弊害防止措置2


これまで、上場株券など、同種の有価証券が市場に流通していることを前提としていましたが、個別性の強い、不動産信託受益権など第二項有価証券に関しては、前回までにお話した弊害防止措置は不要ではないかという議論があります。

<第二項有価証券の場合>
第二項有価証券、例えば、不動産信託受益権の売買に関する情報を利用して、一種又は二種としての顧客の委託の申込みを禁止することも、この弊害防止措置の違反事例(法令違反)となるのでしょうか。

不動産信託受益権は個別性の強い有価証券ですから、上場株券の事例のようなことは発生しません。

ただ、例えば、助言業者が不動産証券化スキームの中で、SPCが所有する不動産信託受益権の売付けの助言をした際、この情報を利用して、二種業者しての顧客に「この不動産信託受益権の買付けのために、当社に委託の申込みをしませんか」と勧誘すると、助言業者としての金商業者は高く売りたいわけですが、情報を利用して、二種業者としての顧客の利益のために、安値でこの不動産信託受益権の買付けをさせるケースが発生する可能性があります。

この結果、高く売りたいという助言業者の顧客(この事例ではSPC)の利益と、安く買いたいという二種業者の顧客の利益とが相対立しています。つまり、弊害が生じしているのです。

だから、助言・運用の顧客(権利者)と一種・二種の顧客との間の取引規制である弊害防止措置は、第二項有価証券の取引にも適用されるわけです。

<現場の混乱>
「当社は助言と二種の登録を受けているから、SPCが所有する不動産信託受益権の売却をするとき、二種業者として不動産信託受益権の二種業者の顧客に対し、不動産信託受益権の買付けに関して委託の申込みをしているよ!」という助言業者の方は少なくないと思います。

この行為はすべて違法なのか。

繰り返しますが、違法となるのは、助言又は運用の情報を利用して、一種業者又は二種業者の委託の勧誘をしたときのみです。ですから、情報の利用がなければ、違法にはなりません。

<実務的対応>
ただ、助言・運用の顧客(権利者)の利益と一種・二種の顧客の利益が真っ向から対立しているとき、情報を利用していないと証明することは困難です。

ただし、問題の根源は、弊害が生ずるか否かにあるわけですから、助言・運用の結果生じる有価証券の売買等の価格と、一種・二種の取引のベースとなる有価証券の売買等の価格が、公正に評価された価格と一致すれば、弊害は生じないはずです。

ですから、例えば、助言業者がSPCの所有する不動産信託受益権の売付けの助言をし、かつ、二種業者として不動産信託受益権の売買等について委託の勧誘をする場合、金商業者は、複数の鑑定事務所に鑑定評価を提出させたり、複数の金商業者に不動産信託受益権の評価額を提示させたりして、公正な取引価格を確定し、この価格で取引を成立させれば、情報格差を利用した弊害は生ずることがありませんので、ここで説明してきた弊害が生じていないということを証明するためには、このような方策をとることが考えられます。

<情報の遮断>
ところで、情報隔壁について一言。

「弊害防止措置として助言・運用を行う部署と一種・二種を行う部署の間に情報隔壁(情報遮断)をしなければならないの?」と聞かれることがありますが、回答は「必要ない」です。同じ部署で行っても問題ありません。

ただ、金融庁は部署はもちろん、担当者も分ける必要がないと読めるような解釈をしていますが、私は、担当者は分けるべきだという立場です。弊害が生じるおそれのある状態は、公益又は投資者保護のために解消されるべきだからです。(金商法51条参照)

ただし、役職員数が少ないために分けられない場合もあると思います。この場合であっても、弊害が生ずるおそれ少ないことを担保するために、先ほど説明した方策を講じる必要があると考えます。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

コメント

非公開コメント

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
電話:03-5533-8785
http://office-jsl.com/

<お問い合わせ>
お問い合わせは、お問い合わせフォームで受け付けます。

<主な業務>
主な業務は、主な業務をご覧ください。

ブログの内容は個人的見解ですので、正確性は保証いたしません。また、ブログの内容に関する質問を含め、質問には一切回答いたしかねますので、ご了承ください。

プライバシーポリシー

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
Translation
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード