金融商品取引法16


有価証券届出書の提出義務者、つまり、募集や売出しの対象となる有価証券の発行者には、「目論見書」を作成する義務が漏れなくついてきます。

逆にいえば、募集や売出しの対象となる有価証券の発行者なんだけれども、有価証券届出書の提出義務がない発行者は、「原則として」、目論見書を作成する必要はないということになります。

<有価証券届出書の提出義務のない発行者>
募集や売出しの対象となる有価証券の発行者なんだけれども、有価証券届出書の提出義務がない発行者とはどのような発行者か?

これは既にお話した通り、次のような発行者です。

1 ストックオプションの発行者

2 既に開示された有価証券の売出しの対象となる有価証券の発行者

3 国内で募集が行われなかった外国有価証券の発行者

4 発行価額・売出価額の総額が1億円未満の有価証券の募集又は売出しの対象となる有価証券の発行者

1は、ストックオプションの取得者は、既に発行者の情報を良く知っているからです。3は、取引価格に発行者の情報が反映されていると期待されているからです。4は、発行者の負担を軽減する趣旨です。

<目論見書の作成が義務付けられる場合>
では、2はどうか?

2について、有価証券届出書の提出義務がない理由は、既に企業情報と証券情報が開示されているから、2度も有価証券届出書の提出義務を課すのは、過剰規制だろうという判断からです。

でも、2の場合、もし、売出人がもっている企業情報と投資家がもっている企業情報の間に、格段の格差があった場合は、様子が違います。

ちょっと難しく聞こえるかもしれませんが、「売出人が企業情報を持っている」という状態は、特殊な状態であることはわかりますか?

売出人は、通常、有価証券の発行者ではありません。初めのうちは、ここを混乱しがちなので、少し、解説を加えます。

発行者が有価証券を販売する行為は、募集です。募集の場合、資金調達をする者と発行者は一致します。だから、当然、かどうかはわかりませんが、発行者は自分に有利な価格(高値)で有価証券を発行しようとします。

このままでは情報量において発行者に劣る投資家に不測の損害が生じる可能性がある。だから、発行者に企業情報を開示させる、つまり、有価証券届出書の提出義務を課す必要があるわけです。

一方、売出人は、通常、発行者ではなく、発行者とは他人で、(たまたま)ある発行者が発行した有価証券を大量に所有していた者です。

いいですか?

ということは、既に開示が行われている有価証券の売出人がもっている企業情報と、投資家がもっている企業情報に格差はないはずです。だから、既に開示された有価証券の売出しには、発行者による有価証券届出書の提出義務がないのです。

でも、例外もあります。どんな場合でしょう?

それは、売出人が発行者や発行者と密接な関係のある者だった場合です。このときは、売出人イコール発行者の方が、情報量において投資家に優っています。

そこで、金商法は、売出人が発行者や発行者と密接な関係にある者、例えば、有価証券の残額引受けをした者であった場合には、直接開示、つまり、発行者による目論見書の作成義務を課しています。

ここまで、大丈夫でしょうか?

既に開示が行われた有価証券の売出しが行われる際には、発行者に有価証券届出書の提出義務はありませんが、売出人が発行者や関係者だった場合には、発行者に目論見書の作成義務は課したということです。

<売出有価要件の再販>
有価証券取引の実務では、こういう問題(本当は問題ではない)が起きています。

発行者が有価証券届出書を提出した有価証券の売出しを行った証券会社が、投資家から買い戻した有価証券を再び販売する(売出しする)ことができるかということが、証券会社で真剣に議論されることがあります。

既に開示が行われた有価証券を買い戻した証券会社は、買い戻した有価証券を、目論見書を交付することなく、再び50名以上の投資家に売付け勧誘等をすることができるか(売出しによる再販は可能か?)という議論です。

できるでしょうか?

正解は、原則として、できるです。

既に開示が行われた有価証券の売出人となる証券会社が、発行者や発行者の関係者であれば別ですが、そうでなければ、既に開示が行われた有価証券の発行者には、目論見書の作成義務がないのですから、当然のことながら、目論見書を交付することなく、売出しによる再販が可能です

実務では、なぜか、再販しようとする証券会社の中に、勧誘の相手方の数を49名以下にしている証券会社がいますが、何の法的根拠もない無駄な行為です。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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