価証券の売買の媒介、取次ぎ又は代理は金融商品取引業として定義されています。基本的な定義なのですが、理解するのは実は容易なことではありません。

<有価証券の売買>
まず、有価証券の売買ですが、用語の整理として、「売買」「売付け」「買付け」という用語は、「既に発行された有価証券」の取引にしか使用できません。流通している有価証券の取引にしか使えないのです。

別の言い方をすると、新たに発行される有価証券、つまり、まだ発行されておらず、これから発行されようとしている有価証券の取引には、売買、売付け、買付けという行為が存在しません。金商法は不親切なため、このことはどこにも書いてありませんが、証券取引法が免許制だった頃の定義から明らかなのです。

では、有価証券の売買とは、既に流通している有価証券の売付けと買付けという行為のことを意味しているかと言えば、実はそうではありません。

有価証券の売買とは、行為を問題としているのではなく、「誰の計算」で有価証券の取引が行われたのかを意味しています。これも、証券取引法が免許制だった頃の定義から明らかです。

有価証券の売買や、売買の媒介、取次ぎ、代理の意味を真に理解するためのキーワードは「誰の名義」と「誰の計算」であって、行為だけを考えていては理解できません。

<自己の名義と自己の計算>
有価証券の売買とは、「自己の名義」で「自己の計算」で有価証券を買い付けたり、売付けたりする行為を指します。

ここで「自己」とは、金融商品取引業者のことを指します。つまり、有価証券の売買とは、「金商業者の名義」で「金商業者の計算」で有価証券の買付け又は売付けをする行為を意味します。

「名義」とは取引の相手方に伝える名義のことです。例えば、有価証券の買付けを行おうとする金商業者は「あなたから、買い付ける相手は私ですよ」ということを伝えて、有価証券の取引を行うことになります。この点は、行為規制の「取引態様の明示義務」(金商法37条の2)と密接にかかわってきますので、取引態様の明示義務の条文を読み直してみてください。

「計算」とは、売買の結果、有価証券の所有権が帰属する先を意味しています。

つまり、有価証券の売買とは、自己の名義を相手方に伝えて取引を行った結果、自己に所有権が帰属するということを意味しています。

特に重要なのは、所有権の帰属先です。有価証券を売ったり買ったりしても、所有権の帰属先が自己でない場合、このような取引は、金商法2条8項1号に規定する業としての「有価証券の売買」にあたりません。

ここまで、大丈夫でしょうか。

<有価証券の売買の業該当性>
良くある質問は、「個人が行う株券などの有価証券の売買は金融商品取引業なの?」というものです。

もし、個人が行う株券の売買が金商業に該当するとすれば、個人も金商業者の登録を受けなければなりません。

でも、大丈夫。一般的に、個人が行う有価証券の売買は、金商業ではありません。

「業」とは「反復継続性」と「対公衆性」が認められる取引を指します。個人が自分のポートフォリオを改善するために行う通常の有価証券の売買は、反復継続性が認められることはあっても、対公衆性が認められません。

従って、個人が行う有価証券の売買は、「業」に該当せず、金商業ではないため、金商業者として登録を受ける必要がないのです。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
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