不動産信託受益権の引受け


最近、立て続けに、不動産信託受益権の引受けに関する質問を受けたので、ここでまとめておくことにします。

二種業者による不動産信託受益権の譲受の場面は、大きく分けると2つあります。一つは、不動産ファンドの出口で見られる不動産信託受益権の売買の際にいったん譲受する行為、もう一つは、オリジネーターが不動産信託受益権を譲渡する際、最終投資家に取得させることを目的にいったん取得する行為です。

<不動産信託受益権の売買>
不動産ファンドが所有していた不動産信託受益権を別の不動産ファンドに譲渡する場合など、既に発行された不動産信託受益権の譲渡・譲受のことを、金商法は、「有価証券の売買」(金商法2条8項1号)として、金商業と位置付けています。

不動産信託受益権(=有価証券)が売買される際、二種業者がいったん譲り受けて、販売する場合、譲り受ける行為は、「買付け」という金商業です。二種業者は、不動産信託受益権を買い付けることができます。

ここまでは、OK。

<不動産信託受益権の私募>
これに対して、新たに発行される不動産信託受益権の譲渡は「発行」であり、譲受は「取得」と呼ばれます。

新たに発行される不動産信託受益権とは、発行される予定なんだけれども、まだ、発行されていない不動産信託受益権のことです。

<不動産信託受益権の発行>
不動産信託受益権の発行とは、委託者である現物不動産の所有者が信託銀行に不動産を信託し、委託者の指図の元、受益者として、最初に、不動産信託受益権を引き受け、引き受けた不動産信託受益権を譲渡する行為です。

なんだか、ややっこしいですが、不動産信託受益権に関する委託者兼当初受益者が譲渡する行為が不動産信託受益権の発行です。

不動産信託受益権は、通常、私募で発行されます。

不動産信託受益権の私募とは、発行される不動産信託受益権の所有者が500名未満の場合の発行形態のことを指します。

ここまで、大丈夫でしょうか。

<ブリッジ>
委託者兼当初受益者が不動産信託受益権をSPCなどの投資家に譲渡する行為は、金商業ではありません。もちろん、SPCが不動産信託受益権を取得する行為も、金商業ではありません。

一方、不動産信託受益権が発行される際、取得資金がまだないなど、何らかの事情で、投資家が委託者兼当初受益者から、直接取得することができず、ブリッジ(橋渡し)的に、二種業者がいったん不動産信託受益権を取得する行為は、「有価証券の引受け」という金商業です。

ここで問題となるのは、有価証券、この場合は、不動産信託受益権ですが、不動産信託受益権を投資家に取得させることを目的として、いったん取得する有価証券の引受けは、第一種金融商品取引業であることです。

つまり、二種業者は、委託者兼当初受益者(オリジネーターと呼ばれます)から、投資家に取得させるために、いったん取得することは、一定の例外を除いて、できないということです。

<有価証券の引受けを二種業者ができない理由>
不動産信託受益権の場合は、二種業者は、投資家に売り付けるために、いったん、買い付けることができるのに、どうして、投資家に所得させるために、発行者であるオリジネーターからいったん取得することができないのでしょうか。

理由は、投資家が引きるべきリスクを二種業者が引き受けてしまうからと考えられます。

不動産信託受益権の売買の場合、二種業者が買い付ける行為は、自己で引き受けるべきリスクを自己で引き受けているので、計算がたちます。

一方、不動産信託受益権が発行されて投資家が取得する際に、二種業者が引き受ける行為は、本来、投資家が引き受けるべきリスクを二種業者が引き受けてしまいます。

二種業者は、資本金が10百万円であること、一種業者のようにリスクを計量化できるだけの組織体制の構築が求められていないことから、二種業者には有価証券、この場合は、不動産信託受益権の引受けが認められていないと考えられます。

二種業者が、ブリッジ的に、オリジネーターから不動産信託受益権を引き受けてしまうと、引き受けた二種業者が一種登録をしたいない限り、無登録営業です。

不動産信託受益権の引受けができるのは一種業者、具体的には、証券会社しかあり得ないわけです。

<証券会社は二種登録が必要か>
次に、一種業である証券会社の立場に立って考えてみましょう。

ここに、二種登録をしていない証券会社があるとします。二種登録をしていないのだから、当然、不動産信託受益権の売買はできません。(金商法28条1項1号、29条2項2号)

一方、有価証券の引受けの場合の有価証券には、制限(第一項有価証券で得ければならないという制限)がありません。だから、一見すると、証券会社は第二項有価証券である不動産信託受益権であっても、取得させるために取得すること(買取引受けと呼びます)ができそうです。

ところが、不動産信託受益権を、投資家に取得させるためにいったん取得する場合、取得させる行為が私募の取扱いである二種業務です。だから、一種登録しかしていない証券会社は、不動産信託受益権の引受けができないのです。

<例外>
唯一、二種登録をしていない証券会社が不動産信託受益権(第二項有価証券)の引受けができる場合があります。

私募の取扱いを伴わない残額引受けをする場合です。

有価証券の引受けには、投資家に取得させるためにいったん取得する「買取引受け」と、いわゆる売れ残ってしまったら引き受けるという契約をする「残額引受け」の二種類があります。

残額引受けであって、証券会社が私募の取扱いをしない場合には、つまり、発行者である委託者兼当初受益者(オリジネーター)が自ら投資家に対して取得勧誘をして、売れ残ってしまった場合の資金調達リスクだけを証券会社が引き受ける場合には、二種登録をしていない証券会社でも、不動産信託受益権の引受けをすることが可能です。

有価証券の引受けは、かなり、難しい概念ですから、理解するためには、相当な勉強量が必要です。勉強している時間がない場合には、「引受かな?」と思ったら、必ず、専門家に相談するようにしましょう。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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