信託の受益権(3)


数種類ある信託の中で、最も利用されている信託は、不動産を信託財産とする不動産信託です。不動信託から上がる収益の分配を受ける権利は不動産信託受益権と呼ばれ、数多くの不動産が不動産信託受益権となって売買されています。でも、不動産の所有者は、どうして不動産を現物のまま売却しないで不動産信託受益権にして売却するのでしょうか。

<信託のメリット>
不動産の所有者が、不動産を信託銀行に信託譲渡して不動産信託受益権の受益者、つまり、委託者兼当初受益者となる場合の不動産の所有者(委託者)は、オリジネーターと呼ばれますが、オリジネーターにとって、不動産信託を利用するメリットは何か。理由は、大きく分けると2つあります。

<登録免許税の問題>
不動産を現物で売却すると、不動産の課税標準価額に一定の割合をかけた不動産登録免許税がかかります。原則として、不動産の移転登記の登録免許税は2%ですが、高額な不動産を売却すると登録免許税がばかになりません。

これに対して、不動産信託受益権の移転登記の登録免許税は、定額です。現在、不動産1個(筆)につき、1000円です。不動産信託の対象となる不動産の評価額は通常高額ですから、不動産を売却する者にとって、不動産を現物で売却するよりも、不動産信託受益権として売却した方が、税金がはるかに軽くなります。また、取得した側も売却に1000円しか登録免許税がかかりませんから換金し易いというメリットがあり、不動産信託受益権は、現物不動産と比較して、“流動性が高い”(=換金し易い)という利点があります。

<不動産の管理の問題>
外資系ファンドに多いのですが、日本の不動産に投資をする際、日本の不動産事情がわからないため、管理・運営を信託銀行に任せることを目的にして、不動産を信託するケースが数多くあります。

再び用語解説ですが、どの不動産に投資するのが良いかアドバイスをしたり、どのような仕組みにするのが良いかアドバイスしたり、建物の管理会社を選定したりする会社をAM(アセットマネジャー)と呼び、建物の管理会社をPM(プロパティマネジャー)と呼びます。

日本の不動産運用の事情がわからない外資系ファンドが日本の不動産に投資する際、信託銀行に不動産を信託して(所有権を移転して)、信託銀行がAMを決め、AMがPMを決めるなどして、外資系ファンドは何もしなくても、賃料収入だけを受け取ることができるという利点から、信託が利用されるわけです。

<金融商品取引法との関係>
不動産信託受益権は、信託銀行が発行します。信託銀行の行為は、金融商品取引法の範囲外の行為です。反対側から見て、委託者兼当初受益者が信託受益権を信託銀行から取得する行為も、もちろん、金融商品取引法の範囲外です。委託者兼当初受益者が、受益権を売却する行為は、どうでしょうか。勘違いされている方が多いですが、これも金融商品取引法の範囲の外です。

信託受益権の場合、信託受益権を発行するのは信託銀行ですが、金融商品取引法で、発行者を委託者兼当初受益者とすると別途定めています。ということは、委託者兼当初受益者が信託受益権を売却する行為は、いわゆる自己募集であって、信託受益権の自己募集は金融商品取引業ではありませんので、委託者兼当初受益者が受益権を売却する行為は、金融商品取引法の範囲の外ということになるからです。

委託者兼当初受益者から信託受益権を買付けた者が、買付けた信託受益権を売却することや売買の媒介をする行為は金融商品取引業になりますので、このような行為を行う会社は、第二種金融商品取引業の登録を受ける必要があります。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。コンプライアンス・リスク管理コンサルタントとして、上場会社、が外資系企業など多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所
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